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アートの祭典 第1回 ホノルル・ビエンナーレ好評開催

ハワイ初となる現代アートの祭典、“ホノルル・ビエンナーレ”が好評開催中だ。ビエンナーレとはイタリア語で“2年に1回”という意味で、語源となったヴェネツィア・ビエンナーレは100年以上の歴史があり、サンパウロ・ビエンナーレも70年の歴史がある。

90年代以降は、世界各地でビエンナーレが急増。テーマや作家の顔ぶれが似たり寄ったりとの批判があったのも事実だ。

そんな中で、満を持して開催にこぎつけた第1回ホノルル・ビエンナーレは、ポリネシアやハワイのローカルの作家など、太平洋の中心に位置するハワイならではの個性的なアーティストが集結。「今、ここの渦中から(Middle of Now Here)」というテーマを掲げ、海の水が渦巻くように世界も混沌と渦巻く今を、躍動的に表現した作品が多く展示されている。

 

 

言葉や民族の違いを超えて、 アートで感動を共有しよう。

 

ホノルル・ビエンナーレの開催を指揮したのは、森美術館の館長で、日本を代表する美術評論家でもある南條史生氏だ。開催前日の記者会見であいさつをした南条氏は、 「ホノルル・ビエンナーレはアロハ・ビエンナーレと、フレンドリーに呼んでもいいと思います。太平洋の中心という最高のロケーションで開催されることには、特別な意味があります。地元の人ばかりでなく、旅行者も参加でき、子どもや学生たちの教育にも良い影響を与えます。ハワイの未来に新たな貢献ができるはずです」と、笑顔で語った。

今回、ビエンナーレ会場の一つにもなるホノルル美術館には、90年も前からビエンナーレを待ちわびるようなメッセージがある。美術館の創設者であり、美術コレクションを寄贈した、アナ・ライス・クックによる言葉だ。1927年、美術館のオープニングセレモニーで、彼女自身が語った名スピーチとは……

 

−−−ハワイという土地は、芸術の中心地からは遠く離れています。しかし、世界各地から移り住んだ人々は多民族にわたり、それぞれの民族が受けついだ文化遺産や、芸術に対する理想などをお互いに共有することができます。ハワイの原住民、アメリカ人、中国人、日本人、韓国人、フィリピン人、北欧人そしてその他すべてのこの島に住む人々は、新しい美術館で芸術という、どの民族にも共通する感動を通じて交流し合い、幾代もの祖先によって育まれた、ハワイならではの新しい文化に出逢えることでしょう−−−

 

アナの夢が、ホノルル・ビエンナーレに受け継がれて、大きく開花したのではないだろうか。

 

 

 

20世紀を代表するハワイの建築家、 オシポフの外壁と呼応するインスタレーション。

 

ホノルル・ビエンナーレのメイン会場はワードビレッジだ。メインスポンサーとして主催するザ・ハワードヒューズ・コーポレーションのハワイ本社が入る旧IBMビルと、The Hub(旧スポーツオーソリティ)には、20点以上のインスタレーションが展示されている。

現在新しい街づくりが進むワードビレッジの開発を手がけるハワード・ヒューズのハワイ本社ビルは、ワードエリアのランドマーク的な存在だ。このハニカム(蜂の巣形)な外観の建築もまた芸術、ハワイのレガシーといえる。建築家の名は、ウラジミール・オシポフ。1907年生まれのロシア人で、父親が外交官として赴任していた東京で、幼少期から青年期を過ごした。日本建築の庇や障子など、光と影を自在に操る陰影礼賛や、石庭などの侘び寂びに、強く影響を受けながら育ったという。

その後アメリカの大学で建築を学び、卒業後はハワイに移住。ハワード・ヒューズの旧IBMビルや、現在のホノルル空港、タンタラスにあるリジェストランド邸など多くの、ハワイを代表するミッドセンチュリーの建築を手がけた。

 

オシポフ設計のハニカムな外壁をバックに展示されているのは、ジャン・ワン(中国を代表する現代美術家)のインスタレーション。中国には奇岩が多いが、その石をキャストで型取り、ステンレスを流し込んで作ったのがこの力強いアートだ。何千何万年も自然界にあった奇岩がステンレスの衣を纏った時、都市空間にマッチするモダンアートに生まれ変わってしまう、着想の転化。

 

ハニカムな外壁に呼応する、ステンレスの奇岩作品 

 

モチーフにはあえて人の手を加えず、ただ外側の素材だけを変えることで新たな美を生み出している作品だ。それはオシポフがハニカムという、モダンデザインの外壁で建物を覆うことで、ハワイの強い光と影をコントロールしたことと呼応するのではないだろうか。

 

草間彌生の三次元空間、 奇妙な水玉が浮遊する部屋、というアート。

 

このビルの中も、ビエンナーレの展示会場として公開されている。というか、たった一人の芸術家のために、ハワード・ヒューズはハワイ本社ビルのフロアを、わざわざ改築工事までして提供したのだ。

今や世界的アーティストとして脚光を浴びる、草間彌生の『増殖する部屋』である。暗い部屋の中にホタル!? 水玉に光る物体が、3Dの空間に浮かんでいる。

テーブルセッティングされたダイニングと、奥のベッドルーム。80年代風の女子のリアルな部屋だ。ところが2cmほどのカラフルな蛍光ドットが床や壁に一面、ブラックライトに照らされて浮遊し、見る者の体にもくっついてくる。異様な、奇妙な、何かがうごめいているような空間。

 

草間彌生「増殖する部屋」

 

ブラックライトの光は人間の目にはほとんど見えないが、ライトを当てた物体に含まれる蛍光物質だけが発光する。この部屋のために、草間彌生は日本人スタッフ4人をハワイに送り、一週間かけて内装を創り上げた。草間は蛍光シールの間隔を1cm単位で指示したという。

88歳の今も現役で活躍する草間は、世界的な前衛芸術家だ。少女時代より幻覚や幻聴に悩まされ、それらを水玉で埋め尽くすことによって自らを表現してきた。草間にとって水玉で描くというのは、身を削るような生の営みなのだ。二次元と三次元のあわいを行き来する非日常の空間で、あなたは何を感じるだろうか。

草間の作品は、フォスター植物園にもオブジェを展示。ポリネシアの珍しい植物の中を歩きながら鑑賞することができる。

 

ハワイの家財道具が舟にのって芸術!? アニメ作りに参加できる、ユニーク作品も!

 

ワード会場は旧スポーツオーソリティ

 

The Hubの広い会場にも面白い作品が並ぶ。入り口を入ってすぐ目にするのが、荷物をいっぱい積み込んだ舟。フィリピン出身のアルフレッド&イザベル夫妻によるインスタレーションだ。夫妻は世界的にも有名なアーティストで、展覧会のある世界各地で、その土地にふさわしいモノを集めては、その場で作品を作るのだという。  

ハワイは海に囲まれているから舟。よくよく見ると、ハワイっぽい家財道具やサーフボード、ウクレレやサトウキビ、ガラクタなどが舟にうず高く積まれている。笑えるほど身近で気取りのないアート作品だ。

 

荷物満載の舟だってアート

 

タヒチ生まれの中国系アーティストは、南太平洋が核実験の悲劇の海であることを訴える作品を発表。核実験で溶けて形を変えた破片をアートとして展示したり、核実験のキノコ雲を、何枚も連ねて壁に貼った。実際、南太平洋では、フランス、アメリカ、イギリスが計350回以上の核実験を行い、多くの被爆者を出している。1954年、アメリカが行った水爆実験では、日本のマグロ漁船「第五福竜丸」の乗組員や周辺で操業していた日本の漁船員も被爆した。

 

太平洋の海の環境を考えさせられる社会派のアートがある一方で、子どもも大人も参加して楽しめる作品もある。視覚映像アートの「Graffiti Nature」。これは日本のチームラボが制作した、現在進行形のアニメーションだ。会場には、イルカやトカゲなどの塗り絵の紙がある。それに自由に彩色をして、何枚でもデジタルスキャン。すると描いた塗り絵がたちまち床に投影され、自分たちの足元でアニメーションとして動き出す。子どもも大人も時間を忘れてアート体験ができる、参加型のユニークな作品だ。

 

南太平洋は核実験の悲劇の海

 

会場はほかに、ホノルル市庁舎、ホノルル美術館、ビショップ博物館、チャイナタウンなど。会期は5月8日(月)まで。The Hubやビショップ博物館、フォスター植物園は入場料が必要だが、ホノルル市庁舎やハワード・ヒューズビル、プリンス・ワイキキ(旧称ハワイ・プリンスホテル・ワイキキ)、チャイナタウンのアーツ・アット・マークス・ガレージは無料で鑑賞できる。

詳しくは、http://www.honolulubiennial.org(英語のみ)

 

 

(取材・文  奥山夏実)