ハワイの教育コラム|イゲット千恵子の子供をビジネス脳にする
Vol. 17 言語による労働階級社会
ベネチアからイタリアの客船で、エーゲ海を回ってきたのですが、クルーズには700人以上のクルーが働いていました。乗客2000人は世界各国から乗船しているので、クルーズ内の公用語は英語です。アナウンスは、イタリア語と英語がほとんどですが、イベントなどは、イタリア語、英語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、ドイツ語の6ヶ国語が喋れるMCが、それぞれの言語で説明を入れていて、言葉の達人に、すごいなと感心しました。
ヨーロッパの人は、3ヶ国語、4ヶ国語を喋れる人は多いとは聞いていましたが、こうやって実際に、仕事として日常的に使っているのを見ると、やっぱりバイリンガルくらいじゃ足りないのかもしれないと思ったりもしました。
クルーズは宿泊と食事を含めて、とてもリーズナブルな金額からスタートしますが、乗船期間中にたくさんの課金ポイントがあります。寄港地でのオプショナルツアー、乗船中には、飲み物、Wi-Fi、スパ、カジノ、ショッピングなど、簡単にお金を落としやすいシステムになっていて、なるほど上手くできているシステムだなと思いました。
船内のバックステージを見学できるという船内ツアーがオプショナルであったので、参加してきました。食料庫、人事部、スタッフ休憩室、キッチン、洗濯室、ショーステージなどを見せてもらい、毎晩開催される華やかなステージの裏側やショーの演者には代役がいない苦労など、大変な環境だと思いました。中でも、スタッフは窓がない船底で暮らしていることが、私にとっては最も衝撃でした。
700人のスタッフは、世界各地から集まり、さまざまな人種が働いていました。1日11時間労働で乗船中は休みなし、9ヶ月契約で3ヶ月はオフというシステムで働いているそうです。言語ができる人と、言語ができない人では、できる仕事がはっきりと分かれていました。
言語ができない人には、洗濯室で客室のシーツやタオル、お客様の洗濯物を洗う仕事や、肉や野菜をただひたすらずっと切る仕事など、接客が必要のない単純作業が充てられていました。
言語のできる人は、船底から甲板に上がり、窓や外の空気が吸える仕事につけるのかと思うと、こんなところで言語格差を切実に感じました。 これからの時代は、国境がなくなり、いろんな国の人と働いていくことになります。もちろんAIの発展によって、言語の音声翻訳機などが普及してくるとは思いますが、世界中から集まった人と仕事を一緒にする時、自分はどんな仕事につけるだろうか?と考えてみると、ハワイの子ども達もバイリンガルで満足せずに、もうひと言語ができるようにさせた方がいいなと思うのでした。
イゲット千恵子
オアフ在住、日米で会社経営&作家 2017年に「経営者を育てるハワイの親 労働者を育てる日本の親」を出版し、日米の教育の違いによるビジネスマンの仕上がりの違いを書いた本が話題となる。日米での事業は、グリーンスパハワイ、通販事業、スクール、教育事業、ハワイ教育移住、執筆、講演、セミナーなど、詳しくは、chiekoegged.com
(日刊サン 2019.09.20)