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仕事の関係で年の半分は海外で過ごしている私と夫ですが、日本に帰国する度、決まって行く場所があります。それは、伊勢神宮。今回も、両親と92歳になる祖母、私達夫婦の家族5人で、1泊2日のお参り旅行へと出掛けてきました。  

香川県高松市の実家からみんなを車に乗せていざ出発。車酔いをする私は、もっぱら運転手。運転が大好きでよかった!  

昔の人たちのように全国から伊勢神宮目指し、歩いてお参りをしていた頃を考えると、今は比べようのないほど交通の便にも恵まれているし、日本中何処へ行くにも驚くほど時間短縮で目的地へと到着できる、有り難い世の中です。  

 

今回のお参りは、いつもとは少し違っていました。長年の念願が叶い、ついに家族で御垣内参拝(みかきうちさんぱい)をさせていただく機会を得ることができました。この御垣内参拝は、礼服を着用し、通常の参拝をする本殿前のさらに奥へと進みます。伊勢神宮をお参りされたことがある方ならお分かりだと思いますが、白い大布が下げられていて、それ以上は足を踏み入れることのできない聖域となっている場所に入り、お参りをするのです。  

翌日、朝5時に起床し身を清めた後、家族とともに早朝の伊勢神宮の内宮に向けて宿を出ました。内宮の正門をくぐると、そこは一気に温度が変わったかのようにひんやり。急に身が引き締まりました。日の出前とあって、お参りされている人もほとんどおらず、静寂が広がっています。聴こえてくるのは時々響き渡る鳥のさえずりと、家族の誰かが一歩足を前に踏み出す度に聞こえてくる、砂利の音がこだまするのみ。いつもは大変おしゃべりな祖母も、内宮のエネルギーに圧倒されたのか、一言も口をきかず無口で前進していました。

そしていよいよ、本殿前に到着。神官のあとについて、父を先頭に家族が順番に垣根の内側へ。こぶし程もある想像以上に大きな玉砂利を一歩ずつ踏みしめながら、前進している最中、感謝の気持ちがとどめなく溢れてきました。  

ここまでお参りができたということに感謝。空気が吸えることに感謝。太陽に感謝。日本人として生まれて来れたことに感謝。命を頂けたことに感謝。  

 

目の前に、当たり前のように見えていたことが、本当はひとつひとつ奇跡的なことなんだと気づき、ただただ、有り難くて涙が込み上げました。横で参拝していた母をちらりと見ると、母の頬にも涙が伝っていました。  

本殿からの帰り道、だんだんと太陽が昇り、凛と透明に澄んだ空気が黄色く色味を帯び始める中、私は、心のふるさとに戻って来れたような、とてつもない安心感と懐かしさに包まれていました。  

今、ここに生かせて頂いているということに、感謝です。 

 

(日刊サン 2017/12/12)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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