ズッキーニのオムレツ。黄色いズッキーニを使うと、卵色がもっときわだつかも。卵4 個に対して、高野豆腐粉は1/2 ~ 1 カップほど。
私は卵料理が苦手だった。ふんわりとした、卵ならではの柔らかさ、優しさを生かしたいのに、だし巻き卵もオムレツも、瞬間、火を通し過ぎてしまうのだ。 卵料理って、料理のうまい下手じゃなくて、「あんたは優しくない」と、作り手の性格が出てしまうみたいでおののいた。
高野豆腐の粉末、知っていますか?
数年前、高野山を旅した。旅先で、その土地ならではの食材を買うのが大好きだから、商店街をキョロキョロ探索しまわった。
名前のごとく、高野豆腐はその昔、高野山の僧侶があみ出したソウルフードだから、どこの店でも売ってる売ってる。と、その横にもれなく、高野豆腐の粉バージョンが並べられているのだ。店の おばちゃんに、どう使うのか訊ねると、 「豆腐やおからのかわりに炒り豆腐にしたり、ハンバーグに入れたり、卵焼きに入れたり、なんにでも入れる」と頼もしく宣言。
高野豆腐は豆腐の栄養がぎゅっと凝縮した、エベレストに優るとも劣らない、世界最高峰の栄養食品だ。高たんぱく低カロリーで、食物繊維やカルシウム、鉄分が豊富。集中力ややる気を高める チロシンや、長寿ホルモンのアディポネクチンなど、分子栄養学的な評価もダントツ。それが粉末で手軽で、「なんにでも入れられる」ほどニッチならば、即買い、大人買いした。
それ以来、高野豆腐の粉は私にとっての神である。だし巻き卵もオムレツも得意料理だ。よって私の性格も優しいと評価してください。
特殊製法で粉末にした高野豆腐。ハワイにないので、高野豆腐をミキサーにかけて粉末にしてみたことがある。悪くはないが、できるだけ細かくしないと、ちょっと舌にざらつくかも。
三ツ星シェフ以上のオムレツが作れる!
神さまの使い方:高野豆腐粉をだしや牛乳でドロドロに溶かす。調味した溶き卵に混ぜる。焼く→ふんわり、柔らかくて優しい卵料理の完成だ!
ズッキーニのオムレツや、青唐辛子入りの出し巻き卵は大好評。最近は卵を割る時、あ、ラグビーボールの形だな、なんて五郎丸選手を思ってときめく楽しさもある。
少し前の『あさイチ』に三ツ星シェフのアラン・デュカスが登場し、ブレットのオムレツの作り方を実演した。デュカスさんは現在、19コもの星に輝くフレンチの巨匠だ。「ブレットはフランス語で、日本名はフダンソウです」と、有働さんは解説していたけど、英語ではスイスチャードと補足してほしかった。ハワイでよく食べている私としては。
で、巨匠のオムレツで意外だったのは、卵に対してスイスチャードを、想像を絶するくらいたっぷりと入れること。オムレツを切ると断面は一面グリーン、っていうほどに。でも、これじゃあ卵の味は消えちゃわない? 弱火で10 分以上じっくり焼くって、そんなに焼いたら卵、カチカチでしょう? あれっ私、意地悪? 優しくない?
デュカスさんにも、高野豆腐粉の神さまのこと、教えてあげたいなあ。
(日刊サン 2015. 10. 7)
奥山夏実 おくやまなつみ●フリーランスライター 『クロワッサン』の特約記者を25年続け、東京を拠点にハワイは毎年、半年ほど滞在。近著に『ココナッツオイルバイブル1、2』、『HAWAII 住むように暮らす』(ホノルルの博文堂でも発売中)など。 |