2011年3月、福島県の第一原子力発電所の事故で大気中に危険レベルの放射能が放出されました。幸いにも風の影響で、大気中の放射能の約80%が太平洋に放出され、県内に放出された放射能の量は20%と、チェルノブイリ原発事故よりもはるかに少ないものでした。
福島県全体で行われた除染作業で放射線量は大幅に低減されましたが、県内の除染作業がまだ完全に終了したわけではありません。第一原子力発電所のある太平洋側の立ち入り制限区域や森林地域の奥深くでは依然放射線量が高いままです。制限区域は福島の総面積の約2.7%で、そこに住んでいた約4万人が現在も避難しています。復興作業はまだ終了していませんが、福島のほとんどの地域は安全な放射線レベルを維持しており、県民の大多数は通常の生活を送っています。
福島の放射線レベルを下げた3つの要因
まず、原発事故で発生した放射性物質は減衰し、福島県内の放射能は大幅に減少しています。放射性元素は絶えず放射能を失い、最終的に100%が非放射性になることは科学的事実で、これが自然のプロセスではありますが、放射性元素によっては急速に減少するものもあれば、何年もかかるものもあるのです。
急速に崩壊した放射性元素の1つは、原発事故によって大気中に放出された放射性ヨウ素でした。放射性ヨウ素は、福島県の子どもの多くが甲状腺がんになるのではないかという不安を引き起こしましたが、現在、2011年3月の原発事故で放出された放射性ヨウ素は完全に消滅し現存していません。原発事故で放射線にさらされた可能性のある福島県民の全体的な健康を追跡する甲状腺プログラムとそのほかの3つ健康管理プログラムについては次回以降の記事でお伝えしようと思います。
原発事故によって2種類の異なる放射性セシウムが環境中に放出されましたが、それぞれの放射性崩壊のスピードは異なるものでした。一つの放射性セシウムは急速に減衰し、この8年間で放射能が大きく減少しましたが、もう一つのタイプは緩慢な減衰で、わずかな減少しか示されていません。そのため日本の除染作業と食品安全プログラムは、人間の健康に対し主要な脅威であり長期に渡りゆっくりと減衰していく2つ目のセシウムに焦点を当てています。
汚染された地表は雨や雪で洗い流されており、気候が環境中の放射性元素に大きな影響を及ぼすことが判明しました。降雨量と降雪量が多い地域として知られている福島県では1年を通じての天候の変化が都市部の放射能汚染のレベルを下げるのに大きく役立っています。雨によって放射性セシウムが洗い流された都市部では、セシウムがいったん土壌と化学的に結合すると、それは地下水に再溶解せず容易にろ過され安全な飲料水を供給できるようになりました。
日本では前例のない大規模な費用と広大な範囲で行われた福島の除染作業は2017年に完了しましたが、この時の除染の対象は放射性セシウムが中心でした。ほとんどの地域での除染作業はそれぞれの地方自治体が担当し、大規模な地域社会の努力により家屋、学校、企業、農地、限られた森林地域、道路や沿道の放射線汚染が除去され、低減されたのです。
福島県全域では除染がまだ完了していない地域もありますが、雨や雪で地表が洗い流されたことによる放射性物質の減衰と除染プロジェクトにより福島県内の放射線レベルが安全値まで下がっていったことは、福島にとっても日本にとっても明るいニュースとなっています。現在では、県内の住民や福島を訪れる観光客にとって、生活、仕事、通学、遊びなどの日々の生活に影響のある放射線レベルは世界の主要都市と同じレベルまで下がり、今後も雨や雪の洗浄効果による放射性物質の減衰は継続していくでしょう。
政府が報告した放射線データの正確性は疑問視されていましたが、現在も県内2,996カ所の学校、保育所、公園を含む全3,647か所で国により放射線量が測定されています。2011年3月の震災直後から、多くの県民が個人的にガイガーカウンターを購入し自分たちの住む地域の放射線量を測定して国の測定値と比較していますが、これまでのところ私は、福島の住民から政府の測定機器やウェブサイトの報告と住民のデータが異なると耳にしたことはありません。
私は福島市内の自分の住んでいる地域や県内各地を訪問する際、様々な地域の放射線レベルをハワイから持ってきたガイガーカウンター/線量計で頻繁に測定しながら、自分のガイガーカウンターのデータ、政府のデータ、そして福島の放射線データを収集している世界最大の第三者集計機関であるSAFECASTのデータを厳重に比較しています。SAFECASTは民間の非営利団体であり、福島の住民が自分たちのガイガーカウンターを使って自分たちが住んでいる場所、働いている場所、子どもたちの通学路の放射線量を個人的に測定したことから始まった機関です。政府の放射線データ、私の個人的なガイガーカウンターの放射線測定値、SAFECASTの放射線データを比較した結果、全ての数値が一致していると言うことがわかりました。
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スティーブ・テラダ
日系三世のアメリカ人で、祖父母が112年前に熊本からハワイに移住。ワシントン州シアトルの米国陸軍工兵隊・不動産部門のチーフを退職。在日米軍の不動産部長として東北から広島までの米軍基地の不動産管理に当たっていた。 陸軍を退職後、災害管理援助のため1年間の予定で福島に移住。現在も福島が「悪評」に苦しんでいることを知り、地元の人たちから福島の実態を世界に知ってもらうために、第三者的視点でストーリーを書いてほしいと頼まれたことから事実の伝達者として1年間のビザを取得。現在調査と執筆のため、福島県福島市に在住。
(日刊サン 2019.09.24)