ハワイでの終活vol.8 介護予防〜健康寿命の伸ばし方
自立した生活、ADLとは
日本もハワイの日系社会も高齢化が加速し、シニア世代はいかに健康寿命を伸ばし、自立した生活が営めるかが大きな課題となっています。「ピンピンコロリが目標だね」と、体操やウォーキングに励んでおられる方も少なくありません。
いかに要介護や寝たきりにならず、介護予防ができるかは、①『ADL(Activities of Daily Living)=日常生活動作』を維持・向上させること、②元気なうちに心身の機能を維持・向上させ、生きがいのある生活、社会参加できる生活を保つことにあります。また、栄養バランスの取れた食生活や水分補給なども大切です。
①のADL日常生活動作とは、起居(寝る起きる)動作、移乗(階段や乗り物の乗降)動作、移動(歩く、走る)動作、食事・更衣・排泄・入浴・整容(みだしなみ)動作など、日常生活を送る上で最低限必要な動作のことです。
ADL日常生活動作が低下すると、活動性や積極性も下がり、社会参加の機会も少なくなります。生きがいや役割を見出せなくなると家に閉じこもりがちとなり、ますます身体的、精神的機能を衰えていきます。やがて自立度が低下して、介護が必要となり、転倒骨折などが原因で寝たきりになってしまいます。
②は、ADLは支障なくこなせる元気なシニアの介護予防です。体の機能としては、転倒予防・骨折予防のために下半身、足先から腰までの筋力トレーニングを取り入れること。精神面では、生きがいづくりや社会参加でイキイキとした毎日を送るよう心がけたいものです。
アダルトデイケアのサクラハウスへ
日系アダルトデイケアのサクラハウスを訪ねました。ここでのプログラムは、介護予防のためにさまざまなアプローチをしています。それらは読者のシニアご自身、シニアの家族がおられる方にも大変参考になる内容なので、『サクラハウスの一日』として紹介します。
案内してくれたのは、サクラハウスの松岡裕也ディレクターです。
?7:30 オープン&朝食
サクラハウスは 7:30 にオープン。
「時間にはゆとりをもって、朝の体操までには皆さんが揃うようにしています。その間、朝食とお飲み物をお出ししています。飲み物を飲んでいただくことはとても大切で、シニアの方はのどが渇く実感が薄れがちなので、朝から夕方のまでに計1.5ℓの水分を取っていただくよう、随時飲み物をすすめます」
水分を飲み忘れ脱水症状になると、ストロークなどを起こしやすいので、こまめに飲みたい。
「血圧や体温測定をして、体調のチェックもします」
?9:15 朝の体操
「座った状態と立った状態の体操を行います。この体操は転倒防止のためにバランス感覚や身体機能の向上を目的として行っています」
また、加齢とともに関節の可動域が減り、痛みを伴うことも多くなるため、リラックスしながら関節を動かすことでリハビリ効果も得られます。
(体操は後半、フィジカルセラピスト井元洋平さんのレジスタンス運動を参考にしてください)
「体操後は、フルーツとスナックとお水を提供します」
?9:45 ゲーム
「サクラハウスではたくさんのゲームをご用意しています。ゲームはちょっとした競争形式になっています。そうすることでゲームを通して、皆さんに良い刺激を与えたり、社交性を養うことができます」
ゲームをしているうちに表情がほぐれ、歓声をあげたり笑ったり。笑うと、免疫のコントロール機能を司っている間脳に興奮が伝わり、ガン細胞やウイルスをやっつけるナチュラルキラー細胞が働いて免疫力を高めてくれます。
「サクラハウスに通うようになって、家の中でもよく笑うようになったと報告してくださるご家族も多いです」
?10:45 勉強
「脳を活性化するためには、考える、挑戦する、判断するなどの行動が良いと言われています。講師を招いて生け花、習字、計算、間違い探し、スゴロクなどを行い、脳の活性化を図り、脳機能の低下を防止していきます」
?11:45 昼食
「栄養のバランスや嗜好を考慮し、栄養満点の日本食をお出ししています。
皆さんからもおいしいと評判のお弁当です」
一人暮らしや、家族と同居していても日中は一人で過ごすシニアは、どうしても手軽に食べられるお茶漬けやパンですませてしまいがち。肉や魚のタンパク質、野菜のビタミンミネラルが不足するので、意識して食べるようにしましょう。宅食サービスをしている『おおきにおにぎり』などの利用も便利です。
また認知症が出ると食事の記憶が飛んだり、嗜好の変化などがあるので注意をしてください。
?12:45 午後の体操
食後の休憩ののち、午後は座った状態で体操をもう一回。
?1:00 昼食後のアクティビティ
「歌を歌ったり、しりとりなどをします。歌を歌うことは、ストレス発散だけでなく、心肺機能のトレーニングにもつながります」
?1:30 午後のスナック
「毎日日替わりのスナックをご用意します。また水分も合わせて提供し、効率よく水分補給をしていただきます」
?1:45 Arts & Crafts
カードや切り絵などを作ります。指(手)は外部の脳または第2の脳と呼ばれ、指先を動かせば脳に沢山の刺激が伝わり、認知症の予防につながるという。
「作品を完成させることで、達成感も感じることができます」
?3:00 自由時間
スタッフが見守る中、皆さん好きな時間を過ごす。3時過ぎ頃から、家族の方が迎えに来られる。ハグをする娘、手をつなぐ息子、愛あふれる光景だ。
「ご家族に連絡帳をお渡しし、1日の中で気になった事などがあればご報告しています。また、連絡帳には本日行ったアクティビティや食事・水分摂取量が記録してありますので、1日の様子を確認できます」
?5:30 閉館
現在サクラハウスには毎日30人ほどのシニアが通い、平均年齢は90歳前後。通所条件は、下記に連絡をして確認してください。スタッフは常時8〜9人で、全員日本語を話せます。昼食は有名レストランの和食の日もあり、おいしいと大好評だそう。利用料は朝食・昼食・スナック含めて一日77ドルです(登録料別)。
日本語・日本食対応でこんなに充実したデイケア施設はハワイでは稀なため、常時数名が利用登録待ちとのこと。見学は可能ですので、事前予約をしてください。
介護予防にレジスタンス運動を
フィジカルセラピストの井元洋平さんは、“足腰が弱くなった”と感じるシニアのために、フィジカルセラピーやレジスタンス運動の指導を行っています。
「フィジカルセラピー(理学療法)とは、怪我、高齢、病気、障害などによって日常生活に支障をきたした方々に、運動機能の維持・改善を目的に運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて治療を行うことです。マッサージと大きく異なるのは、フィジカルセラピーの場合は日常生活の動作の改善を図るため、ご自分で身体が動くように主体的に努力します」。日本人の5人に1人が転倒による怪我や骨折が原因で要介護や寝たきりになっている実情を考えると、足腰が弱くならないよう心がけなければなりません。
特に加齢とともに心身の活力が低下し、持病の影響などで生活が不活発になっている“フレイル”(Frailty、衰弱や老衰)の状態が一番要注意で、この時期に生活改善や運動を取り入れなければ、ずるずると要介護や寝たきりになってしまいます。
「シニアになると、若い時のようにしっかり足を上げて歩くことができなくなっている場合が多いです。だからわずかな段差でもつまずいてしまう。簡単なテストですが、片足で立てるか試してみてください。よろけても危なくないよう、手すりやテーブルなど、つかまることができるものの脇で片足で立ちます。すぐフラフラしたり、よろけてしまう人はかなり運動機能が低下しています」
そこで井元セラピストは、“腿上げ、マーチング レジスタンス”を教えてくれた。レジスタンスとは、筋肉にちょっと強めの負荷や抵抗をかける筋トレのことです。
「と言っても自分の体重で負荷をかけるので、それほどきつくはありませんから安心してください(笑)」
転倒予防のマーチング・レジスタンス
手すりやテーブル、キッチンカウンターなど、つかまりやすい場所の横で、片足ずつ太ももを上げる。マーチングバンドのように、大げさにゆっくり、足踏みをするようなレジスタンス。
「足裏は床から20〜30cmは上がるようにしてください。腸腰筋という、股関節の深いところにある筋肉が鍛えられます。腸腰筋は腰椎と脚、骨盤と脚を綱がている筋肉でもあるので、歩行と深い関係があります。交互にやって、片足50〜60回はして欲しいですが、はじめは20回くらいからでも構いません」
無理は禁物ですが、平衡感覚が改善すると、つかまらずに片足立ちができるようになります。
ひざ痛予防の脚伸ばしレジスタンス
「ひざなど関節痛がある人の負のスパイラルで歩けなくなる人が少なくありません。
歩くと痛いので歩かない→運動しないから関節の周りの筋肉が衰え、関節の可動域も狭くなる→ますます痛くなり、動けなくなる、
という悪循環です。整形外科などに行き、痛み止めをもらっているなら、ぜひ痛み止めを飲んででも運動をしてください。僕のセラピーでも、患者さんには1時間半前くらいに痛み止めを飲んでから来てくださいとアドバイスをしています」
硬くなりやすい太ももの裏をストレッチしながら、ひざ関節の運動をし、足全体の筋肉を鍛えるレジスタンスです。
「安定した椅子に座り、足を水平に上げます。かかとは曲げて爪先は上向き、ひざが真っすぐになるまでゆっくり上げて5秒ほどキープ、そして足を下ろすときもできるだけゆっくり。反動をつけずにゆっくりしたほうが、筋肉への負荷がかかります」
「関節痛があるなら必ず整形外科を受診してください。その上でリハビリやレジスタンス運動を取り入れましょう」
片足10回で両足20回、一日3セットくらいが理想ですが、はじめは1セットからでもOKです。
「関節痛があるなら必ず整形外科を受診してください。その上でリハビリやレジスタンス運動を取り入れましょう」
筋肉アップは歩くよりレジスタンス運動を
よく、一日1万歩以上歩いているから足腰は鍛えられていると思っている人もおられますが・・・
「筋肉の細胞(筋線維)は、速筋と遅筋の2種類に大きく分けられ、モザイク状に構成されています。速筋は瞬発的に大きな力を出す筋肉で、レジスタンス運動や短距離走などの無酸素運動をするときに使われます。一方、遅筋は大きな力は出せませんが、持久力を発揮する筋肉で、ウォーキングやマラソンなどの有酸素運動をする際に使われます。立つ歩くなどの日常生活の大半は遅筋繊維が使われています。そして老化の特徴は、速筋線維が細く弱くなることなのです」
井元セラピストは、ウォーキングは肥満やメタボリックシンドロームの予防・改善には良いけれど、速筋線維を十分に使うことができないので、レジスタンス運動が効果的だと指摘します。
足のトラブルを改善し、靴選びも慎重に
本誌コラムでもおなじみの、足のトラブルをケアする『フットソース』代表の比嘉由希子さんによると、「高齢者の中には足のトラブルを抱えている人が少なくありません。角質の肥厚、たこ、爪の変形や変色、足の指が曲がってしまうハンマートゥなどです」。
原因は、加齢、運動不足、靴の圧迫などにより足の血行不良や筋肉や靭帯の動きが悪くなり、思ったように足を使えなくなるから。
「ハワイに住んでいると車での移動が多く、歩く機会が減ります。“足は第二の心臓”と言われ、歩くことで、特に歩いて地面を蹴り上げる動作の中で、筋肉がポンプのように静脈血を押し上げて全身の血流を良くしてくれているのです。シニアに多い“むくみ”は第二の心臓である足をよく使っていないからでもあります」
由希子さんは、歩くための靴選びも大切だと話す。
「締め付けず、脱ぎ履きが楽な靴や、サンダルやビーサンなどつっかけるだけの靴選びをしがちですが、足のために良くないばかりか、転倒の原因にもなってしまいます。紐やマジックテープなどで甲を固定する、ウォーキングシューズを履くようにして欲しいです」
ウォーキングシューズの選び方は、以下のポイントです。
☆足の指が丸まらず、靴の中で動かせるスペースがある。
☆歩く際にかかとが浮かず、ホールド感のあるもの。
☆甲の部分が紐やベルトで固定され、足が靴の中で前滑りしないこと。
レジスタンス運動で下半身の筋肉を鍛え、関節の可動域を広げるストレッチを行い、より安全な靴選びで歩くこと−−−介護予防をして、イキイキとした生活をしたいものですね。
(取材・文 奥山夏実)
この記事は2019年7月時点の情報に基づいて記載しています。
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