日刊サンWEB

過去記事サイト

NYのロフトで誓ったこと

NYのロフトで誓ったこと

 

日本に連絡すると、すでに桜のつぼみが今か今かと花開くのを待っていると言う。  

 

日中でもここ連日、気温2度を行ったり来たりしている寒さのニューヨークにいると、春の気配からほど遠く、桜のことなど想像もできない冷たさ。そんな中、数ヶ月前に天国へ行った、夫アダムの友人のメモリアルパーティーが行われると連絡が入った。場所は、故人デイブの家。マンハッタンのソーホー地区にある超巨大なアーティストロフト。彼のお父さんは有名なアーティストで、その昔、ソーホーがまだアーティストたちで賑わい活気のあったころ、彼の父親もシカゴからソーホーへと移り住んできたそうだ。ソーホーは、今では高級ブティックが軒並み店を連ね、世界中からの観光客が毎日押し寄せる場所になっているが、80年代くらいまでは倉庫街のとても危険な場所だった。誰も寄り付かず、家賃も激安。そこへ作品の創作にもってこいの倉庫街に目をつけたアーティストたちが50年代くらいから徐々に移り住んでいった。アーティストが移り住むエリアはやがて人気のエリアになる。今度はおしゃれになりすぎてアーティストが住めない程に家賃が高騰して今にいたる。  

 

ソーホーのロフトに集まったのは、デイブの親戚家族、友人たち総勢300人以上。一度にこの人数が集まってもまったく狭さを感じない家に住んでいるとは、すごいものだ。それぞれが自由に飲んだり食べたりしながらデイブのお父さんのアートに囲まれ、想い出話をしていたのだけれど、途中、ひとつの部屋に集まり、デイブの息子たちそして親友が胸の内をシェアする時間があった。思いっきり泣いて、笑って一緒に想い出を共有し、そして痛みを分かち合い、中には秘密を暴露したり…。なんとも濃厚で貴重な時間。今、この瞬間を生きているわたしたちにとって、今ここにある時間こそがすべてであり、現実。「自分の持っている力を出し切れてはいるか?その可能性を1ミリたりとも無駄にするな!」「人生は、角を曲がった先になにが待ち受けているかなんて誰にも分からないから面白いんだ。だから、最期まで諦めず全力を尽くしていく」デイブがよく話していたこれらの言葉が胸の奥深くで鳴りひびき、じわりじわりと心に沁み込んできた。今のわたしは100%の力を出し切れているのか? デイブは多くの人々に、生きる勇気とちからそして愛を届けてくれた。彼と関わった人たちの中で彼という存在は、一生消える事はないだろう。ありがとう、デイブ。わたしも自分の可能性を無駄にしない生き方を選択していく!多勢のニューヨーカーでごった返すなか、巨大ロフトでひとり静かに、そう誓った。

(日刊サン 2018.03.21)

 

大森 千寿

香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。 www.chizuomori.com