映画を観てハッと思い出した。1994年の5月、イタリアで行われていたF1をトップで走行していたアイルトン・セナが乗ったマシンが時速200km以上でクラッシュ。“音速の貴公子”と呼ばれ数々の大会で優勝した名ドライバーが帰らぬ人となった、というニュースを見た記憶を。
フェラーリのスポーツカーのような優美なデザインの車を新たに売り出そう!と、買収を目論んだフォード。しかし、契約直前に破棄された挙句自社をコケにされ、CEOが激昂。フランスで開催される24時間耐久レース“ル・マン”に参加し、連勝中のフェラーリに勝って見返してやるぞ、と意気込む。これまでレーシングカーなど製造してこなかったフォードが“ル・マン”開催までの短期間でどう成果を挙げるのか・・・そこで、優秀なカーデザイナーであるシェルビーにオファーが届き、彼は、フェラーリに勝つ車を開発する為には理想的なドライバーも必要だ、と破天荒だが腕は確かなマイルズに声をかける。果たしてフォードは、無敵のフェラーリを打倒出来るのかー。
車やレースに関する専門知識がなくとも大丈夫。作り手のシェルビーとドライバーのマイルズとのユーモラスなやり取り自体や、最高のレーシングカーを作り出すために取っ組み合いの喧嘩すらしながら互いにプライドをかけて努力する姿。そしてマーケット戦略担当のアイアコッカや副社長、社内でそれぞれの思惑が交差する様も面白いが、やはり終盤の“ル・マン”でのレースが一番の見所。レーシングカーに実際に乗っているようなスピード感や心理面、臨場感を味わえて感情移入できるので、これまでレースに興味がなかった人でも楽しめる内容になっている。
どれだけ速く走り1位を勝ち取るか。「私は2位や3位になるために作られていない。勝利するために作られているのだ」、と生前アイルトン・セナが言い残している。スピードを競い、命をかける危険なモータースポーツ。だからこその真剣勝負を、人々は熱狂して観るのだなとあらためて思った。
●加西 来夏 (かさい らいか)
映画は年間100本以上視聴、訪問39ヵ国〜の旅する映画ラヴァー/好きな映画のセリフはよく真似や応用してしまい、たまに“I’ll be back,soon”は使いますが、さすがに “Hasta la vista, baby.”の出番は無いだろうなぁ・・・。
(日刊サン 2019.12.05)