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相続放棄はカンタンではない

日本は「法定相続制度」を導入しているため、いらない財産でも法定相続人は原則として相続しなければなりませんし、借金も相続しなければなりません。「ハワイに住んでいるから日本の田舎の自宅なんかいらない」とか「親の残した日本での借金をハワイにいる私が引き継ぎたくない」という方は多いと思います。  

このような場合、相続開始から3ヶ月以内に裁判所で「相続放棄の手続き」をしなければなりません。  

原則は3ヶ月となっていますが、被相続人(亡くなった方)の財産債務状況を知らなかったと認められる場合にはその期間を過ぎても認められるケースもあります。つまりこんなに借金だらけだとは知らなかったという場合です。  

また財産を受け取らないからといって必ずしも裁判所で「放棄」の手続きをしなければならないわけでもありません。たとえば親の財産をこども3人で相続するときに「おれはさんざん親に迷惑かけたから今回は遠慮しておく。お前たち2人で分けてくれ」という場合は分割協議書に他の2人が相続する財産を列記して3人で署名捺印すればいいのです。つまり「なにも相続しない」と積極的に記載しなくても自分以外の2人で取得するという文書に合意すればいいだけなのです。  

 

相続放棄の注意点は「放棄したからといって借金が消滅するわけではない」ということです。民法では法定相続人が定められており、血族相続人の順番が決まっています。第一順位は「子もしくは孫」、第二順位は「親」、第三順位は「兄弟姉妹」となっていますので子供たちが相続を放棄すれば第二順位の親たちに、そして親たちが放棄をすれば兄弟姉妹に相続が回ってきます。つまり借金があるから相続を放棄する場合は放棄の連鎖が生じるため、あらかじめ親戚一同に相談しておく必要があるのです。  

また、親に多額の借金があることを知っていた場合などは放棄できますが、親が他人の借金の連帯保証人になっていた場合などは把握しにくいので注意が必要です。連帯保証人はあくまで債務者が返済できなくなった場合に責任が生じるのですが、被相続人(保証人)に相続が発生した時点では債務者が順調に返済していても、その後返済できなくなった場合などは相続人が返済義務を負うことになります。家賃の保証人、就職時の保証人、借り入れの保証人など保証人を引き受ける際に気軽にハンコを押す場合が多いので、親が元気なうちに「誰かの保証人になっていない?」と確認しておく必要があります。

 

 

 

(日刊サン 2016/11/8)

 

内藤 克(ナイトウ カツミ)

税理士法人アーク&パートナーズ(東京、有楽町)代表税理士、東京税理士会所属。税理士法人アーク&パートナーズ代表。ハワイと日本の税務法務専門家ネットワーク「ハワイ相続プロジェクト」代表。 弁護士会、金融機関、後継者団体で事業承継講演のほか、日経新聞・日経各誌への執筆実績多数。

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