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 私には、大正生まれの祖母がいる。彼女は、とにかく旅行が大好きで、今まで、NYやハワイ、オーストラリア、カンボジア、台湾、シンガポール、ベトナム、中国、ヨーロッパをはじめ様々な国を旅している。それも、80歳を過ぎてから、頻繁に海外旅行へ出掛けるようになった。理由は、祖父が亡くなり、その後お姑さんも105歳まで面倒を看て、自分の人生を楽しめるようになったのは、やっと80歳を過ぎてからだったから。

 祖母の口癖は、「今回が、人生最後の旅や!」旅を計画してから、そして、旅の途中、帰国後に渡り、何度も何度も繰り返し、「最後の旅」を強調する。一緒に同行する私たちも、「もしかしたら、この旅行が一緒に楽しめる最後の旅になるのかもしれない」と毎回覚悟が必要になるのだが、もう、かれこれ10年以上も言い続けている。家族で旅行に出掛けると、結局は祖母が何より一番元気なのだ。ありがたいことだ。      

 旅に出るだけでなく、朝目覚めたらいつも「今日が最後の1日かもしれない」と話す。その分、やりたいことを思いっきりやって、最大限に自分を生きているように見える。

 祖母のいいところは、天真爛漫、好奇心旺盛なところ。外国へ行って、言葉が通じなくったって、お構いなしに誰にでも話しかける。身振り手振りで何やら相手とコミュニケーションを取っている。そして不思議と通じ合えている。そんな彼女の姿から、私は一歩を踏み出して誰とでも話をするガッツをもらった。

 彼女をみていると、地元香川県のお隣、徳島県の阿波踊りのこんな掛け声の一節を思い出す。「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」暑さと人混みの熱狂の中、阿波踊りを披露しながら、踊り子さんたちが所々で、音楽に合わせて一斉にこのフレーズを皆で大合唱する。なぜか、この言葉を聞くと、ワクワクする。

 祖母のように毎日を「最後」だと思って生きている人には、怖いものがほとんど存在しなくなるのかもしれない。

 今まで戦争や、生死に関わる大病を何度も経験してきただけでなく、大変な苦労をいくつも乗り越えて来た祖母も、あと数日で93歳。来月はマカオ、香港旅行を計画していて、楽しみにしている。もちろん、「今回が、人生最後の旅や!」と相変わらず言っているのだけれど、彼女にとっては、今が青春真っ只中のようにみえる。

 いくつになっても楽しむことができることを教えてくれる、人生の大先輩に感謝だ。

 

(日刊サン  2017/7/5)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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