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柳家さん喬氏(前列左から2人目)、柳家喬之助氏(前列右から2人目)、落語クラブの学生たち、日本研究センター長のロニー・キャーリー博士、三澤康総領事夫妻とスタッフたち。

 

 

ハワイ大学マノア校オルビス・オーディトリウムにて、3月3日、在ホノルル日本国総領事館主催の落語公演会が開催された。公演者の真打・柳家さん喬氏は、文化庁から文化交流使として選ばれ、今年2月から全米各地で公演を行ってきたが、ここホノルルが最終公演地となった。会場を訪れた大勢の観客の中には、オアフ島在住の日本人や初めて落語を観る地元の人などが混じり合っていたが、舞台では英語の字幕が付き、英語を話す人も大いに楽しめる公演となった。

 

開会の挨拶で、ハワイ大学マノア校日本研究センター長のロニー・キャーリー博士は「日本の古典落語は、演者が独特のジェスチャーを交えながら一人で何役もこなすという点、また、舞台の演出がないため、演者の個性が際立つ点が特徴的で面白く、ぜひ注目していただきたいところです」と語った。また、日本国領事館の三澤康総領事は、公演の前に行われた食事会で、さん喬師匠に落語での蕎麦をたぐる仕草を教わったエピソードなどを語った。

 

落語の魅力を語るハワイ大学日本研究センター長のロニー・キャーリー博士

 

プログラム最初の演目として、さん喬師匠によるジェスチャー・デモンストレーションが行われた。このデモンストレーションは、師匠が落語を噺す途中で「刀を研ぐ、酒を飲む」などの仕草を入れた際、司会者が「ストップ」と声を掛け、そのまま体を静止するという内容。高い技術を必要とする技を絶妙にこなすさん喬さんに、会場からは終始感嘆の声があがっていた。

その後、ハワイ大学とパシフィック・ブディスト・アカデミー(PBA)の学生5人が順番に舞台に上がり、小噺を披露した。学校の落語クラブに所属する5人は、初々しい着物姿で登場。学生たちの天衣無縫かつ饒舌な噺し方と、一話数十秒という短い小噺が調和した演じ物に、観客たちは惜しみない拍手を送った。舞台に上がったパフィック・ブディスト・アカデミーの学生、アンドリュー・モリさんは「私は以前から日本の落語に興味を持っていましたが、実は落語クラブに入ったのはほんの一週間前なんです。真打で大ベテランの師匠と同じ舞台に立つとは、夢にも思っていませんでした。出番前に緊張していたら、さん喬師匠が『目をつぶって深呼吸してみなさい。それで落ち着くから』とおっしゃられ、緊張が解けて自然に演じることができましたと語った。

 

練習の成果を披露するアンドリュー・モリさん

 

前半最後のプログラムは、さん喬師匠の弟子にあたり、2007年から真打の柳家喬之助氏が、落語の演目「つる」を演じた。「つる」は、粗忽者の主人公が、ある日ご隠居に教わった鶴の名前の由来を町内に披露しに行ったが、その時慌て過ぎて失敗し、最後には泣いてしまうという噺。観客は、喬之助さんの通る声や軽妙な仕草、豊かな表情に魅了され、時々笑いを起こしながらも息を詰めて噺を聞いていた。この噺のポイントとなる、最後に主人公が泣く場面での期待を裏切らない演技に、舞台は盛大な拍手と笑いに包まれながら幕を閉じた。初めて落語を観た観客の一人は「めりはりがあって分かりやすく、15分という短時間でも落語の魅力を存分に味わえた。素晴らしい舞台だった」と語った。

 

豊かな表情でめりはりの効いた「つる」を演じる柳家喬之助氏

 

卓越した表現力で 観客を魅了

中休みの後、この落語講演会の目玉であるさん喬師匠の「芝浜」が演じられた。「芝浜」は人情噺の傑作。主人公の勝は、魚屋の行商を生業としているが、酒飲みで怠けがちだった。ある日、勝は大金を拾うが、大金を手にしたことを理由にますます怠惰になろうとする勝を心配した妻が、夫に「大金を拾ったのは夢の中のこと」と言い含めた。その後、勝は安易に怠けようとしたことを反省し、断酒して死に物狂いで働いた。その結果、表通りに店を構えるまでに至ったという噺。約1時間に渡る噺の中で、さん喬さんは勝、妻、語り手と三役を自在にこなし、コミカルなエピソードを交えながら、夫婦間の温かい愛情を存分に表現した。終演後、会場は賞賛の声と万雷の拍手に包まれ、公演は大成功のうちに幕を閉じた。

 

「芝浜」を演じる柳家さん喬師匠

 

日本文化に関心を持っているという観客の一人、ジェイソン・リンさんは「長い時間、一人で何役もこなすさん喬さんの卓越した表現力に大変感銘を受けました。まるで舞台上に背景や他の人々が見えているようでした。この落語公演会は、日本人でない人々にとっても落語という興味深い日本文化を発見できる、非常によい機会だったのではないでしょうかと語った。