日刊サンWEB

過去記事サイト

2016年参院選に勝利した安倍首相は、デフレ脱却の経済対策の一つとして年金受給の為の納付期間を2017年4月から10年に短縮する方針を示しました。以下この10年への短縮について考えてみます。  

もともと10年への短縮は、2014年4月から施行された「年金機能強化法」に基づき消費税が10%に引き上げられた時に実施される予定でした。当初、消費税10%への引き上げは2015年10月でしたが、景気への配慮から2017年4月に延期され、更に現時点では2019年4月に再延期されています。消費税増税の名目は、安定した社会保障費の確保で、その中心は年金改革です。その主たるものが受給資格を加入25年から10年への短縮です。   

 

日本の公的年金(国民年金・厚生年金・共済年金)を受給する為には、原則として各年金制度を通算して25年以上加入していなければ1円も年金がもらえない制度になっています。日本にずっと居住して24年11か月年金を掛けていても1か月足らないために一切の年金を受け取れないのです。ですから、これまで年金受給をあきらめていた方が、一気に年金受給者になれる法律です。  

10年への短縮により新たに年金を受け取ることができる人が60万人を超えることが発表されています。海外にお住まいの方は、仮に10年未満の納付期間しかなくても、「カラ期間」「米国年金加入期間」を活用して日本の年金の受給資格を取得できる可能性がもともと大きいのですが、今回の改正でより受給資格を獲得しやすくなります。  

 

これまで当センターに年金の申請手続きを依頼された米国在住の方の中にも、カラ期間の活用や日米社会保障協定の活用をしても25年をクリアーできなかったため、10年改正を心待ちにしておられる方もいらっしゃいます。その意味でも在米の日本の年金短期加入者の方にとっても朗報といえます。これまで日本の年金受給申請をされ加入期間が不足で受給を諦めた方も、今一度見直されることをお勧めいたします。制度の詳細は発表されていませんが、分かり次第当紙面でご説明させて頂きます。  

25年という日本の受給資格期間は諸外国と比較しても長すぎると従来から問題となっていました。世界の受給資格期間を見てみますと、フランスは無し、ドイツ、イタリアは5年、アメリカ、韓国は10年、イギリスは1年~11年、スペイン15年です。25年から10年に短縮する背景には、諸外国に比して期間が長いことに加えて、無年金者対策、掛け捨て防止対策があります。その反面保険料の納付意欲が低下しかねないと懸念する声もあります。保険料を10年だけ納める人が増えかねないという心配です。現に国民年金だけ10年納めたのでは受け取る年金は月額16,252円に留まります。受給資格の期間短縮により年金の長期加入者が減っては本末転倒ですので、そこは十分に対策をとっていく必要がります。  

 

しかしながら、昨今の非正規労働者の増加、転職の増加傾向を見るにつけ25年加入して初めて年金受給資格を確保できるというのは、今の時代において如何にも長いと言えます。年金は老後の保障に留まらず、障害、遺族にも対応する相互扶助制度です。受給資格加入10年への短縮により若い方が年金の意義について認識する良い機会になればと願うものです。

 

(日刊サン 2016.10.22)

 

市川俊治

民間企業勤務後、外務省改革の一環として始まった領事シニアボランティア制度の第1期生としてNY更にSF総領事館に合計6年間勤務。その官と民の経験・知識を基に海外在住者の年金・国籍・老後の日本帰国の問題のアドバイスを行っている。

海外年金相談センター http://nenkinichikawa.org

〒162-0067東京都新宿区富久町15番1-2711号

E-Mail:[email protected]

電話/FAX:03-3226-3240