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トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜

Bynikkansan

9月 12, 2019

かつて、前世が視えるという人と話す機会があった。「腐れ縁の知人がいるのですが、前世の縁でしょうか」。その人は目を閉じて、ゆっくりと語り出した。「ええと、そうですね。関西弁…大阪でしょうか…あなたは彫師で、その方に入れ墨を彫っているのが見えます」。

 

今からおよそ900年前の朝鮮半島に、高麗という国があった。当時、数多の困難な戦に勝利をし続け、民に武神とまで崇められた将軍がいたが、その人望に嫉妬した若い王により謀反人として処刑されてしまう。後に、神の計らいにより“トッケビ(鬼)”として甦った彼は、与えられた永遠の命を虚しく思い終わらそうと、それが出来る唯一の存在である“花嫁”を探し現代をさまよっていた。

 

しかし、花嫁だと名乗る女子高生ウンタクと出会い、また、とある事情で自宅を死神とシェアする羽目になる中、少しずつトッケビの心境に変化が表れー。 ただ甘いだけのラヴ・ロマンス作品だったら、観ることはなかっただろう。しかし、愛し合っているのに成就してはいけない恋、生まれ変わってもなお続く悲恋-複雑に絡み合った恋模様に、一体何度嗚咽を漏らしたことか。

 

恋愛ばかりではなく、死神が死者をあの世へ送り出す各エピソードも良い話ばかりなのだ。本作に夢中になったのは、歴史上実在した国を織り交ぜている点や、民間伝承、輪廻転生、神や死神、霊など人智を超えた存在。そして、紅葉や季節外れの桜、そばの実畑、果てはケベックシティの美しい街並みなどうっとりするロケーションと、胸に響く韓国語の挿入歌ー様々なエッセンスが盛り込まれていて決して飽きることがないからだ。

 

韓国は乗り継ぎでしか行ったことがないが、牛骨スープや屋台の砂肝も食べてみたいし、トッケビの豪華な邸宅や、死神とサニーが出会った歩道橋にも足を運んでみたいと思った。 さて、ヒロインのウンタクが大好きな言葉だと言っていた“運命(ウンミョン)”。冒頭の前世の話は冗談半分として、それでも運命を信じたいと思わせてくれた、素敵なドラマだった。

 

 

 


加西 来夏 (かさい らいか)

映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/最近の日韓間の問題による観光客やフライト数の激減など、ニュースを見ていてとても悲しいです。ヘイトなく、芸術も食も人も自由に行き交うことが出来ますように。


 

 

 

(日刊サン 2019.09.12