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夜明け前の、シーンとした空気が張りつめた今日の早朝。実家のある高松市内を出てNYに戻るため、空港へと向かった。今は空の上でこれを書いている。羽田を出てもうすぐ12時間が経過。あと少しでJFK国際空港に到着するため、機内が着陸に向けて慌ただしくなって来始めたところ。私は、出発前から今回のコラムを、機内で書こうと計画して飛行機に乗り込んだ。締め切りまであと半日ほど。書くトピックはまだ考えてなかったのだけれど、何となく書きたくなる何かが起きそうな予感だけは感じていた。そして、予感が的中。やはり、人間の本来備わっている直感とは素晴らしい〜! 笑  満席の機内。私の右横は夫アダム。左横は白人男性。機内に乗り込んですぐ、荷物を棚に上げていたところ、その白人男性が私達に話しかけてきた。この男性、名前はマット。狭い機内で一日の半分を上回る時間を隣に座って過ごす相手だ。彼は、現在29歳で仕事の関係でワシントンD.C.に居を構え、今は政府関係の仕事をしているということが分かった。

 

いつも感じる事だけれど、アメリカ人はコミュニケーションを取るのが抜群に上手い人が多い。いとも簡単に会話のきっかけを掴み、前からの友人だったかのようなリラックスした雰囲気を創りだす事ができる。彼も例外ではなく、機内に乗り込んでわずか5分。すっかり話が盛り上がり、羽田を離陸する前には、私達は名刺交換まで終えていた。テキサス州ダラスに生まれて、育ちはフロリダ。生まれたときから、弱視で目の前の数センチ以外はすべてがぼんやりした世界で、マットは生きているらしい。  旅にハマったのは、今から2年程前。「自分は旅行マニアだ」と言って笑った。今まで国内の他に、パナマ、スペイン、フランス、オランダ、ドイツ、シンガポール、カナダ、日本、台湾へ行ったそう。来月は仕事でイスラエル、パレスチナに向かうと教えてくれた。

 

マットに、旅に出る理由を聞いてみた。自分が稼ぎ出したお金は、物質的なものより、「経験」という価値にお金を投資したいそうだ。 「世界が1つの本だとしたら、まだ数ページしか読んでいない。僕は、これからも世界を旅して、新しいページをめくっていきたい」 目がほとんど見えなくても、その土地の匂いや、音、感じるもの、五感で味わえる喜びはたくさんある。旅での経験が、彼の生きる原動力だと熱く話してくれた。彼の話を聴きながら旅への情熱が伝わってきた。旅好きの私もまた、自分のまだ知らない未知なる場所へ行きたい衝動に駆られ、ワクワクした気持ちになった。飛行機で世界の上空を横切りながら、旅する話に花が咲くという、なんとも素敵な空の上での時間だった。

 

(日刊サン 2018.02.28)

 

大森 千寿

香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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