右から3人目が黒川氏。午餐会のメンバーの方と
【日刊サンコミュニティニュース】
毎週木曜日の午後のひと時、各界の講師の方を招いてお話しを聞く学びの場、木曜午餐会。今年で100周年という長い歴史の中で、“一生青春、一生勉強”を合言葉に、日本語で学び憩える場を提供し続けている。
3月1週目の講師は黒川曙美(アケミ)氏。黒川氏は元西武の駐在員として、ハワイの数々の不動産開発を手がけ、様々な慈善事業もしてきた。昨年には、日本とアメリカの経済関係促進に寄与したとして外務大臣表彰を受賞した。
「私の祖父母がメインランドへ移民しました。私は1984年、マウイ島でホテル建設をするためハワイに来て、86年からはホノルルで暮らしています」
LAリトルトーキョーにある、 全米日系人博物館を知っていますか?
講演は“全米日系人博物館について”。読者の方は、この博物館をご存知だろうか? カリフォルニア州ロサンゼルスのダウンタウン近郊、リトルトーキョーに所在する日系アメリカ人の歴史や文化を伝承、展示している博物館だ。
「1980年代の始め、日系人の両親から事業を継いだ日系ビジネスマンや、太平洋戦争で日系アメリカ人としてヨーロッパ戦線で戦った勇士達が、自分達で日系アメリカ人の歴史と体験を、アメリカ史の大事な一部として伝えていこうとの思いから博物館の構想が生まれました。1985年にNPOとしての組織は設立できたのですが、どこで運営するか、場所が確保できませんでした。それでLAリトルトーキョーにあった西本願寺のお寺の一部を借りて、1992年最初の全米日系人博物館は産声を上げることができました。私は設立当初からとても賛同し、会員になっています」
当時の海部総理大臣も臨席し、オープニングセレモニーが行われた。黒川氏もハワイから駆けつけた。時を同じくして、ハワイにも日米文化センターが設立された。 「その後募金などで資金集めをし、ロサンゼルス市当局も土地を提供してくれて1999年、今ある博物館が誕生しました。全米日系人博物館は、日系アメリカ人の体験を伝えるアメリカで初めての博物館です」
ハワイの州知事だった、ジョージ・Rアリヨシ氏も以下のメッセージを寄せた。 “ここが(日系アメリカ人の)物語を伝えてくれる唯一の全米規模の博物館です。努力と成功、希望と大志、文化と伝統がすべてのアメリカ人に語られることでしょう”
全米に住む日系人は85万人 今年はハワイ日系移民150周年
「博物館の使命は4つ。まず日系アメリカ人の歴史を全米、全世界に伝えること。97年から全米、日本、ハワイなど各地を巡回した“弁当からミックスプレートへ”の企画展は大盛況でした」
舞台は100年以上前のハワイ。多くの日本人がハワイに移民し、サトウキビのプランテーションで働いた。昼食は「弁当」。アルマイト製の弁当箱にはご飯と豆腐や漬物などの質素なおかずが入っていた。プランテーションでは、ポルトガル、プエルトリコ、中国、韓国から移住した人達も働いていて、皆は昼食を交換。このように始まった食生活の融合は、現在まで受け継がれ、その代表が「ミックスプレート」または「プレートランチ」と呼ばれるハワイならではの食文化となった。
「イサムノグチやジョージナカシマなど、アーティストの作品を紹介する事業が2つ目のミッションでした。LA近郊の学生に日系アメリカ人の歴史や功績を理解してもらう教育プログラムを提供すること、そして全米のさまざまな組織と連携しながら、日系アメリカ人に関する共同研究をすることも大切な役割です。2000年からは、全米各地から日系アメリカ人の若きリーダーを集め、10日間ほど日本に招待して、政治や経済の分野で交流を深めてもらうプロジェクトも行っています。これは日本政府が資金提供してくれています」
ハワイ日系移民150周年の今年、6月に行われる記念シンポジウムには、全米日系人博物館の歴史専門家もハワイに来る予定だという。 「それに先立つ3月9日からのホノルルフェスティバルでは、日本領事館が中心になって日系移民の写真展や映画の上映をします。次の若い世代につなげるためにも、アメリカ社会の中での日系人の歴史を一人でも多くの人と共有していただきたいと願います」
(取材・文 奥山夏実)
(日刊サン 2018.03.10)