日刊サンWEB

過去記事サイト

日本の相続は今…【第15回 日本の弟の税金まで?】

 

日本にいる弟の税金まで 払わなければいけない?

日本の相続税の計算は「遺産課税方式」といって被相続人(亡くなった人)の財産全体に税金をかける方法です(アメリカもこれに近いと思います)。この方法の特徴はどのような遺産分割をしても税金が同じくなることです。これに対してほかの多くの国では「遺産取得税方式」が採用されています。こちらは各人が相続で取得した分についてそれぞれに税率を乗じて計算する方式です。個人の税金は所得や財産が大きくなると税率も上がるため税金が加速度的に増えますので、こちらの方法ですと被相続人の財産が同額なのに相続人(財産を受け取る人)間の分割(誰がいくら取得するか)によって相続税の総額が変動してしまうという矛盾が生じてしまいます。  

この「遺産課税方式」を日本は採用しているために相続人全員で納税するという考えが前提となっております。その結果、誰かが納税しなければ他の相続人が責任を取って納税するという「連帯納付義務」が課されているのです。  

日本の場合、申告するときは相続人全員が一枚の申告書に連名して押印して提出するのですが、納付は各人がバラバラに行いますからお互いに誰が納付済みで誰が未納付なのかわかりません。未納の相続人がいた場合、税務署はまずは本人に対して督促をしますが、それでも納付されないと「連帯納付義務」に基づいた差し押さえなどを行うことになってしまうのです。  

 

例えば日本にいる父親に相続が発生して子供3人が財産を取得したとします。そのうち一人がハワイに在住しており、その人は自分の分の税金は完納してホッとしていても、1人でも納付していなければハワイの相続人に「あなたは連帯納付義務者ですので、未納者に代わって税金を払ってください」という通知を受け取ることになります。この連帯納付義務についてはあまり知られていないのですが「自分は納付したのに弟の分まで税金を払う必要はない」と主張しても通らないのです。(とはいえ税務署もハワイまで追いかけてくるケースは少ないとは思いますが…)  

この段階まで未納となっていると延滞税もかなりの額になってきますし、これをきっかけに人間関係が崩壊してしまうこともあります。これらを考えると、「いざ相続が発生した場合いくら税金がかかるのか」をまず把握したうえで、いつ相続が発生しても相続税を払える準備(納税資金準備)を行っておく必要があるといえます。

 

(日刊サン 2016/11/22)

 

内藤 克(ナイトウ カツミ)

税理士法人アーク&パートナーズ(東京、有楽町)代表税理士、東京税理士会所属。税理士法人アーク&パートナーズ代表。ハワイと日本の税務法務専門家ネットワーク「ハワイ相続プロジェクト」代表。 弁護士会、金融機関、後継者団体で事業承継講演のほか、日経新聞・日経各誌への執筆実績多数。

www.the-arcist.com