この冬は、日本列島各地で記録的な寒さが続いている。東京では4年振りの大雪そして、ここ、香川県でも、珍しく、牡丹雪が舞う日が何日かあった。白い空を見上げると、光の中から白い点がふわふらと現れては、そのスピードを増して、音を立てず、静かに自分の周りへと舞い落ちてくる。あまりに美しく、非日常なその光景に魅了された私は、しばらくの間、ぼんやりと眺めていた。するとそのうち、今から15年くらい前に訪れた中央ヨーロッパの旅を思い出していた。
当時、結婚したばりの夫とともに、NYから香川県に一時帰省中、家族やいとこたちと中央ヨーローッパへと旅に出掛けた。たまたま母が折り込み広告のチラシを見て目に留めたその旅行は、4泊5日という短期間に、チェコ、オーストリア、ハンガリーの3カ国を巡るというもの。ほとんどパック旅行に参加した事がない私と、アメリカ人の夫アダムにとっては、ある意味、チャレンジングな旅だった。関空を出発して約13時間30分。チェコのプラハに降り立ったら直ぐに、オーストリアのウィーンまで乗り継ぎ。初日はウィーンで一泊して、旅の疲れを癒した。時差ぼけと、身体の疲れが癒える間もなく、翌日早朝、バスに乗って、プラハへ戻った。1日観光を続ける中、夕暮れになると、とても静かに、雪がしんしんと降り始めた。白い粉雪の舞う中、ライトアップされたカレル橋。ぼんやり遠くに佇むプラハ城はとても幻想的で、今まで、自分が見てきたどの景色よりも美しいと感じた。翌日、ハンガリーのブタペストへバス移動。とにかくバスに乗っている時間が長い旅。トイレ休憩をしては、またバスで次の休憩までただ、ひたすらに走る走る。国から国へ国境をまたぐのに、12時間ほどバスに乗って移動し、慣れない団体行動と長旅に、疲れ果ててしまった。
結局、この旅で覚えているのは、プラハで見たあの夢のような光景と、バス移動。後は、叔母さんが真っ白な雪の中、めがねのレンズを落としてしまい、みんなで冷たい雪の上で、四つん這いになって必死で探しまわったこと。見つかるのはほぼ不可能に近い状況の中でも、信じていたら、奇跡的に見つかった。ただ、めがねのレンズがないのに、それを知らずにめがねの縁だけをかけて、「きれいだね〜」といって景色を眺めていた叔母さんの横顔を思い出す旅、今でもクスっと笑みがこぼれる。
4泊5日、中央ヨーロッパを巡る団体パック旅行の旅。「どこへいくか?」だけでなく、「誰といくか?」そして「自分のペースで旅をすること」が私にとっては旅の重要なポイントなのだと気づかせてくれた、意味のある旅となった。
大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。
(日刊サン 2018.01.31)