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 NYに滞在して、はや3週間が過ぎました。さて、今回NYに来たら、絶対実現したい!と思っていた私の願いの中の1つが先日、叶いました。それは、渡辺謙さん主演のブロードウェイミュージカル、「王様と私」をこの目で見ること。  

 ハリウッドスターで、いくら世界を股にかけて大活躍されている渡辺謙さんとはいえ、全く畑の違う「ミュージカル」という舞台。歌って踊って、全部英語で、約3時間のぶっつけ真剣一発勝負。そのうえ、胃がんの手術から復帰されたばかりというシチュエーション…あり得ない。そんなあり得ないチャレンジを、命がけでされている人間、渡辺謙さんという人の姿を、どうしても、どうしても自分の目で目撃したかったのです。  

 本場NYでのブロードウェイショー。しかも、世界の一流パフォーマー達が、一度はそのステージに立つことを夢見るといわれる、名門中の名門、リンカーンセンター。  

 開演前、おしゃれをしたニューヨーカーたちの長い列。ふと、斜め後ろを見ると、音楽家の坂本龍一さんの姿も。そして、1000人を超える観客の前に、その圧倒的な存在感を表した渡辺謙さん。  

 実は…チケットを手に入れようとした時には、時すでに遅し…完売。しかし!どうしても諦めきれずにいた私は、公演最終日2日前。思い立って、明け方4時にネットで検索すると、奇跡が! 2席のみ「Available」と出ているではありませんか!! それだけでなく、その席が、まさかの、謙さんのまつげが見えるほど、目の前の席だったのです!  

 そして2時間と55分…。舞台が終了したその瞬間から、鳴り止まない拍手喝采。そして評価の厳しいニューヨーカーを含めた超満員のリンカーンセンターは、興奮と熱気に沸き、観客総立ちのスタンディングオベーションに包まれました。それに応える謙さんは、何度も何度も腕を大きく振り上げ、渾身のガッツポーズ!  

 ここに来るまでの道のり。想像を絶する努力と、とてつもない勇気の果てを経験した人だけが手にすることのできる、本物で、一流の、何もかもを卓越した顔に見えました。まさにそれは、極限を経験した人にしか味わえない究極で極上の瞬間なのだと思うし、そのプロセスを体験し、諦めず、乗り越えた人にしか出せない、眩しすぎる、見事な顔でした。  

 

 人生の中で、あと、どれだけこんなにも心が震える場面に遭遇できるだろうか? NYの街でまた一つ、大事な宝物を貰いました。

 

つづく

 (日刊サン  2016/4/29)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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