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世界で活躍するピアニスト青木美樹さん、小津映画の“幻の楽曲”をレコーディング!

Bynikkansan

3月 17, 2017

ハワイでの演奏会ではジャズの名曲も演奏された。

 

オーストリア在住で、世界各地で演奏活動をしている気鋭のピアニスト、青木美樹さんが25日、ホノルルの“ハワイ パブリック ラジオ”のスタジオでミニコンサートを開いた。青木さんの最新アルバム『メランコリー』は、レコード芸術2月号で準特選盤に選ばれ、高い評価を得ている。海外での知名度も高いため、この日も欧米人を中心に熱心なクラシック ファンが集まった。

会場は、本格的なレコーディングスタジオとしても使われるほど音響環境が良く、グランドピアノも世界の3大ピアノと称されるベーゼンドルファー社製と豪華。ピアノのボディ全体から醸し出される音色は、深く豊かで“ウィーンの宝”と讃えられている。 ピアニストと演奏環境に恵まれた珠玉のミニコンサートの後、青木さんに取材した。

 

あおき・みき○東京生まれ、9歳で渡英。ドイツのハンブルグ音楽大学国家演奏家コースを首席で卒業。ハンブルグ音楽大学、ローザンヌ音楽院などで教鞭をとりながら、世界各地で演奏活動、現在に至る。

 

小津映画の代表作、 劇中音楽の楽譜が見つかった!

「ハワイに来るのは2度めです。前はハワイ音楽大学の招きで公開レッスンを行いました」

青木美樹さんは現在、オーストリアのグラーツ国立音楽大学でも、上級講師として教鞭をとっている。そのかたわら、日本で4枚めのCDの録音も進んでいるのだという。

「日本を代表する映画人として、世界中に根強い支持者のいる小津安二郎監督。その小津映画の代表作の音楽を作曲していたのが、斎藤高順(タカノブ)という作曲家です。過去にも、映画音楽を演奏したいという音楽家が大勢いたそうなんですが、楽譜が不明で実現しなくて。ところが斎藤先生の親族が物置を整理していて、直筆の楽譜を見つけたんです。それで私、小津作品のサウンドトラックをソロ演奏できることになったんです!」

収録されるのは、映画『東京物語』、『彼岸花』、『秋刀魚の味』などの7作品だ。『東京物語』は、世界で最も権威のある英国映画協会のランキングで、世界中で公開されたすべての映画の中でベスト1に選出されたこともある。2013年に公開された山田洋次監督の『東京家族』は、小津作品へのオマージュあふれるリメイクだ。

小津安二郎は当時、新人作曲家だった斎藤高順を起用することで、“お天気のいい音楽”という、独特の音楽観を具現化できたといわれている。斎藤氏の回想によれば、「小津監督は、登場人物の感情や役者の表現を助ける音楽は希望しなかった。悲しむ人が画面にいたとしても、空は青々と晴れて陽ざしが照り輝いていることもある。小津の映画はなにが起ころうとも、お天気のいい音楽であって欲しい」と、願ったという。青木さんは小津作品をすべて観て、映画の中の音楽のすばらしさに感動したという。

「『東京物語』の主題曲は、広島の尾道の夜明けを表すようなホルンで始まり、小津監督が好んだというハープが奏でられます。その後、弦楽器を中心とした主旋律が演奏されて……、映像は日本の和の世界なのに、音楽はとっても洋風でスケールがあるんです。それをピアノソロで弾けるんですから嬉しくて。斎藤さんのご親族や、プロデューサーとの巡り合いに感謝しています」

今年の年末には完成して、ドイツのレコード会社から世界同時発売される予定だという。

 

「ハワイは日系人が多いので、小津ファンも大勢いらっしゃると思います。映画の上映会と私の演奏をコラボさせたイベントなどができたらいいなと思っています。私にとってハワイは飛行機を降りたとたんにパラダイス! 大好きなところなので、ぜひコンサートを実現させたいです」

 

CD『メランコリー』。1920年代のパリで、クラッシック音楽をより身近に、フレンドリーに聴いて欲しいと願った、サティやオネゲルなどパリの作曲家たちの作品を収録。

 

(取材・文 奥山夏実)