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マンハッタンの街に、色とりどりのTシャツや短パンを身につけた人々が溢れはじめた、4月も終わりの夕暮れ時。アンティークヨットを2隻所有し、セーリングツアーの会社を経営している友人のヨットが、シーズン初出航の日を迎えた。  

これから10月終わりまで、ほぼ毎日ニューヨークハーバーを出航する。ニューヨーカーや観光客たちが世界中から詰め掛ける、約2時間の人気のヨットセーリングだ。  

 

出航してしばらくして自由の女神の向こう側に太陽が沈みかけ、辺り一帯がオレンジ色の光で包まれ出した頃。隣に座っていた年配の男女が、シャンパンで乾杯をはじめた。女性が身につけている上品でオシャレな黒の革ジャンに、クールな真っ赤のふちのサングラスが、洗練された大人の女性の雰囲気をより一層際立てている。カッコいいな、と思った瞬間、彼女と目が合った。  

どこでも、誰とでもすぐに自然と会話が始まるアメリカ。話を聴くと、彼女はローマからNYを訪れているイタリア人で、彼は生粋のニューヨーカー。なんと、二人は2日前に結婚したばかりの新婚ホヤホヤカップルだという。それだけではない。御年ともに80歳! 彼女は、今回が人生で初めての結婚だと教えてくれた。  

 

出逢いは今から44年前のニューヨーク。精神分析学者として、着実とキャリアを積んで成功していた彼女が、ローマから14日間のバケーションでマンハッタンを訪れた時、偶然、二人は出逢ったそうだ。彼曰く、その時彼女に一目惚れしたのだが、彼女には別の彼がいた。しかしその後、途切れながらも、なぜか不思議とお互い必要な時には、そばにいたそうだ。  

最後に、どうしても彼女に聞きたかったことがある。  

「出逢いから44年も経った今、結婚を決意したきっかけは何?」  

私の質問に、彼女は一瞬、間を置いた後、イタリア訛りの英語で語り始めた。  

「夢も、幸せも、お金も、好きな人も、何でも追いかけたら逃げるものなのよ。でも彼は、44年もの間、私に自由をくれたの。結婚する前夜も、“もし気分が変わったなら今からでも取りやめていいよ”と言ってくれた。私はその瞬間、“やっぱりこの人で間違いなかった!”って確信したのよ」  

揺れ動く摩天楼の煌めきが反射して彼女の顔を照らす中、セーリングも終わりを迎えた。 44年間彼女を気長にじっくり待ち続けた温和な笑顔の80歳ニューヨーカーオトコと、自立してどこまでもクールな80歳イタリアオンナ。彼らのエンドレスなラブストーリーに、私は大きな刺激を受けた。  

歳は関係ない! 愛は国境も年齢も越えるのだ。  

 

「あなたたち、今度はローマで乾杯しましょうね」  

そして次は、ローマへ行く夢が広がった。

 

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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