日本では退職金の受け取りに対して所得税、相続税ともに税制上特別扱いをしています。ほとんどの企業は終身雇用で、退職時には退職金を受け取ることができます。終身雇用で退職するということは「人は一生に一度しか退職金を受け取らない」という前提となっているので優遇されているでしょう。サラリーマンの場合は自分のタイミングで退職金を支給することはできませんが、オーナー社長であれば退職のタイミングも自ら決めることができるため、計画的な節税策として退職金はしばしば活用されます。
所得税の扱い
生存している間に退職金を受け取る(定年退職や中途退職)と退職所得となり、所得税が課税されます。その場合は、次の計算式に基づき所得税を計算することになります。
退職所得に対する所得税=(退職金の額-*退職所得控除額)×1/2×所得税率
*退職所得控除額とは
勤続年数が20年以下の場合:40万円×勤続年数
勤続年数が20年超の場合:800万円 +70万円 × (勤続年数–20年)
つまり、退職所得控除後に1/2して、給与などの他の所得と合算せずに所得税計算をする(分離課税)ためかなりほかの所得に比べて格段有利になります。日本の所得税(住民税含む)の最高税率は55%ですが退職所得の場合は税金計算の途中で1/2されるので税率も27.5%を超えない仕組みになっています。
相続税の扱い
死亡して遺族が受け取る退職金は相続税の対象となります。死亡退職金は「会社との取り決めにより遺族が受け取るものなので分割協議の対象となる民法上の相続財産ではありませんが、経済効果が同一であることから相続税の対象とする「みなし相続財産」という扱いになっています。
相続税には基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)がありますが、死亡退職金にはさらに法定相続人×500万円の非課税金額が別枠で設けられています。これは相続人のうちの一人が受け取っても受け取らなかった相続人の非課税枠も使えるので非常に有利となっています。
例えば相続人が妻と子供2人であった場合などは基礎控除4,800万円+退職金非課税1,500万円=6,300万円までは退職金を受け取っても相続税はかかりません(ほかの財産がゼロという前提ですが)。
「日本人は一生に一度しか退職しない」という働き方が見直されれば、この有利な税制もなくなるかもしれません。
内藤 克(ナイトウ カツミ)税理士法人アーク&パートナーズ(東京、有楽町)代表税理士、東京税理士会所属。税理士法人アーク&パートナーズ代表。ハワイと日本の税務法務専門家ネットワーク「ハワイ相続プロジェクト」代表。 弁護士会、金融機関、後継者団体で事業承継講演のほか、日経新聞・日経各誌への執筆実績多数。 |