クイーン・エマ・ストリートに建つ12階建てのザ・クイーン・エマ・ビルディングは、外壁からレンガが飛び出すその外見から「ピンプル・ビルディング」とも知られている。このビルは1964年に完成し、歴代のオーナーが新しい活用を試みたにも関わらず10年以上空いたままとなっていた。 ハワイ住宅金融開発公社(HHFDC)は12日、このビルを71戸の賃貸アパートに改装し低収入世帯に提供する資金として3300万ドルの拠出を承認した。資金提供を受け開発を担うのは、マカニ・マエヴァ氏とポール・フォルティノ氏が率いるクイーン・エマ・パートナーズ社。HHFDCから開発計画のために3500万ドルの債権とローン、税控除の提供が承認された。
マエヴァ氏とフォルティノ氏は、クイーン・エマ・ビルディングを350万ドルで購入する契約を進めている。歴史的建造物の環境評価書の作成や、市から改築デザインの承認の取得等の課題が残っているが、順調に進めば来年6月に着工し2020年5月の完成となる見込み。 オフィスビルの内装はスタジオタイプの賃貸物件34戸と、1ベッドルームタイプが7戸、2ベッドルームタイプ30戸に改装される予定。月額家賃はスタジオタイプが998ドル、1ベッドルームタイプが1071ドル、2ベッドルームが1299ドルと設定されている。入居対象者となるのは、ホノルルの中間年収の60%以下の年収世帯となり、年収が1人世帯で4万9020ドル、2人世帯で5万5890ドル、4人家族世帯で6万9960ドル以下の世帯に相当する。ユニットのうちスタジオタイプの4戸は、これらの基準額の半分以下の年収世帯に月額家賃448ドルで提供される。またこの年収基準と月額家賃は61年間維持される。 HHFDCの委員会メンバー、レイラニ・プルマーノ氏は、商用ビルを低価格住宅に改築する初の試みであるとし「大変良い方法です。空きになっている商用物件は多く、今後の活用が期待できます」と述べた。 クイーン・エマ・ビルディングには以前、大学寮や高齢者向けコンドミニアムへの改装計画が持ち上がっていた。大学寮への改装計画を起こしたのはホノルル在住のアルマンド・バーポアさん。2006年にビルを購入し建設を開始したが開発パートナーとの訴訟問題により計画は頓挫し、2010年に物件は差し押さえられた。 次のオーナーになったのはマウイの建設業者グレッグ・ハッチャー・オブ・GC・パシフィック社。ウィルソン・ホームケアが管理する高齢者向け住宅の計画を持っていたがトラブルに見舞われ2013年に差し押さえ処分を受けた。メディア大手トムソン・ロイターズ社の主要株主でもあるカナダの投資会社の系列企業、ウッドブリッジ社が2015年にビルを購入。同社が現在のオーナーである。
マエヴァ氏はカイルアを本拠地とするアヘ・グループの代表。同グループはリバー・パヌアヒ、ウィットモア・サークル、ハウステン・ガーデンズ、バニヤン・ストリート・マナーを含むハワイの低価格住宅十数件を手掛けてきた。フォルティノ氏はフロリダを本拠地とする開発業者サウスポート・ファイナンシャル・サービシズの代表。 ダウンタウン・チャイナタウン近隣委員会が昨年開催した議会では、低価格住宅の支持が集まる一方でマエヴァ氏とフォルティノ氏の計画に反対する声も上がった。近隣への影響が大きすぎるという懸念や駐車場不足が指摘されていた。計画中の低価格住宅には入居者が利用できる15台分の駐車場が設けられる予定。マエヴァ氏はビルが建設中の鉄道の駅や、ダウンタウンのビジネスエリアの徒歩圏内だと話す。 「この計画は適応型再活用を実践する機会です。都市中心部に既にある物件を再開発資源として捉えることはこれまでなく、街中の廃ビルは人々に醜いと思われるだけの存在でした。徒歩圏内で生活できるコミュニティについて検討を進める良い機会でもあると考えています」とマエヴァ氏。 フォルティノ氏も「土地資源はどこにでも転がっているものではありません。今あるものを見直し、必要なものに転換する必要があるのです」と述べた。
(日刊サン 2018.07.24)