長く教員を務めてきたパトア夫妻。夫はココナッツのエキスパート、妻はパンの木に精通。
ホノルルから西に車を1時間ほど走らせると、ワイアナエの町に着く。白く長い砂浜に縁取られたこのあたりは、ネイティブハワイアンが多く暮らすエリアだ。
めざす“ワイアナエコースト総合保健センター(WCCHC)”は、海を見下ろす丘の中腹に建てられている。丘は赤茶色の岩石でできていて、ハワイアンにとっては古くから神聖な場所であった。
保健センターの裏手の散歩コースを登ると、古代ハワイアンのペトログリフ (象形文字)がいくつも残っている。建物はそんな聖地に敬意を表するように配置されている。
ハワイ古来の伝統医術で、ココナッツオイルは特効薬。
救急病院として最先端の医療を行っているWCCHC保健センターには、全米で唯一の、ネイティブハワイアンのヒーリングセンターが併設されている。ここではハワイアンの、“クプナ”と尊称される長老たちが、ロミロミ、薬草療法、ホオポノポノと呼ばれる集団セラピーを施している。
特筆すべきは、予約さえすれば施術はすべて無料であるということ。もともと、ワイアナエに多く住むネイティブハワイアンの救済を目的に設立され、篤志家の寄付や長老たちの無償の奉仕でセンターは運営されているのだが、広く門戸を開き、人種も国籍も問わず、金のあるなしに関わらず、ハワイアンをはじめ誰にでも施術をしましょうという、実にオープンな、懐の深い受け入れ態勢を敷いている。もし行くことがあったら、ドネーションをぜひぜひお願いします。
そんなホスピタリティあふれるヒーリングセンターの長老に、ココナッツオイルについて取材した。パトア・タマ・ベニオニさんと妻のナラニさんだ。
「ココナッツオイルはハワイアンの体と心と、そして魂までも癒す特効薬ですよ。オイルのいちばん簡単な抽出方法を教えましょう。まず、ココナッツの白い果肉を細かく削って、ミルクを搾る」
パトアさんは、ココナッツの殻の内側の、タワシのような繊維の上にココナッツフレークを乗せ、大きな手でギュー搾ってミルクを滴らせた。
「機械なんてない時代からココナッツの恵みを受けていたんだから、なんでも人力、手仕事です」
ココナッツミルクはノニの根などと一 緒に煮詰めて軟膏にするんだそう。
「切り傷や火傷など皮膚病によく効きます」
そして搾った後のフレークを平らな容器に広げ、太陽が照りつける場所に置いた。
「火も道具も使わない、ソーラーシステムを利用しただけのオイルの抽出方法です。とってもエコでしょう」
と、ウィンク。直射日光に5~7日さらしておくと、お天道さまの力でココナッツオイ ルがじわ~っと滲み出してくるという按配だ。
「オイルはロミロミに使います。打撲や筋肉痛の時にね。運動の前後に塗ってロミロミすると、足がつりにくくなる。出産の陣痛も和らげてくれる。赤ちゃんが生まれてからのベビーロミロミや、不登校など問題を抱えた子どももココナッツオイルでロミロミします」
これぞ“手当て”!
プルメリアやガーデニアの花を入れておくとよい香りのオイルに。
(日刊サン 2015. 7. 15)
奥山夏実 おくやまなつみ●フリーランスライター 『クロワッサン』の特約記者を25年続け、東京を拠点にハワイは毎年、半年ほど滞在。近著に『ココナッツオイルバイブル1、2』、『HAWAII 住むように暮らす』(ホノルルの博文堂でも発売中)など。 |