“蒸らし炒め”は鍋蓋をして、野菜に汗をかかせながら加熱。ラタトゥユ風トマトソースは大量の氷で冷やし、冷製パスタに。
私は今年の1月に洗礼を受けた。授けてくれたのはホノルルキリスト教会の関真士牧師だ。だからハワイにいる間は毎週、いそいそと日曜礼拝に出かける。
教会ではランチも出される。マノアの風が吹き抜けるソーシャルホールに、大きな長テーブルを並べ、みんなでいただく。礼拝で心が満たされ、ランチでお腹が満たされる、恵みのひと時だ。
ホノルル教会で50人前! 直径36cmの大鍋にパスタソース。
ところが今週、ランチの作り手がいない事態が勃発。かたや、牧師夫人の関れいさん達とのおしゃべりの中で、冷製トマトパスタを作ったら大成功だった談義が盛り上がり、いつしか合体。こともあろうに私は、“冷製トマトパスタのソースを作る”係に立候補してしまった。関先生はコックさんの経験もある、食いしん坊の牧師さん。そんな教会にふさわしい、ランチの手伝いができるのが嬉しくてたまらなかった。 もちろん50人前を作るのは自分史上初。れいさんや教会のメンバーが材料を算出してくれた。トマトはコスコの、巨大3kgの缶が3つあれば足りると目星、パスタは13袋を用意することになり、サラダやパスタを茹でる係など、それぞれ手分けして分担を決めた。
冷製トマトパスタは生野菜をそのまま使ってサラダ感覚で仕上げることもあるけれど、れいさんの「缶詰のトマトは、一度加熱したほうが安心して食べられる」との言葉を聞き、私はラタトゥユ感覚のソースを作ろうと思った。 以前このコラムでも紹介した、私が尊敬する料理家、辰巳芳子さん直伝の“蒸らし炒め”という手法を使うと、複数の野菜を組み合わせて作る、けんちん汁やラタトゥユが驚くほどおいしくなることを習ったからだ。 コスコでの買い物は燃えた。いつも使っているダンベルより重いトマト缶を3つ、枕のような大袋入りのズッキーニ、セロリ、パプリカ、そしてマッシュルーム。いかにも量のコスコらしく、ドサドサとカートに入れるマッスル快感! 教会はご高齢のメンバーも多いので、ソースは野菜だけ、胃腸に優しいベジタリアンレシピに。別添えに小エビでも? と思ったら意外に高いので、これまた巨大なツナ缶と黒オリーブの和え物を作り、タンパク源にすることにした。
“蒸らし炒め”以前に大切なのは、 安全に安心して食べられること。
いざ調理! 野菜を洗いながら、教会のメンバーの顔が浮かんだ。Mさんの口に合うだろうか、Kさんの体調の養いになるだろうか……。そこで気がついた。50人もの口に入る食べ物に、絶対に間違いがあってはならない。おいしさを目ざす以前に、衛生面だけは厳守しなければならない。さらに、命をも左右する食べ物を作ることを、私に任せてくれた、れいさんはじめ、メンバーの方々の懐の深さに思い至った。新参者の私を信じてくれたこと! “蒸らし炒め”は、野菜を均等に切り、少量のオリーブオイルで炒め、鍋蓋をして野菜の水分を出しながら加熱する。 するとそれぞれの持ち味が生きたまま仕上がる。野菜とトマトソースは別々に加熱し、最後にさっと混ぜて急速に冷やす計画だったけれど、雑菌対策にいつもよりしっかり煮込んだ。慎んで作ることを教わった、50人前体験だった。
奥山夏実 おくやまなつみ●フリーランスライター 『クロワッサン』の特約記者を25年続け、東京を拠点にハワイは毎年、半年ほど滞在。近著に『ココナッツオイルバイブル1、2』、『HAWAII住むように暮らす』(ホノルルの博文堂でも発売中)など。 |