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 NYCから、車か電車で約1時間ほど北へ上ったハドソン川沿いに、コールドスプリングという歴史地区に指定された、小さなアンティークの街がある。今から14年前、結婚した日に訪れた思い出の街。

 仕事が多忙な時期と重なり、私達にあったのは1日だけのフリーな時間。それなら、NYCでお祝いをするんじゃなくて、どうせなら、どこか、1日で行ける特別な場所へ行こう!となり、コールドスプリングを選んだ。

 マンハッタンの市役所で結婚の誓いをたてて、その後すぐに列車に飛び乗り、気分はプチ新婚旅行。駅に着くと大雪。冬が大の苦手の私だけれど、その光景は息をのむ程美しかった。

 夕暮れ時の、刻々と空の色が変化していく中で、ダイナミックに広がるハドソン川!寒過ぎて川がバリッバリに凍り付き、まるで天然のスケートリンクのよう。しかし、こんな中でも氷の下では川がいつも通りに流れていることを想像すると、深い感動を覚えた。

 時間に縛られず、優雅に時を過ごしていたら、街中のレストランがすべて閉店していた。聞いてみたら、8時にラストオーダーだという。24時間なんでも手に入る便利なマンハッタンとは違う。極寒の中、諦めずにしばらく歩いていると、奇跡的に、一軒だけ開いているレストランを見つけた。小さなフレンチレストランだった。

 ドアを開けると、温かな店内。なんとそこで偶然、夫の昔の友人と再会!このレストランで働いているという。こんな田舎町で、しかもたまたま一軒だけ開いていたレストランで誰かと遭遇するなんて!

 しばらくすると、私達が注文をしていないシャンパングラスと、シャンパンが入ったクーラーがテーブルに運ばれてきた。驚いていると、ウェイターさんがシャンパンをグラスに注ぎながら、「これは、あちらのテーブルからです」と、近くに座っていたカップルの方に視線をやり、にっこり。

 そのテーブルに目をやると、オシャレで洗練された、上品な装いに身を包んだ40代くらいのカップルが、”Congratulations!”と、ワイングラスを持ち上げた。すると、レストランにいたお客さんたちが次々と、おめでとう!と祝福の言葉を私達にかけてくださった。もちろん、私達は全く知らない人たちだ。あれよあれよと言う間に、映画の中のワンシーンのような、素敵な瞬間を経験させていただくことに…。このお二人、私達が結婚ホヤホヤだという会話が偶然聞こえたらしく、粋な計らいをしてくださったのだ。

 外は極寒だけど、心は温か。人のあたたかな優しさに触れ、涙が溢れた。コールドスプリングは、私にとって原点に戻れる場所。また久しぶりにこの街を訪れてみたくなった。

 

(日刊サン  2017/11/22)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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