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Chef’s Story お客さんの笑顔のために。vol.1

後藤哲夫さん

 

 

 

決死の覚悟をもってハワイに移住

35年前家族とともにハワイの地に移住してきたシェフ後藤哲夫さん。1972年に初めて訪れた際に、一瞬で虜になった。「ここに住めたらいいな」と思い焦がれ、その後も40回近くハワイに遊びに来たという。そして、日本で料理人としての腕を磨きながら10年以上の月日をかけて、とうとう移住の夢を叶えたのだ。きっとそれは天にも昇るような気持ちだったにちがいないと想像するが、実は、逆で「自分はもう日本に帰る場所はない。だから、絶対にブレないでやっていくぞ」という並々ならぬ覚悟でハワイにやってきたのである。

 

 

35年後の今カカアコで新たな店を指揮

ハワイ在住年数が短い人たちでも、回転寿司店「KuruKuru Sushi」の評判は耳にしているだろう。ロコたちが「あそこがいいよ!」と薦めてくるほど絶大の人気を得ている。そのオーナーである後藤さんが、昨年から新たに手がけているのが家庭料理の惣菜店「Oh!Sozai」だ。場所は、複合施設SALTを含め、コンドミニアムが続々と建ち並び、新しい町へと変貌を遂げているカカアコ。これからますます発展することを見越してそこを選び、そして、70歳代になった今もパワフルに陣頭指揮をとって働いている。

中華料理店を経営する両親のもとで生まれ、自然と料理好きの少年へと育ち、そのまま料理人の道へと進んでいった。プロとしての経験の第一歩は、フルーツパーラーで始まり、そこから日本食や寿司屋で修行を積み、初めての自分の店として焼き鳥レストランをオープンした。その日本での経験も含めるとシェフ歴は実に50年以上。その半世紀もの間、いついかなる時も一番大事にしてきたことは「お客様目線で考える」だった。その姿勢は、一ミリたりとも崩したことがない。

 

 

「好き」という情熱で 成し遂げてきた数々の実績

まずハワイに来た1983年にカパフルで居酒屋「権兵衛」を開き、その後ワイキキで焼き鳥&家庭料理店「はな火」を1999年から2011年まで切り盛りした。どちらも「あの様な店はもう2度と出逢わないね」と懐かしむ声がいまだに後を絶たない。”あの様な”とは、「美味しい」「安い」「珍しい」そして「愛情溢れる」の4つのキーワードが揃った店だ。確かに、当時のメニューの一例”カツオの白子“や、”モイの炭火焼”など、そんな品を出している店を聞いたことないと驚くものばかりだ。「僕はね、感動で生きているんですよ」と語る後藤さんは、お客様とも感動を共有したい一心で料理を考案する。しかも、後藤さんの想いはさらに深く、「安くて美味しいものを提供する」ことが根本にある。それこそが「お客様目線で考える」ことの真髄だと力説する。だから、「一体この食材どうやって(その値段で)手に入れたの?」と驚かれることもしょっちゅうで、そうしてお客様に感動を与えていた。 続いて後藤さんの話しからは、「ハワイ初」として成し遂げた武勇伝が次から次へとでてくる。

 

まずは、日本でも最近見かけなくなってしまったが、昭和の時代、コロッケは肉屋で売られていた。つまり、ひき肉と玉ねぎとジャガイモで作るとてもシンプルなコロッケだが、ハワイで最初にそのコロッケを出したのが後藤さんだ。他にも、おでんや関東式のお雑煮もメニューに取り入れ、「ハワイで食べられるなんて!」とお客に大喜びされた。さらに、はな火を開店する際には、紀州備長炭を正式な許可を得て、日本から仕入れてハワイで取り扱えるように道を開いたのだ。 日本では簡単にできることが文化も法律も違うハワイでやるとなると、どれだけ困難か。まさにゼロから1を生み出したハワイの日本料理業界の改革者でもある。

 

また、ハワイで手に入るものから創意工夫して料理に使うこともあれば、逆に、伝統的な家庭料理こそ基本に忠実に則った上で美味しい味を生み出した。例えば、先に挙げたコロッケもそうだが、あとは、茶碗蒸しだと、ゆず、銀杏、三つ葉が絶対に欠かせないと後藤さんは思っている。 そこで「今だから笑って話せることだけど」と教えてくれたのが、その当時はゆずがハワイでは手に入らず、日本に帰る度に、皮をむいて冷凍してタッパーに入れて持って帰ってきていたと言う。空港で取り上げられないかと毎回ヒヤヒヤだったそうだ。 他にも、アルコール類に使う氷も一切製氷機を使わず、毎日わざわざロックアイスを作り、手で砕いて出していて、日本の観光客ですらも「いまどき珍しい」と驚いた。また、無料で出すお茶も、ありとあらゆる日本茶を試飲し、その中で一番気に入った静岡の深蒸し茶を毎回日本で買って帰ってきた。こんな些細なところまでも妥協せず美味しいものとこだわったのだ。 一体どうしてそこまでやったのか?と尋ねると、「好きだからですよ」と、とても単純明解な答え。根っから料理が好き、人を感動させるのが好きだからこそ、苦を苦と思わずやってこられたのだと納得だ。

 

権兵衛 
はな火を営業していた頃

 

家族が結束!シェフ歴50年の集大成

こんな情熱と執念と愛情をもって料理作りに取り組む後藤さんの集大成とも言えるのが今回オープンしたOh!Sozaiだ。実は、この店は、子どもたちが「やりたい!」と言いだしたのだそうだ。娘さんの英里奈さんは、ハワイに移り住んだ時から毎日白玉作りを手伝い、せっかくの休暇で旅行していても料理のアイディア探しをしている父親と、それを影でずっと支えてきた母親の姿を見て育ってきた。その上で子どもが抱いた夢だった。でも、父親の真意である「美味しいものを安く提供する」ことを誰よりも一番理解しているから、それが具体化した店になっており、後藤さん自身も「今が一番楽しいね」と笑みをこぼす。家族が結束して営む家庭料理の惣菜店なんてこの時代稀有な存在ではないだろうか。35年前にブレないと覚悟を決めてやってきた後藤シェフの快進撃はまだまだ続く。

 

 

 

昔ながらの味が楽しめる Oh! Sozai の場所はこちら

400 Keawe Steet #108, Honolulu HI 96813

【営業時間】11am~6pm(定休日 日曜)

【電話番号】808-744-1675