▲ホノルルキリスト教会の加藤誠彦(右)さんと
日刊サン人気コラムニスト 市川俊治さん
日刊サンで人気のコラム「年金・国籍よろず相談」の筆者、市川俊治さんがさる9月18日と20日、ハワイで講演会をし、大勢の人が詰めかけて大盛況だった。 年金アドバイザーの資格を持ち、ボランティアとして活動する市川さんは、日本とアメリカの年金や国籍に関するエキスパートだ。 18日、講演の場所となったホノルルキリスト教会メンバーの加藤誠彦さんは10年ほど前、ニューヨーク在住の時に市川さんと出会ったという。 「市川さんはその時、ニューヨーク総領事館の領事シニアボランティアとして働いておられました。私はアメリカ駐在が3回で、通算約20年日本を離れていたので、日本の年金制度がどうなっているのか皆目分からず相談しました。妻の国民年金を含めて調べてもらい、日本の社会保険労務士を紹介していただいて、無事支給されるようになりました」 とくに妻の国民年金は、加入期間が短いためもらえるとは思っていなかったけれど、市川さんに相談したところ、日本国籍での海外居住期間を“合算対象期間(通称:カラ期間)”として受給資格の算定上合算することができるので、加藤さんの妻には受給資格があることが判明。現在、月々2万円ちょっとの年金をドル建てで送ってもらっているという。 「5年10年の額で考えると大きいですから感謝しています。日本とアメリカ両方の年金制度を詳しく知っている市川さんの存在は本当に貴重です。特に日米租税条約への対応、相続税を含む日米の税制の違い、またグリーンカード、日米の市民権、二重国籍の問題に至るまで、実務体験に裏付けされたアドバイスは、市川さんの右に出る方はいないと思い敬服しています」 温厚でどこか飄々としている市川さん。2時間以上の講演も、ちょっと天然でウイットに富んだ話しぶりは、難しい話題のはずなのに楽しくて引き込まれてしまうほど。 聞けばハワイに来る前も、ニューヨークとインデアナポリスで講演をしてきた。 「妻は日本、単身で来ましたのでホテルでの洗濯が大変だった(笑)」 市川さん、旅費もハワイの滞在費もすべて自費の手弁当なのだという。なんというボランティア魂! 原動力となる思いを伺った。
(取材・文 奥山夏実)
米国で領事館のシニアボランティア6年 日米の架け橋となる活動が定まった
「私は日本の銀行マンとして1984年から7年間、ニューヨークとシカゴに駐在していました。帰国する時は、寒いシカゴはもういいけれど、いつかまたアメリカに来たい、アメリカに住む日本人の役に立つような活動をしてみたいと、漠然とですが思っていました」 定年を迎えた2003年の正月明け、新聞に“外務省、領事シニアボランティアを募集”の記事が出て、市川さんは釘付けになった。 「この制度は外務省改革の一環として、領事業務、つまり在外公館の行政サービスをお役所的ではなくて、民間レベルで向上させようという試みで創設されたのです。第1期生として10名が、世界10カ所の公館に派遣されるというもので、私はすぐさま応募しました」 589人もの応募があり、1次試験の筆記テストや適性検査などを経て、市川さんは見事合格した。 「人数が多かったのでダメかなと思ったけど、2次試験の面接にたどり着いた時は行けるって、自信が湧き上がりました(笑)」 ニューヨーク総領事館を希望し、妻と二人で赴任した。 「パスポートの記入方法は役所言葉ではなく普通にわかりやすくとか、離婚届を出しに来た人に窓口で大きな声で話すのはやめ、別室で手続きをする配慮をしようとか。エレベーターは職員が先に乗るのではなく、お客さまファーストですよとかね。官民の文化の違いに戸惑いましたが、公館の皆さんはよく改善してくれました」 赴任して1年くらい当たったある日、NY日系人会から連絡があった。ある女性の夫が亡くなり、支援の輪が広がる中、日本でも働いていた夫には遺族年金が受給されるはずだという指摘があったのだが、年金が分かる者は誰もいないので助けてほしいという要請だった。 「日米の年金制度を猛勉強して調べていた矢先に、日米の社会保障協定が締結したニュースが発表されて。米国年金の加入期間も日本の年金の受給資格の算出上、加算できることになり、状況が好転。夫人には遺族年金が支給されることになり、大変喜んでいただけました」 市川さんの元には、年金、国籍、老後の日本帰国に関する相談が数多く寄せられるようになっていった。 「日本を離れて何十年もたつと、日本の生活情報は疎くなりますからね。疑心暗鬼というか、間違った噂なども横行していて、正しい情報をできるだけわかりやすくお伝えしたいと、いろいろ苦心しました」 ニューヨークからサンフランシスコへ、計6年間に渡るシニアボランティア任務をやり遂げ、市川さん夫妻は日本へ帰国した。
海外年金相談センターの創設、 来年もぜひ、ハワイ講演を実現したい
「帰国後、年金アドバイザーの資格を取得し“海外年金相談センター”を立ち上げ、アメリカに在住する日本人のためにメールや電話で相談に応じるボランティア活動を始めることにしました」 日米の架け橋となる具体的なニーズが明確になっての相談センターの設立。それは市川さん自身の老後の人生の推進力にもなったという。 ハワイで2回目の講演となった9月20日の“木曜午餐会”には、今年一番の参加者で、会場は満員、補助椅子まで出す盛況ぶりだった。 会長の新名瑛さんは、 「米国市民権のメリットとデメリットについては初めて知ることが多く有益でした。私自身、今はグリーンカードで、市民権を取るかどうか考えることもありましたが、シチズンになると日本の国籍の放棄が必要だし、日本のパスポートも使えなくなる。なにかの事情で市民権を放棄する場合はかなり手続きが厄介なようで、よく考えて検証する必要があることがわかりました」 国籍については、アメリカ生まれの子どもを持つお母さんたちも大勢参加し、熱心に聞いていた。 「22歳までに日本かアメリカの国籍を選択するよう定められていますが、22歳を過ぎても決めかねて選択できなければ、考慮中という姿勢をとることもできます。パスポートの更新で総領事館に行った時に選択を迫られたら、今一生懸命考えていますと答えればいいんです」 とアドバイス。講演の合間の19日には、朝から晩まで20人近くの個別相談を行い、飛び入りで是非にという人にも応じた。 「私自身は退職した時にグリーンカードを放棄しました。永住権は私にとって、生きるニンジン、働いていることの証でもあったので、当時は寂しかったですね。でも今は、人さまのお役に立て、ありがとうと感謝されることが私の生きるエネルギーになってくれています。75歳、これからも健康が許す限りボランティア活動をライフワークにしていきたいです」
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(日刊サン 2018.10.09)