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英語には、こんな慣用句がある。“The sky is the limit”。空には制限や限度がない。日本語にすると、「可能性は無限」という言葉。アーティストの夫アダムが、よく口にする言葉なのだが、先日、この言葉を巡って、ちょっと面白いシンクロが起きた。  

私たちの仕事場、NYのアトリエはロフト式で、高さ4メートルを越える巨大な窓が14枚ある。そこから光のシャワーが一日中降り注ぐ中、飛行機が大空を横切っていく。飛行機を見ると、いつも想い出す人がいる。今から25年前。オレゴン州の高校に留学していたときの親友、モニアのことだ。  

モニア17歳、私16歳。将来、旅客機のパイロットになる夢を持っていた彼女は、17歳で既にセスナ機のパイロット免許を持っていた。彼女が操縦するセスナ機に初めて二人だけで乗って、オレゴンを空の上から眺めた時の興奮と少しの怖さ、新たな楽しさとその時に味わった感動は今でも忘れられない。  

彼女は、大人になったら、必ずプロのパイロットになるんだといつも話していた。1990年代初め、旅客機の女性パイロットなど、当時はまだ、聞いたことなかった時代。私は一度だけ彼女に「女性だから不利かも」と言ったことがある。すると、彼女は笑いながらも、“The sky is the limit!”(可能性は無限)と力強くこたえた。  

日本に帰国後、しばらくして文通が途切れてしまった後も、私には空を見上げる楽しみがあった。空を優雅に飛んで行く飛行機を見る度、「もしかしたらあの飛行機を操縦しているのはモニアかもしれない」と夢を広げていた。  

SNSが発達した今、彼女が本当にパイロットになっているかどうかは、簡単に調べることもできた。しかし、どこか私の中で、夢のままで置いておきたいという気持ちがあった。

あれから、25年。ぼんやり窓の外に広がる青い空を眺めていたら、また、目の前を飛行機が飛んで行った。すると、それを見ていたアダムが、“The sky is the limit”(可能性は無限)とつぶやいたのだ。  

次の瞬間、初めて、無性に、モニアの現実を知ってみたい衝動に駆られた。SNSで名前を探した。ドキドキ、自分の鼓動の高鳴りが響いている。そして、見つけてしまった…。

やっぱり!彼女は、某航空会社のパイロットになっていた!!  

モニアがまさに口にしていた通り、可能性は無限なんだ。彼女は、自分の素直な思いを貫いたんだ!彼女の勇気が誇らしく、涙が溢れた。

限界をつくり、制限してしまうのは誰でもない、自分自身だ。そして、今までつくっていた限界を取り除くことができるのも、誰でもない、自分自身なのだ。 

 

 

(日刊サン  2017/6/7)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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