“若葉ネットワーク”をご存知だろうか。ハワイに住む日系人のトラブルや被害のサポートや、高齢者支援をするために設立されたNPO法人で、今年で5周年を迎える。先ごろ新役員の発表や記念行事が催され、昨年、女性で初めてホノルル市警察署長に就任したスーザン・バラードさんも臨席。邦人の安全確保に対する取り組み報告や、女性署長ならではの温かでユーモアのあるスピーチを述べ、大きな拍手がわいていた。若葉ネットワークの大塚美枝子会長に、これまでの会の歩みや活動を聞いた。
会長、大塚美枝子さんの 波乱万丈の人生経験が礎
まず、大塚さんの経歴はかなり波乱万丈だ。1974年日本の大学卒業後、単身ハワイにやってきた目的はなんと「パイロットになるため!」。猛勉強の末、日本人女性で初めて事業用操縦士免許と、計器飛行免許などを取得。11人乗りの双発機を買い、日本人専用の島巡りの会社“サークル・レインボー航空”を1979年に設立した。自ら操縦桿を握り、7島巡りのスカイツアーは日本人観光客の歓声を乗せて順調にフライト、3年目には5機の飛行機を有する会社に成長した。そんなお嬢さんパイロットの奮闘記はテレビドラマになったほどだ。
好奇心が強くて、人のやっていないことにチャレンジするのが大好きなんです。父は特攻隊の少年飛行兵でしたので、親子二代続くパイロットでもありますね。サークル・レインボー航空を一緒に設立したダグラスは、のちに私の夫となって生涯、最高のパートナーでした。1992年にはホノルル国際空港内に自社ビルを建設することもできました。プライベートジェットの先駆けとして、世界各地の大富豪などを乗せてハワイに飛び、自社ビル内のVIPルームを利用していただいたり。航空機の給油や運行管理をする会社も新たに設立し、事業は大きく拡大していました。
1995年、ホノルル日本人商工会議所 初の女性会頭に就任
ホノルル日本人商工会議所の、初の女性会頭に就任したのもその頃だ。オープンハートで誰とでもフランクに付き合う大塚さんは、国連女性開発委員会、日米協会、ハワイ日本文化センター、ハワイ青少年麻薬・犯罪取り締まり委員会などなど、多くのコミュニティの重鎮としても働き、地域社会に貢献した。その頃築いた人脈は、現在の活動にも役立っているという。
人とのつながりは一朝一夕に築けるものではありません。仕事でもプライベートでも利害なく相手に仕える、役立つことができた時、絆ができてくるのではないでしょうか。誰々さんを知っているというだけの人脈ではなく、人との絆を太く長く保てていることが私の一番大切な財産になってくれています。一方で暗雲も。大手航空会社が大塚さんとのテナント契約を解除したり、燃料費の高騰などで事業は不振に。社員の引き抜きや詐欺師にあうなど悪事も重なり、2001年に会社更生法を申請。残念でしたが、無借金で会社を引き上げることができたのはことには安堵しましたね。
最愛の夫の急死、人の役に立つことへの希望
夫のダグラスはアメリカ連邦航空局に再就職し、事故捜査委員のパイロットとしてメインランドに単身赴任しました。私は近所に住んでいた高齢の両親と暮らすため、家を二世帯住宅に改築するなどして夫の帰りを待つ日々。そんな、あと数カ月で家族が全員一緒に暮らせるという時突然、軍人風の男性二人が私を訪ねてきて。ダグラスがカリフォルニアの海上を飛行機で捜査中、海に墜落して死んだというのです。私はその日から2週間以上言語障害に陥って声が出なくなってしまった。感情がコントロールできないまま、涙だけが出続けて。何度も自殺を考える暗黒の毎日でした。
事業の成功と失敗、さまざまなコミュニティでの活躍、そして最愛の家族の死……夫を亡くしてからの大塚さんは1年近く引きこもり、失意の日々を送っていた。ある時、近所のおばあさんが大塚さんに電球を取り替えて欲しいと頼みに来た。新しい電球に取り替えると、おばあさんは満面の笑顔で喜び、ありがとうを繰り返した。その時、大塚さんの心のスイッチもオンした。私の手助けを喜んでくれる人がいる、いてくれる。それなら今までの自分の経験を生かして、なにか社会貢献ができないだろうかと、心が前向きに動くようになっていきました。そんな折、知人が高齢者の支援団体であるProject Dana(プロジェクト・ダナ)を紹介してくれたんです。ダナはアメリカの政府も認可する歴史ある支援団体で、シニアの方の訪問や介護、さまざまな支援サービスを行い、その活動にはすべて保険をかけるなど、バックアップ体制も整えられています。私も高齢者施設への慰問に参加して、一緒に歌ったりハンドマッサージをしているうちに、癒しているつもりの私が癒されていることに気がつきました。これこそ私の残りの人生の活動起点だと思ったんです。
トラブルや被害で 泣き寝入りする日系人は多い
ハワイに住む日系人の中には、英語が不自由で日々の生活にお困りの方も多い。銀行や保険会社、公共機関との英語のやりとりから始まって、車を運転中の事故、不動産の売買に関すること、DVや離婚問題、生活の中でさまざまなトラブルに巻き込まれます。 実は私も夫を亡くした後、結婚詐欺に巻き込まれそうになったことがありました。詐欺師は本当に巧妙ですからね。今、シニアをターゲットにしたメディケア詐欺が大問題になっていますが、犯罪は裏のウラを突いて狙ってきます。日系人は言葉の壁だけでなく、法律や制度、慣習などアメリカ社会ならではのルールや対処方法も不得手です。そういう日本人の困りごとのサポートをするために、法律や不動産、医師や介護士などと連携して対応できる体制作りが大切だと、まず専門家のネットワーク作りをしました。今まで培ってきた各界のスペシャリスト達は、主旨に賛同して若葉ネットワークの顧問や役員を引き受けてくれました。
ホノルル警察や弁護士、専門家と提携し 無料相談、問題解決のサポート
2013年、NPO法人若葉ネットワークを設立。ホノルル警察やプロジェクト・ダナなどと提携し、活動を開始した。5年前、大塚さんはじめ15人の有志で立ち上げたネットワークは現在、会員は200人に増え、日本支部もできている。5周年の記念行事には、ハワイ州知事やホノルル市長などからも祝辞が寄せられた。何か困りごとの相談があれば、まずは電話かメールでご連絡をください。情報の確認と、具体的なご依頼内容を聞いた上で、必要なら出張相談に伺います。犯罪被害なら警察への仲介、トラブルの解決なら弁護士への相談、高齢者の支援ならソーシャルワーカーやボランティア、医療・介護機関との連携でアドバイスや支援をしていきます。シニアの保険相談、高齢者住宅相談、金融資産管理や遺言に関する相談、コンピュータのトラブルや質問相談なども、専門家が受け付けています。
これらの若葉ネットワークへの相談は無料で、弁護士を必要とする場合、初回30分の相談は無料でお受けするサービスもあります。また月1回、各界のプロフェッショナルをゲストに招いての勉強会、シニアの方々が集う茶話会、クリスマスレセプションなどのお楽しみイベントも開催しています。入会も歓迎します。会費は年間20ドルで、会費もサポート寄付金も全額税金控除になります。現在私は認知症の父と、大腸ガンの術後間もない母と、猫3匹と暮らしています。うち1匹は糖尿病で毎月の治療が必要。ペットも交え、老老介護ですね(笑)。ハワイでは日本語による高齢者支援・介護の受け皿が絶対的に不足しています。施設やケアギバーがもっと増えるよう、若葉ネットワークでもボランティアのセミナーなどを実施していきたいと考えています。仲間を募っていますのでぜひご一報ください。
(日刊サン 2018.07.04)
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