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月と地球が、68年振りに最も接近した満月の夜が先日ありました。その距離、356511kmだったのだとか。途方もなく遠い距離に思いますが、果てしない宇宙のスケールにおいては、近い距離なんでしょうね。  

 

月をみると、必ず想い出すことがあります。今から25年前、高校留学の為に私はオレゴン州のセーラムという田舎町で1年間を過ごしました。  

16歳で親元を離れ、知らない人たちとの生活。文化も言葉も人種も、宗教も価値観も違う中、いきなりアメリカの高校へ編入し戸惑う日々。アジア人ということで差別を受けたこともありました。そこで私を救ってくれたのは、ホストファミリーでした。  

学校から帰り、ベッドに駆け込み泣く日もありました。そんな時、アメリカのパパは「チズ、みんなかけがえのない存在なんだよ。」と言ってくれました。私より3歳年下の妹キャミーは、部屋にやって来て、私を笑わせてくれました。そして、そんな日は決まって、泡風呂の準備をしてくれるのです。キャミーは、私を元気づけようとあれやこれやと方法を考えて、寄り添ってくれました。  

泣いたり笑ったりしながら1年が過ぎ、いよいよ日本へ帰国する前夜のこと。  

キャミーが部屋にやってきました。すると突然、彼女は、長くてツヤツヤした、まるでアメリカ人形のような金髪を一気に鷲掴みにして、ためらうことなくハサミでジョキジョキ!! その姿は、アメリカ人形ではなく、武士のよう。(笑)  驚き、固まっている私にキャミーは自信満々、「チズは、いつも私の金髪を羨ましがっていたでしょ。だから、チズにあげる。」と、得意気な表情で、その金髪の毛の束を差し出してきました。  

人毛のプレゼントなんて生まれてはじめて! びっくりした後、キャミーの優しさが急に愛おしくなり、反動で思わず笑いが込み上げてきました。それにつられてキャミーも大笑い。しばらく二人で大笑いしていたら、パパが何事かと部屋にやってきました。そこで、事情を知ったパパは、あきれた感じで頭を左右にゆっくりと振った後、微笑み。  

ふと窓の外を見ると、満月が悠々と夜空を照らしていました。その美しさに圧倒された私たちは、急に静かになり、しばらく月明かりに見惚れてしまいました。すると、パパがこう言いました。

「チズは明日から日本に戻ってしまうけど、世界中、どこにいようと同じ月をみているよ。嬉しいことも、悲しいこともこれからたくさんある。そんな時は、月をみなさい。つながっているから。」

 

25年経った今でも夜空を見上げる度に、幸せな気持ちでいっぱいになり、明日への活力が湧いて来る。  地球はひとつ。そして、みんなかけがえのない存在なんだと。

 

 

(日刊サン  2016/11/14)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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