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江戸文字職人、鶯春亭梅八デモンストレーション・イベント、拍手喝采の中閉幕

招待客が見守る中、40年かけて培った熟練の技を披露

 

 在ホノルル日本総領事館総領事公邸で10月31日、江戸文字職人の第一人者、鶯春亭梅八さんのデモンストレーション・イベントが行われた。

 江戸文字とは、江戸時代に生まれた図案文字のこと。起源は京都の青蓮院流から発した書体「御家流」と考えられている。江戸文字の中でもさまざまな書体があり、歌舞伎の看板、番付に使用される「芝居文字」や、寄席で使用される「寄席文字」、大相撲の番付、広告に使用される「相撲字」などがある。

 総領事公邸内のラナイでは、視覚だけでなく味覚でも日本文化を体感してもらおうと、福岡の八女玉露、静岡の天竜茶、わらび餅などの日本茶と和菓子が用意された。集まった約50名の招待客は、白いクロスに小さな生け花があしらわれたテーブルにつき、冷たいお茶と上品な甘みのわらび餅に舌鼓をうちながら、互いに交流を楽しんだ。

 30分間の交流の後、文机が設置された広間で江戸文字のデモンストレーション・イベントが開催された。始めに、先月在ホノルル日本総領事館に赴任したばかりの伊藤康一総領事が、挨拶の中で「日本と所縁の深いここハワイで、日本が誇る歴史的文化の一つ『江戸文字』に触れ、ハワイの人々と共に日本文化への造詣を深めるこのイベントは、さまざまな面で意味深いものとなるでしょう」と述べた。次に、このイベントを企画したレクリエーション・オーガナイザーの岡本国裕さんが挨拶。岡本さんは「私の実家は、京都で120年の歴史を持つ古美術商です。1968年、私の曽祖父が、ハワイの日本移民史100周年に関連したプロジェクトで、カネオヘの平等院鳳凰堂の仏像の製造と納品に携わりました。このことを知って以来、日本文化を海外へ広める活動に興味を持ち、定期的に今回のようなイベントを行なっております」と語った。

伊藤康一総領事(左)、オーガナイザーの岡本国裕さん(右)

 

 挨拶の後、金屏風の横から濃紺の鉢巻に錆浅葱の作務衣姿の鶯春亭梅八さんが登場。大きな拍手が鳴り響く中、梅八さんは「アロハ。よろしくお願いします」と挨拶し、落語の噺家として培ったよく通る声で江戸文字について語った。「江戸文字は、日本に鉛筆やペンが入って来る前、筆と墨で文字を書いていた頃に生まれた書体です。歌舞伎、相撲、落語などの看板で使われ、お客様を呼ぶために目立つデザインになっています。江戸時代から続く伝統的な書体ですが、日本語だけではなく、英語など、どんな言語にも対応できることが特徴の一つです」と説明しながら、半紙にアルファベットで「ALOHA」と書いた。紙面を大きく使い、筆に多くの墨を含ませて書かれたダイナミックな文字を見せながら「江戸文字は、書道とは異なるものです。書道は部屋の中で心を鎮めて行いますが、江戸文字は、このように人に見せながら書き、職人が書く過程をも楽しんでもらうものです。太く濃く、字の中に空いた場所が少ない江戸文字には『隙間なくお客様が来るように』との願いがこもっている一方、『お客様に隙間なく幸せがやって来るように』という意味もあり、福文字とも呼ばれています」と語った。

伊藤総領事夫人、伊藤美砂子さんの名前を掲げる梅八さん

 

 その後、梅八さんは、ホノルル美術館館長のショーン・オハローさんら数人の招待客の名前を書き、白い半紙に「梅八流」の美しく大胆な江戸文字を連ねた。カタカナとアルファベットを組み合わせて模様のようにしたり、外国人の名前に漢字を当てはめたりと、即興で難易度の高い作品を次々と生み出す様子に、招待客は賞賛の拍手を贈った。梅八さんが「先日、ライアンさんという人の名前を書いたのですが『雷』に蕎麦屋の『庵』で雷庵としました」と言うと、会場は笑いに包まれた。

 デモンストレーションの終盤で、梅八さんは、伊藤康一総領事について「伊藤さんとかけまして、ろうそくと説く。その心は、身を削って周りを明るくするということです」と噺家らしい語り口を披露。その後、新総領事が着任したことを記念し、金縁の色紙に夫妻の名前を書いて贈り、イベントの最後に華を添えた。

 招待客の1人で日系3世の男性は「今日、目の前で職人さんが江戸文字を書くという特別なイベントに参加する機会を得て、今まであまり知らずにいた江戸文字の素晴らしさを大いに堪能することができました。これをきっかけに、私のルーツである日本の伝統文化を誇りに思う気持ちが、さらに大きくなりました」と感想を述べた。

 

(日刊サン  2017. 11. 9 / 取材・文 佐藤友紀)