ベトナムの国民食、フォーは私にとって、好きでも嫌いでもない食べ物だった。日本に比べてハワイは、ベトナム料理の店が多い。当然、フォーの水準も高い。ホノルルのどこのエリアにいても、大抵フォーのおいしい店はあるから、女友達と「昼時なんか食べようか」、となるとサクッとフォーになる確率が高い。
自分でカスタマイズできる、フォーの味付け自由度が仇
ベトナム料理店の客席には、調味料が勢揃いしている。スリラッチャ、甜麺醤のような醤油ダレ、豆板醤、ニョクマム……。フォーを注文すると、各自小皿を取り、自分の好きな調味料を合わせて待つ。それに肉や野菜を付けて食べたり、フォーの中に入れてスープの味をカスタマイズするためだ。“その店の味”は、あんまりリスペクトしなくってもいい。そしてトッピングの野菜も別に運ばれてくる。もやし、タイバジル、英語でロングコリアンダー、日本ではノコギリコリアンダーとも言われるハーブ、青唐辛子の輪切り、レモンなどだ。これも入れても入れなくてもお客まかせのお好みで。私がベトナムを旅した時に食べたフォーは、南のホーチミンは野菜が具沢山、北のハノイは総じてかけそばみたいにシンプルだった。ホーチミンではフォーみたいな汁物に、ドクダミの葉っぱが付いてきてびっくり。ところが食べ慣れるとクセになる味わいで、ベトナム料理を尊敬してしまった。自分用の合わせ調味料ができたら、タイバジルの葉っぱをちぎったりしながらフォーを待つ。タンポポの葉っぱのようなロングコリアンダーも手でちぎる。コリアンダーが野草に戻ってしまったようなワイルドな香りが食欲を刺激する。さあ、フォー登場! 野菜投入!
ところであなたはフォーの丼の中に 直接、調味料を入れますか?
私は最初は入れない派。具だけを小皿の中の合わせ調味料に付けて食べる派。でも、周りのテーブルを見渡すと、フォーの丼の中にスリラッチャを3周くらいかけ回したりする御仁もいる。フォーの麺は味わいも食感も淡白だ。主体性がないから、ついいじりたくなる。私も後半、小皿の調味料をスープに加えたりする。自分好みの味付けにして良いという自由度が、遊び食いのようにいろんな調味料を入れ過ぎて後悔することもある。
プルプルねっとり麗しい スライスTendonのフォー絶品!
友人たちとダウンタウンのカルチャラルプラザに飲茶を食べに行った時、「このビルの南側にすごくおいしいフォーの店があるよ、今度行こうね」と教えてくれた。 後日行ったら、友人は「テンドンだけのフォーにしよう」と言う。右に倣え! Tendonは天丼じゃなくて、牛のアキレス腱、日本でいう牛スジのことだ。ハワイのスーパーでも見かけることがあり、大抵はサイコロ状に切られている。フォーの店でも、サイコロ状のテンドンが入っていたりする。 ところがカルチャラルプラザのPho Huong Lanのテンドンは、半透明のスライス。メニューには牛肉とのミックスしかないが、テンドンだけのフォーと言えば快く応じてくれる。 これがプルプルねっとりのコラーゲンでおいしいのなんの! 牛の胸肉とオックステール、骨髄に野菜やハーブを加え、火加減しながら12時間かけて煮込んだという、店自慢のスープに浮かしながら食べる。幸せ〜、口福。 どぎつい卓上調味料など寄せ付けないほどに上品で、奥深くて、フォー・フォン・ランのテンドンフォーは一躍大好物に!
(日刊サン 2018.07.06)
奥山 夏実 おくやまなつみ ライター
『クロワッサン』の特約記者を25年続け、2017年ハワイに移住。近著に『ココナッツオイルバイブル1,2』、『HAWAII住むように暮らす』(ホノルルの博文堂でも発売中)など。