実家の売却は相続前? それとも相続後?
最近、「私の実家、親の相続後はだれも住む人がいないので売却しようと思っているんですが、相続前に売却したほうがいいんですか?」という相談を受けるようになりました。税務上どちらが有利なのでしょうか考えてみました。
【相続前に売ったほうがいい場合】
税務上、マイホームを売却した場合の優遇措置は2つあります。ひとつは売却益のうち3,000万円まで税金がかからない「居住用不動産の3,000万円控除」もう一つは「居住不動産の軽減税率」です。この2つは要件を満たせば両方適用することができます。 「居住用不動産の3,000万円控除」には居住期間の要件や所有期間の要件などありません。「居住用の軽減税率」は10年以上所有していた居住用不動産を譲渡した場合に通常の税率(20.315%)ではなく6,000万円までの部分について軽減税率(14.21%)の適用が受けられるというものです。たとえば一人暮らしの親に相続が発生し、別居している相続人がその物件を相続したのち譲渡しても3,000万円控除も軽減税率も使うことができません。この場合、「生前に譲渡してもらっていたら特例が使えていたのに…」ということになります。
【相続後に売ったほうがいい場合】
一方、相続税にも居住用の特例があります。被相続人の自宅の敷地の敷地や貸宅地を一定の親族が相続した場合に最大80%減額できるという制度です。居住用、事業用、賃貸用不動産を複数所有している相続ではこの「小規模宅地の評価減」をどう使いこなすかが節税のポイントとなります。 親と10年以上同居していた兄弟が、その不動産を相続して、2〜3年後に売却した場合などは相続税の「小規模宅地の評価減」、所得税の「居住用不動産の3,000万円控除」「居住不動産の軽減税率」のすべてが使えることになり大幅な節税が可能となります。この場合は、相続後に売却したほうがいいことになります。
【結局は…】
相続前にシミュレーションするとなると、誰がどの財産を取得するのか?取得価額はいくらだったのか? なども加味して慎重に計算しなければなりません。また、売却して現金化しておいたほうがみんなで分割しやすい、相続後だといい値段で売却できないなどいろんな論点から検討が必要となってきますので相続譲渡に詳しい税理士でなければ答えを導き出せません。 ただし、どのようなシミュレーションが出ても忘れてはならないことは「育ててくれた親がいま何を望んでいるのか」ということです。
内藤 克(ナイトウ カツミ)税理士法人アーク&パートナーズ(東京、有楽町)代表税理士、東京税理士会所属。税理士法人アーク&パートナーズ代表。ハワイと日本の税務法務専門家ネットワーク「ハワイ相続プロジェクト」代表。 弁護士会、金融機関、後継者団体で事業承継講演のほか、日経新聞・日経各誌への執筆実績多数。 |