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(左から)有川啓子さん、有川智美さん、三澤康総領事、仲本光一外務省診療所長、三澤葉子総領事夫人、山本眞基子さん、大門まなみ医師、カズサ・フラナガンさん

 

 

乳がんは「知識」と「早期発見」が大事

ホノルル市のカピオラニ・ウーマン・センターで、7月8日、「乳がん早期発見啓発セミナー」が開催された。このセミナーは、ニューヨークにある乳がん患者非営利団体「BCネットワーク」と「主婦ソサエティー・オブ・ハワイ」が主催。集まった約80人の参加者の中には、地元の日本人医師やハワイ日米協会の関係者などの男性の姿も見られた。

始めに、在ホノルル日本国総領事館総領事夫人・三澤葉子さんが挨拶をした。その中で、乳がんによって33歳で死去した女性とその家族を描いた映画『はなちゃんのみそ汁』に触れ、主演を勤めた広末涼子さんに会った際、広末さんが「暗い映画にしたくなかった」と話したエピソードを語り、明るい乳がんの治療を促した。

総領事館総領事夫人・三澤葉子さん

 

次に、主婦ソサエティー・オブ・ハワイの会長、有川啓子さんが、過去に自身が乳がんにかかった時の心境や、娘も乳がんにかかった経験があるということを交えながら、がんの早期発見の大切さを呼びかけた。  

続いて、仲本光一外務省診療所長が「知っておきたい日本の乳がんと婦人科系がんの最新検診事情」と題して講演を行い、次のように語った。

仲本光一・外務省診療所長 

 

国立がん研究センターの統計によると、2012年に日本でがんに罹患した女性のうち、最も多かった罹患部位は乳房だが、2014年のがん死亡者数で死亡が多かった部位の統計では、乳房は5番目だった。子宮頸部や子宮体部の罹患になるとさらに死亡率が下がることから、他の部位のがんと比較すると、婦人科系のがん生存率は高くなっている。

 

国立がん研究センター がん情報サービスganjoho.jp

 

現在、日本で罹患が増え続けている子宮頸がんは、膣の奥にある子宮の細い部分、子宮頸部の粘膜から発生するがんのことをいい、50歳になるまでに8割の女性が感染すると言われている。主に性交によって、150種類以上ある「HPV(ヒトパピローマウィルス)」の中で粘膜に付着するタイプが感染して発症する。HPVに感染した女性の約90%は、免疫力の働きによってHPVが排除され、がんを発症することはない。しかし発症しても初期段階では自覚症状がないので、定期的に検診を受けることが重要になる。  

子宮頸がんの検診にはいくつかの段階があるが、初めは綿棒などで子宮頸部をこすって細胞を採取し、顕微鏡で異常細胞があるかどうかを検査する「細胞診」を行う。ここで結果に異常がなかった場合は12ヶ月後に再度細胞診を行うが、この細胞診の異常細胞への感度は70〜80%と完全ではないため「パピローマウィルス検査」を併用することが望ましい。細胞診とパピローマウィルス検査の両方が異常なしであれば、ほぼ100%異常なしと考えてよい。  

乳がんについても、罹患数は増加の傾向をたどっている。日本対がん協会によると、生涯で乳がんに罹患する女性は、数年前までは20数人に1人と言われていたが、最近は約12人に1人とされており、年齢は40~54歳が多い。

 

日本対がん協会 jcancer.jp Copyright © 2017 Japan Cancer Society

 

乳房をX線撮影する「マンモグラフィー」は、乳がんの早期発見に役立つ検診で、50〜74歳の間の乳がん死亡率を下げることが証明されているため、40歳を過ぎたら年に1度の検診を受けることが望ましい。  

加えて、鏡の前で乳房を触ってみて、変形、左右差、しこり、ひきつれ、へこみ、ただれ、出血や異常な分泌物がないかどうかを確認する「セルフチェック」を行うとよい。

 

セルフチェックの仕方

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乳ガンのリスクについて

続いて、大門まなみ・ハワイ大学医学部外科准教授が「乳がんの全ての疑問にお答えします − 予防、検診、遺伝と治療法」と題した講演の中で、次のように語った。

大門まなみ・ハワイ大学医学部外科准教授

 

ハワイ州では、毎年約1400人(日系人・日本人は約269人)が乳がんの診断を受け、125人(日系人・日本人は約32人)が乳がんのために死亡している。  

乳がんに罹患する主なリスクとしては、以下のことが挙げられる。

・閉経後の女性ホルモン補充療法

・閉経後の肥満

・遅い閉経年齢

・早い初経年齢

・高齢での初産

・授乳経験がない

・出産経験がない

・乳がんを発生しやすい遺伝子

・出生時の体重が重い

・飲酒

・喫煙

・運動不足

 

 

このリスクの中で、女性ホルモン補充療法、飲酒、喫煙、運動不足、閉経後の肥満については自分で予防できるが、初経・閉経年齢、遺伝子、出生時の重い体重については予防できない。

 

 

飲酒は、一週間に3杯(1杯=ビール350cc、ワイン150cc、日本酒45cc)飲むと乳がんになる確率が15%高くなり、初期の乳がん患者は週に3〜4杯飲むと再発率が高くなる。  

閉経後の肥満は、乳がんになる確率が30〜60%高くなり、初期の乳がんの再発率や死亡率も高くなる。肥満度は、(体重kg)÷{(身長m)×(身長m)}で求められるBMI(Mody Mass Index)値が目安となる。BMIが25以上であれば「太り気味」、30以上であれば「肥満」となる。運動不足については、1週間に4時間程度の軽い運動か、2時間程度の激しい運動は乳がんのリスクを10%低くし、初期の乳がんの再発率も低くなる。この中で、体重制限と定期的な運動が最もリスクを低める。  

乳がんの5~10%は乳がんを発生しやすい遺伝子BRCA1とBRCA2が原因で、90~95%は生活習慣など環境因子の影響が原因と言われている。しかし90〜95%の乳がんは、生活習慣など環境因子の影響が原因と言われている。また、乳がん患者の1パーセントは男性になる。  

乳がんの治療は、主に次の方法がある。

 

1.手術

手術で部分切除術をした場合は放射線治療が併用され、乳房切除術(全摘出)した場合は、状況によって放射線治療が併用される。

2.放射線療法

3.3種類の薬物療法

a) 内分泌(ホルモン)療法 ― 1日1回、5〜10年継続

b) 化学療法 ― 種類や処方回数により様々で、通常3〜6カ月継続

c) 分子標的療法 ― 3週間に1回、薬物療法1年継続  

治療後の経過観察として、半年に1回、マンモグラフィーと検診がある。多くの再発や転移は治療後2年以内に起こるが、10年後でも再発や転移の可能性はある。  乳がんの早期発見は治療後の経過がよいので、40歳以上の女性は、1年に1度、マンモグラフィーと検診を受けることが望ましい。

 

 

 

次に、テリ・イマダ・カピオラニ乳がんハイリスク担当看護師が「乳がんのハイリスクって何?」と題し、カピオラニ女性センターで行なっている「ハイリスク・ブレスト・プログラム」についての講演を行なった。  

 

テリ・イマダ カピオラニ女性センター乳がんハイリスク担当看護師

 

2005年から行われている「ハイリスク・ブレスト・プログラム」は、乳がんにかかるリスクが高いと思われる女性に対し、その予防方法を明確化するという試みで、様々な面での指導を行なっている。このプログラムに該当する乳がんのリスクが高い患者には、以下のような人がいる。

 

・家族に乳がんを患った人がいる

・自分か家族が卵巣癌を患ったことがある

・遺伝子検査でリスクが高いと診断された人

・生体組織検査で前がん状態と診断された人

・非湿潤性乳がん(LCIS)の経験がある人  

 

このプログラムでは、以下のようなサービスを行なっている。

・病歴などの履歴の把握と健康診断

・乳がんリスクの推定

・マンモグラフィー、超音波、MRI検査

・遺伝子的なリスクのについての指導

・助言と遺伝子検査

・化学療法での予防

・栄養についての指導と助言

・精神的サポート

・リスクを低下する方法についての教育プログラム

 

 

「ハイリスク・ブレスト・プログラム」に興味のある方は、カピオラニ・ヘルス・コネクション(808-527-2588)へ電話をして予約を取ることができる。

 

15分間の休憩を挟み、米国登録ヨガ講師のカズサ・フラナガンさんが「乳がん患者としての経験談」「椅子ヨガ・ストレッチ」と題し、講演を行なった。

 

カズサ・フラナガンによるヨガ講習

フラナガンさんは自身も乳がんを患い、2回の手術を経験した。乳がんの原因は、食生活と仕事のストレスだったのではないかと考えている。

 

カズサ・フラナガンさん  米国登録ヨガ講師

 

アメリカで治療をしたが、医学用語が難解だったので、病院だけに頼らず、自分で調べることは大きな助けになった。乳がん手術は、1回目は部分切除、2回目で全摘出をした。アメリカでは、全摘した後で入院はしないため、術後数時間で自宅へ帰ったが、麻酔が切れた時がとても辛かった。またしばらくの間、両胸の脇に流れ出てくる体液を流す袋を付けなければならなかった。袋を付けたまま生活し、体液が溜まった袋は自分で代えた。治療している間は「乳がんになる前にセミナーなどに参加していればよかった」と思うことが多かった。  

がんの原因の1つに「脂肪の過剰摂取」が挙げられるが、脂肪には質の良し悪しがあり、質の悪い脂肪が、がんの原因になるとされている。また砂糖もがんの原因となり得るが、砂糖については「質の良い」ものはないと考えられている。 個々の体質やがんの性質によって治療法が異なるので、納得できるように調べた上で、医師に相談するとよい。  

フラナガンさんは「がんとヨガには関係がある」と考えている(ライター補足:実際、日本緩和医療学会の『がん補完代替医療ガイドライン』にヨガの項目がある)。米国ヨガ講師の資格を取得後、ニューヨークにガン患者のためのヨガを教えている人がいることを知り、現地で師事し、資格を取った。普通のヨガとの違いは、がんの治療中にしてもよいポーズを取るという点と、ブロック、ロープ、ブランケットなど、道具を多く使うという点だ。  

その中に、椅子に座ったままできるヨガがある。まず椅子に座り、足が床につくように臀部の位置を調節して、背筋を伸ばす。目を閉じて呼吸を意識し、自分とつながり、脳を「自分」にしてヨガを行う。体を伸ばすだけのストレッチとは異なり、体と心を結んでポーズをとることで、心身ともに癒しの効果が得られる。  

また、がん患者のためのヨガ教室に通う利点の1つに、患者同士のコミュニティーの中で、病状などを相談する仲間に会えるということがある。がん患者の方には、心身ともにポジティブな効果を得られるヨガ教室への積極的な参加ををお勧めしたい。

 

椅子ヨガを体験する参加者たち

 

以上で乳がん早期発見啓発セミナーの全プログラムが終了し、司会の有川智美さんの挨拶で閉会した。  

参加者の30代の女性は「自分はまだ乳がんの定期検診に行く年齢ではないが、家族に乳がんの履歴があるので、早速マンモグラフィー検査を予約したいと思う」と語った。また、40代の女性は「家族にがんの履歴がないため、自分は乳がんにかかりにくいと思っていたが、乳がんの多くが環境因子によって罹患することが理解できてよかった。「今日のセミナーの内容を参考に、生活習慣に気を配り予防に努めたい」と感想を述べた。

 

(取材・文 佐藤友紀)