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マンハッタンからバスに乗って約20分。お隣、ニュージャージー州へ行ってきた。  

夫、アダムのアート作品を購入して下さったお客様が、ホームパーティーへ招待して下さったからだ。お客様は、イタリア系アメリカ人。代々受け継いでいる秘伝のレシピで数々のイタリア料理を作り、出迎えてくれた。パーティーには10人程。テーブルでは、英語に混じりイタリア語が飛び交う。そして、みんな豪快に食べて豪快にしゃべる!  

そんな中、ふと目の前の男性が私をジーッと見ていることに気づいた。80歳は越えているだろうか。皆が盛り上がる中、黙って一人静かに座っていた。私と目が合い、一瞬の沈黙のあと”Are you Japanese?”と聞いてきた。  

経験上、この世代の方々は2つに一つ。日本が大好きか、好きじゃないか。おじいさんの険しく固い表情から、「もしかしたら、後者かも」と、心の準備をしながらも、笑顔で “Yes! I’m Japanese”と堂々とこたえた。  

すると、おじいさんの口元が緩み、みるみる笑顔になったのだ。そう、おじいさんは日本のことが大好きだと教えてくれた。昔、若い頃に何度も日本を訪れていたらしく、いかに日本で出逢った方々が素晴らしいおもてなしをしてくれたかを、もう、子どものように無邪気な表情で次々と話してくれた。  

あぁ、よかった…。日本でおじいさんが出逢った親切な方々のお陰で、私は肩身の狭い思いをせずに済んだ。  

これをきっかけに、テーブルの会話がおじいさんを中心に回り出した。日本ではどんなことをしたのか、何を食べたのかなど質問が飛び交い、おじいさんは懐かしい日本のことを思い出し、打って変わり饒舌で上機嫌だ。  

帰り際、おじいさんから熱烈なハグを貰った。そして、おじいさんよりも喜んだのは彼の奥様だ。  

奥様の話では、おじいさんは3年前に病気をして以来、以前のように外へ出掛けることもできなくなり、1日中、家の中で過ごしているという。もう、笑うこともなくなってしまったおじいさんが、久しぶりに外出した中で、日本のことを思い出し、人生を取り戻したように、それはもう、生き生きと話をしている姿をみて、感動したのだと言う。病気になる前に戻ったような明るいおじいさん本来の姿がみられたことに、嬉しさのあまり泣いていた。  

人は、楽しかった旅の思い出を話すとき、一瞬にしてその時へとワープする。おじいさんも、昔の日本の話をしているうちに若くて元気だった頃の自分のエネルギーを取り戻したのだろう。みるみる元気を取り戻した様子のおじいさんをみて、私も嬉しかった。  

人間が潜在的に持っているチカラは、やっぱり素晴らしい!

 

(日刊サン  2017/6/21)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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