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ハワイでの終活vol.11; 故人の遺灰を海に還す『海洋散骨』について

日本で急増している海洋散骨の背景

日本では『海洋散骨』という葬送を選択する人が増えているのをご存知だろうか。日本で海洋散骨を事業としている村田ますみさん(株式会社ハウスボートクラブ代表)によると、「私が海洋散骨を始めた07年の当社への依頼はわずか6件でしたが、18年は500件以上、今年は600件ほどに増えると予想しています。日本全体でも海洋散骨は右肩上がりで、1万2千件を超えたのではないでしょうか」。
 

村田さんが中心となって14年に立ち上げた一般社団法人『日本海洋散骨協会』は、加盟社10社未満からスタートし、現在は40社以上からなるという。「日本で海洋散骨は、行政上で適法として扱われています。アメリカでは『Scattering』、あるいは海への埋葬という意味の『Sea Burial』と呼ばれ、火葬率の高い西海岸やフロリダ半島で行われています。ハワイで散骨する場合、他の人に迷惑を掛けないよう、岸から3マイル以上離れた海洋で行うようにしています。ローカルアメリカ人の専門業者もおられます」。

急増する日本では、故人を弔う葬送文化として健全に定着させるモラルやルールがないため、問題やトラブルがないわけではない。その背景には、“多死社会”の到来がある。厚生労働省によると、05年に出生者数を死亡者数が初めて上回り、18年推計では年間の出生者数92万人に対して死亡者数は137万人と急増し、今後も増加の一途だ。核家族化、高齢者の独居など、従来のように親族が集まり、費用をかけた葬儀が行えないのだ。墓を買えない人や、跡継ぎのいない墓を更地に戻す“墓じまい”をしたあと、先祖の遺骨の行き場を失ってしまう人も少なくない。もちろん価値観の多様化により、世間を気にすることなく自分らしい葬儀を選択できるようにもなった。

蒼い海で永眠してもらうためのガイドライン

「私の母は生前、『死んだらダイビングで大好きだった沖縄の伊江島に海洋散骨してね』と言い遺していました。03年に急性白血病で他界をしました。亡くなって1年後、母の希望していた沖縄の海に、遺骨を還すことができました。世界の海は繋がっていますから、海を見ればいつでも母に会えるという安心感と、母の希望を叶えることができたという達成感で、とても気持ちが安らぎました」。

そういうポジティブな葬送の一つとして、海洋散骨を発展させるために、『日本海洋散骨協会』ではガイドラインを作成し、その普及に努めている。「たとえば日本では、火葬をすると遺骨になります。遺骨のまま海に撒くのは、刑法190条の遺体(遺骨)遺棄罪に問われる可能性があるので、遺骨を細かく粉末化する必要があります。私たちのガイドラインでは、2mm以下と定め、遺灰に含まれている有害な六価クロムを薬剤で無害化して、海の環境を守るようにしています」(アメリカやハワイで火葬される場合は、遺骨ではなく遺灰になるので、粉骨をする必要はない)。

ガイドラインでは、人が立ち入ることができる陸地から1海里以上離れた海洋上のみで行う、漁場は避ける、フェリーや遊覧船など一般の船客のいる船舶では行わず、散骨のために出航した船舶においてのみ散骨を行うなど、細かな自主ルールを設けている。「協会では散骨証明書を作成し、GPSで散骨した場所を記録しておきます。ですからいつでも正確に、故人が眠る海のポイントに行くことができるんです」。

日本から、ハワイの終活ツアー

村田さんのハウスボートクラブでは、日本各地での海洋散骨に加え、4年前からハワイでの海洋散骨クルーズも行っている。同社の料金は、日本での海洋散骨の場合、一家族のみの乗船は25万円、他家族との合同散骨は12万円、同社に散骨を委託する場合は5万円。ハワイ・オアフ島での場合はクルーザー一艘チャーターは30万円から(6名乗船)、合同乗船12万円から(2名乗船)、代行委託散骨5万円で、船のチャーター費、ホテル送迎、人数分のレイ、献花の花びら、ウエルカムドリンク、日本人のコーディネーター、散骨証明書が含まれる(旅費、税別途)。ウクレレ生演奏やフラは各3万5千円でアレンジできる。(2019年10月時点の価格)「ハワイで海洋散骨を手伝っている川井敬史さんとタイアップして、日本からの散骨ツアーを企画しているんです」。

今回は、日刊サンもサポートして“ハワイ終活ツアー”を実現。日本で樹木葬をしている事業所、旅行業や葬祭業の経営者などが村田さんとともにハワイを訪問。10月11日から3日間、ハワイでの終活市場についてセミナーや、神社仏閣の各所、平等院のあるバレー・オブ・ザ・テンプルズなどの見学ツアーを行い、実際に海洋散骨クルーズにも参加した。

海洋散骨クルーザーに乗船、ワイキキ沖合へ

朝10時、アラモアナに隣接するケワロ・ハーバーに集合。サーファーでハワイの海を知り尽くしている川井さんが用意してくれたのは、豪華大型クルーザー!「クルーザーのサイズはいろいろ選べます。ハーバーから出航して15~20分くらいの沖合で散骨します。水深は20mくらい、蒼く透明度の高い美しい海です」。村田さんは日本から委託代行で預かってきた2柱の遺灰をデッキの一番前に据えレイをかけた。遺灰は水に溶ける紙に包まれ、故人のお名前とともに桐の箱に納められている。

出航。ローカルのウクレリアンがハワイアンソングを歌い、アラモアナやワイキキが遠ざかり、ダイアモンドヘッドまで湾曲したたおやかな白いビーチがパノラマで眺められる。波がきらめき、海の存在に身を委ねる。貿易風が気持ちよく、こんな素敵な場所でなら故人もきっと安らかに永眠できるだろうと確信する。
海に浮かぶ花_ハワイでの散骨 

ポイントに着き、クルーザーはエンジンを止めて散骨の準備。遺灰にかけられたレイや乗船者が首にかけていたレイを外し、紐を抜いて花をカゴに移す。ハワイアンフラワーの花びらもたくさん用意されている。お弔いのチャントがあげられ、桐の箱から白い袋に収められた遺灰を取り出す。各自が祈り、遺灰を海へ還す。色とりどりの花や花びらも遺灰を追うように波間で揺れている。しめやかだけれど、優しく明るく前向きな気持ちになれる散骨。安堵の笑顔。
供養のフラ_ハワイでの散骨

クルーザーは再びエンジンをかけ、散骨したポイントをぐるりと一巡して、ハーバーに戻る。デッキでは、故人を供養するフラ。
村田さんは川井さんと協力して年に1回、日本からハワイへの散骨ツアーを恒例化したいと企画している。「住職や牧師さんに乗船していただき、遺影を飾りお祈りしてもらう方もおられます。散骨も葬儀の一環ですから心を込めて行いたいですね。今年はハワイに来るのは3回目です。3月にクルーザーをチャーターして散骨された方は、3世代家族のお祖父さまの分骨をハワイの海に還したいということで、お祖母さま、息子さんご夫婦とそのお子さん達という6人でお祖父さまを見送られました。アロハシャツの販売を手がけられているそうで、皆さんアロハ姿で明るく賑やかに見送られ、お祖父さまが大好きだったハワイ観光も楽しまれました。もちろんハワイに在住の方の散骨も承ります。自分らしい終活の締めくくりとして、海洋散骨が選択肢の一つとして定着してくれることを願っています」。

(取材・文 奥山夏実)

この記事は2019年10月時点の情報に基づいて記載しています。