お子さんがハワイの学校に通っている、自身がロミロミのなどの資格取得をめざしている…小中学校から大学、専門学校と、ハワイの教育機関は実に多彩。
日刊サンではバイリンガル教育をはじめとする、“学び”の特集をしています。
お話しをしてくれたのは、ホノルルで“フォーカス教育研究所”を主宰する鵜飼高生(ウガイタカオ)さんです。
「アメリカの大学の入学審査は書類選考で行われますが、推薦状(Letter of Recommendation)の提出を求められることが多いです。高校の先生やカウンセラーからの推薦状で、2通3通複数の推薦状を要求する大学もあるんです」
日本の推薦状って、「◯◯さんは成績優秀でクラブ活動にも熱心に取り組みました。よって貴校に推薦します」みたいな箔付けというか、儀礼的な内容になりがちだけど。
「アメリカではそんなことはなくて、入学審査の上で推薦状は重要な役割を果たします。大学側は高校の成績やテストの点数に表れない人物像を知るために、エッセイや面接を課しますが、推薦状もその人となりを知る上でとても大切にしているのです」
学生に対して、ただの“点取り屋”ではなく、ユニークな感性や創造力が求められているから。
「名門大学であればあるほど、人とは違った突出した才能のある学生を入学させたいんです。だから推薦状は誰に書いてもらうか、どんなことを書いてもらうか、周到に準備すべきです」
誰に、どんな推薦状を書いてもらうか?
「自分のことをよく理解し、具体的に評価してくれる人、そして自分の進学に賛同し、応援してくれる人に書いてもらいます。候補としてはまず、好きな教科、成績の良い教科の先生か、進学指導の先生。スポーツや部活動をしているなら、その顧問やコーチ。大学によっては、学校関係者に加えて、ボランティア先の責任者やスポーツチームのコーチなど、学外からの推薦状を提出することも可能です」
12年生になって推薦状を依頼する時期になると、高校からブラグシート(Brag Sheet)に記入して提出するように指示される。ブラグシートとは、推薦状で強調して欲しいことを、ブラグシートの項目ごとに書き込んでいく推薦状のための資料だ。つまり自分のこんなところを褒めて欲しいと、的確かつ積極的に自分自身をアピールしなければならない。
ところが日本人は、自分で自分を褒めることが苦手。つい謙遜して、自分を過小評価してしまいがちだ。
「日本では100点満点からのマイナス思考の減点法で教育をしますが、アメリカでは0点からのプラス思考の加点法で教育をします。褒めて、褒めまくって伸ばしていくんです。だから日本人的には褒めすぎ、盛りすぎくらいの感覚で自己アピールをしてください」
具体的に踏み込んで、ブラグシートを作成
そしてできるだけ具体的に。「英語で◯◯◯◯◯という表現を習った時、日本語にはない言語の背景にある文化の違いを感じ、英語に興味を持ち好きになった」など、具体例に加え日本人として視点を入れるのも“個性”、“グローバル”と評価されるだろう。
「どんなスポーツやボランティアをしているのかを書くのも具体的ですが、そこで人と力を合わせて協調するのが得意なのか、みんなをまとめてリーダーシップを発揮するのが得意なのか、より踏み込んだ具体例がいいですね」
具体的な実例を挙げて、際立った長所が書かれている推薦状が理想だ。
「形式的なスタイルより、熱意ある体温が伝わるような推薦状の方が、審査員の心情を動かします。そのためには、推薦してもらいたい自分が熱い気持ちでブラグシートを用意したいものです」
でもなんかあまりガンガン行くと、推薦状を書いてくれる先生を指図するみたいで失礼にはならないのだろうか?
「日本人のガンガンはアメリカ人のガンガンじゃないから大丈夫です(笑)。あのね、授業の勉強についていけなくなった時、ヘルプしてくれる体制があるじゃないですか。あれ、もっと利用した方がいいと思います。大学入試審査の成績表も、ヘルプの補習を利用して、科目の成績を上げることだってできるから」
アメリカの学校は落ちこぼれをなくさないよう、学校や先生が時にはマンツーマンでヘルプしてくれる。
「勉強でわからないことが生じたら、ヘルプの部屋でぶちまける。先生、助けて! って言う。恥じない、遠慮しない、臆さない。アメリカの先生は必ずヘルプしてくれます。わからないと食い下がってくる精神をよしとしてくれるんです。日本人は人に迷惑をかけるなという風潮ですが、アメリカはお互いさま、頼ったり頼られたりすることに喜びを感じます。僕自身、人を巻き込んで行ける人は魅力的だと思います」
だから推薦状を書いてもらうためのブラグシートは、100%自分の良さを出しきっていいんです、と鵜飼さん。
「自分の長所を書き出すことで、明日からの自分の自信につながると思います。長所を書き出しているうちに、大学で学んでみたいこと、社会に出てチャレンジしてみたいことが浮かび上がってくるかもしれません。ブラグシートって、高校生までの自分を総括して評価する、なかなか良いアメリカの教育習慣だと思います。ぜひ、型やぶりな推薦状を書いてもらってください!」
鵜飼高生 -ウガイタカオ
大阪生まれ、東京育ち。小学生の時、アメリカのオハイオ州で過ごす。明治大学理工学部卒業後、再度渡米。ハワイ大学マノア校にて博士号取得。現在は、「フォーカス教育研究所」の代表取締役。”家庭教師”と”塾”両方の利点を融合させた”家庭塾”メソッドを用い、ハワイ在住の多くの子ども達や家族のサポートに専心している傍ら、建築士としても活躍している。
(取材・文 奥山夏実)
(日刊サン 2019.08.02)