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日本の相続は今…【第22回 贈与税を回避】

名義を戻して 贈与税を回避

 

ハワイの不動産を購入する時はプロベートを回避するため、単独所有ではなくジョイントテナンシーで登記するのが一般的です。

 

しかし夫婦間でも贈与税や相続税がかかる日本の税制ではジョイントテナンシーも贈与税の対象となります。夫婦のどちらか一方が資金を負担して共有名義にしたら贈与税がかかることは、日本人であれば皆知っています。しかしハワイで不動産を購入するとなるとすっかりそのことを忘れてしまうのです。ハワイの物件だから日本の税法が適用されないと思っているのか、ハワイのエージェントの言われるままに(とくに日本人は「みなさんこうしていますよ」に弱い)何も考えずに登記を進めてしまうのかわかりませんが、いずれにせよ日本とハワイの両方に精通した専門家が少ないためにこのような税務のトラブルが起きてしまうのではないかと思います。

 

以前、ほかのコラムで紹介したこともありますが、先祖代々の同族株式を数十億円で譲渡したお客様がいらっしゃいました。申告したらすぐに所得税の税務調査が来て、数日間にわたる厳しいやりとりの末、無事に調査終了となる予定でした。

 

調査終了も近づくある日「受け取ったお金はいまどのような財産になっていますか?」と聞かれ「ハワイの不動産の購入に充てました」と答えました。そしたら翌週に「譲渡所得税の調査は終了しましたが、奥様への贈与税の調査に切り替えるのでよろしくお願いします」と連絡がありました。税務署員がハワイの不動産が夫婦共有名義になっていることを調べ上げたのです。

 

共有名義にはなっていましたが確定申告も本人単独で行い、国外財産調書も本人の財産として記載しており、贈与の意図もなく便宜上のものであると主張しましたが、不動産に関しては名義で判断せざるを得ないとの回答でした。しかたなく「名義を元に戻すので贈与税の対象にはしないで欲しい」と主張したところ、何度かのやり取りの結果「そのように扱って良いという通達があるので認めます」と了解してくれました。急いで名義変更手続きをハワイの弁護士に依頼し、贈与税の課税にはいたりませんでした。

 

その通達は昭和39年5月23日に当時の国税庁長官から各国税局長にあてた「名義変更が行われた後にその取り消しがあった場合の贈与税の取り扱いについて」というものです。

 

この通達は、「うっかり他人名義で登記しても贈与の意図がなく錯誤である場合は、名義を戻せば贈与がなかったものとして取り扱う」という、まさに庶民の味方というべき心強い通達なのです。

 

 

内藤 克(ナイトウ カツミ)

税理士法人アーク&パートナーズ(東京、有楽町)代表税理士、東京税理士会所属。税理士法人アーク&パートナーズ代表。ハワイと日本の税務法務専門家ネットワーク「ハワイ相続プロジェクト」代表。 弁護士会、金融機関、後継者団体で事業承継講演のほか、日経新聞・日経各誌への執筆実績多数。

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