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日本の秋というと、紅葉狩りや栗拾い、秋の鈴虫の音色などと並んで「お月見」が思い浮かびます。ハワイでは特に月が美しく見えるため、毎晩月が昇るのを楽しみにしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回の特集では、日本の伝統的な風習、お月見の起源や歴史、意味などと共に、月の名前や説話などの雑学をご紹介したいと思います。

 

お月見の起源と歴史

●起源は唐代の中国  

中国では、唐の時代(618〜907年)からお月見の風習がありましたが、最古の記録は宋の時代(960〜1279年)に孟元老が記した回想録『東京夢華録(とうけいむかろく)』の中の、街中の人々が宴会を開き、夜通しお祭り騒ぎをしている様子が書かれた一節です。明の時代(1368〜1644年)には、お供え物をしたり月餅を贈り合うという習慣がありました。

 

●平安時代  

日本では、縄文時代から月を見て美しさを讃える習慣があったといわれていますが、風習としてのお月見は、平安時代(794〜1192年)前期、中国から貴族社会に伝わったと考えられています。国風文化が盛んになり始めた909年、宇多天皇が唄を詠み管弦を楽しむ日本風の月見の酒宴を催したという記録が残っています。

 

●室町時代  

室町時代(1336〜1573年)には月を拝んでお供え物をする習慣が始まりました。天皇の御所に仕える女官たちが交替で記した日記『御湯殿上日記(おゆどののうえにっき)』には、後陽成天皇(在位1568〜1611)がナスに開けた穴から月を覗いてお祈りをする「名月の祝い」という儀式を行なったと記されています。

 

●江戸時代  

月見の風習は、時代が下るにつれて庶民の間にも広まり、徐々に秋の収穫祭の意味を成すようになりました。江戸時代(1603〜1868年)前期の人々は、収穫した芋で芋煮を楽しみ、夜通し遊んで十五夜を祝っていました。江戸時代中期には、今日のように月にお供えをする習慣が始まりました。商人の喜田川守貞が1837〜67年に渡って編纂した風俗辞典『守貞漫稿(もりさだまんこう)』には、十五夜の日は、月の見えるところに文机(読み書きをするための和風の机)を置いて祭壇を作り、江戸では丸い月見だんご、大阪や京都ではサトイモに見立てた楕円形の月見だんごを供えたと記されています。

『佳人遊園之月見』楊斎延一画 1891年

 

お月見の種類

●十五夜(中秋の名月)  

旧暦8月15日に行われる月見で、今年2017年は10月4日になります。秋の農作物、特に芋類の収穫を感謝する催しとして行われるため「芋名月」とも呼ばれ、サトイモなどが供えられます。またブドウやカボチャなど、つるのある収穫物を供えると、月の神様とつながるので縁起がよいとされています。この日、雲で月が隠れて見えないことを「無月(むげつ)」といい、雨が降ることを「雨月(うげつ)」といいます。昔の人は、月が雲の裏でほの明るく輝く状態も風流なことと捉えたようです。

芋名月に供えられたサトイモと月見だんご(http://photozou.jp/photo/show/1941325/153504402)

 

●十三夜  

十五夜の約1カ月後、旧暦9月13日に行われ、月は十五夜に次ぐ美しさといわれています。収穫された豆や栗を供えることから「豆名月」「栗名月」とも呼ばれます。十五夜と十三夜のうち、天気によってどちらか一方の月だけが出た場合は「片月見」といって、あまり縁起がよくないこととされていました。

 

●十日夜(とおかんや)  

十三夜の約1カ月後、旧暦10月10日に東日本で行われる収穫祭です。この日は、稲刈りが終わった田んぼの神様が山へ帰る日とされており、米の収穫を祝って餅をつきます。また「わら鉄砲」と呼ばれる稲の茎を束ねて先を輪にしたもので地面を叩いて回り、お唱えをしながら神様に感謝をし、作物を荒らすモグラを追い払う地方もあります。また、田んぼの神様である案山子にお供え物をして月見を楽しんでもらう「かかし上げ」という行事を行う地方もあります。

十日夜のわら鉄砲 (四季彩diary http://tititake.sblo.jp/article/168933990.html)

 

十五夜のお供え物

●幸福を招く月見だんご  

お月見では、サトイモや月に見立てた丸いだんごを作り、供えた後で食べると幸福と健康が得られるとされています。十五夜では15の数字に因み、1寸5分(4.5cm)の大きさに作った月見だんごを15個供えます。1年の満月の数と同じ12個(うるう年は13個)、15を3で割った5個を供えることもあります。

 

●月の神様が宿る依代(よりしろ)、ススキ  

初期の月見では神様の依代として稲穂を供えていましたが、十五夜は稲刈りの前になるため、稲穂の形に似ているススキが供えられるようになりました。刈ったススキの切り口はとても硬く鋭いために魔除けになると考えられており、庭先にススキを吊るす習慣のある地方もあります。また、尾花(ススキ)と共に女郎花、桔梗、撫子、藤袴、葛、萩を合わせ、秋の七草として供えることもあります。

 

●お供えものは食べてもらうと縁起がよい  

昔、月見のお供えものは、近所の子どもが盗んで食べてもよいとされていました。気づかないうちに月の神様が食べてくれたと考えられためです。また、月見だんごを食べると子宝を授かるので、結婚前の女性は食べない方がよいという言い伝えもあります。

 

国ごとに違う月の模様

薬草を挽くウサギ。18世紀の清皇帝の服の図柄 (https://ja.m.wikipedia.org)

 

月を見ると模様を描いている暗い部分がありますが、これは「月の海」と呼ばれる低地の部分です。月の模様といえば、日本では「餅をつくウサギ」ですが、他の国や地域では、ライオンや人の顔、カエルなどさまざまな解釈がされています。次の満月の日には、月を観察しながらウサギの餅つき以外の模様を探してみてはいかがでしょうか。

 

【中国】薬草を挽くウサギ、桂の木とウサギ、天女、ヒキガエルの頭と前足

【インドネシア】編み物をする女性

【ベトナム】大木の下で休む男性

【カンボジア】菩提樹の木の下に座る杖を持ったおじいさん

【ラオス】足で米をつくおばあさん

【モンゴル】犬 ― 嘘をつくと、その犬が吠える。

【インド、南アメリカ】ワニ

【中東】吠えているライオン、ライオンの尻尾

【北欧】椅子に座って読書をする横向きのおばあさん、水の入ったバケツを運ぶ男女

【東欧】髪の長い女性の横顔

【南欧】片腕のカニ

【オーストリア】男性の顔 ― 月にはその男性が住んでいて、明かりを点けたり消したりしている。

【ドイツ】薪を担ぐ男性

【オランダ】悪行をはたらいた罰として月に幽閉されている男性

【カナダ】バケツを運ぼうとしている少女

【アメリカ】人の横顔、トカゲ、ワニ

【南米】ロバ

宇宙教育センター(https://edu.jaxa.jp/campaign/moon2014/)

 

月の説話

「ジャータカ」―インド発祥の月のウサギの説話

この説話は、平安時代末期に記された『今昔物語集』にも記されています。

 

昔々、サル、キツネ、ウサギが山を歩いていると、力尽きて倒れている老人に出会いました。この老人を助けるため、サルは木の実を集め、狐は川で魚を捕って老人に食べさせました。しかし、ウサギは何も採ってくることができませんでした。  

そこでウサギはサルとキツネに火をおこしてもらい、自分を食べてもらうため、その火の中に飛び込みました。それを見た老人は本当の姿である帝釈天の姿を現し、この行いを後世に伝えるためにウサギを月に昇らせました。月のウサギの周りにある影は、ウサギが火に飛び込んだ時の煙と言われています。  

サルは月、キツネはシリウス、ウサギは金星、老人は冬至の太陽を表しているという解釈もあります。

 

ハワイの神話 月の女神「ヒナ」の説話

マウイ島に暮らすヒナは、家族との諍いや、日々カパ(樹皮を打って伸ばし作られる布)を作る生活に疲れていました。  ある日、ヒナはひょうたんでつくった入れ物に気に入りの日用品を詰め、マウイ島から逃げ出しました。引き止めようとしたヒナの夫が、彼女の脚をつかんで引きちぎってしまいましたが、それでもヒナは逃げ出すことに成功し、虹の道を登って太陽まで行きました。  しかし太陽は熱すぎて長くいることができなかったため、翌日の夜、再び虹の道を渡って月へ向かい、そこで暮らすことにしました。  ヒナは今も、月で穏やかな日々を送っています。

月で暮らすヒナ (paltalk@pintarest)

 

満ち欠けで変わる月の呼び名

月の呼び名

朔(さく) 新月
繊月(せんげつ) 日が暮れて間もない時、うっすらと明るい空に浮かぶ月。細く、繊維のように見えることから。 別名「二日月」。
三日月(みかづき) 朔の後、初めてよく見える月という意味で「朏(ひ)」ともいわれる。
上弦の月(じょうげんのつき) 夕方、まだ明るい空に出る半月。月の上側の形が弦を張った弓のように見えることから。 別名「弓張り月」「弓月」。
十日夜の月(とおかんやのつき) 上弦の月の欠けた部分が、少し盛り上がった形。
十三夜の月(じゅうさんやのつき) 満月の次に美しい月の形とされ、平安時代には月見の宴が開かれた。
小望月(こもちづき) 望月(満月)の前の夜の月。近いという意味の「幾」に望と書いて幾望(きぼう)とも呼ばれる。
満月(まんげつ) 満月は日没とともに東の空に昇り、夜明けとともに西の空に沈む。別名「望月」「十五夜」。 満月以降、月の出る時間は1日につき約50分ずつ遅くなる。
十六夜(いざよい) 満月の翌日の夜の月。満月よりも遅く出てくる月なので、ためらうという意味の「いざよい」 と呼ばれる。満月が既に終わった後の月という意味で「既望(きぼう)」とも呼ばれる 。
立待月(たちまちづき) 日没後、月の出を立ちながら待っているうちに、やっと出てくる月。
居待月(いまちづき) 月の出を立ちながら待つには長いため、座って待つという意味。
寝待月(ねまちづき) 月の出を座りながら待つには長いため、寝ながら待つという意味。別名「臥待月(ふしまちづき)」。
更待月(ふけまちづき) 月の出がさらに遅くなり、夜更けに昇るという意味。
下弦の月(かげんのつき) 上弦の月のは逆に、月の下側の形が弦を張った弓のように見えるという意味。
有明月(ありあけづき) 夜明けの空に昇る月。「有明」は夜明けという意味。十六夜以降、新月までの月をまとめて 有明月と呼ぶこともある。
三十日月(みそかづき) 新月前後の月。月がこもって見えないという意味で、晦(つごもり)とも呼ばれる。

 

世界の月の神様の名前

ギリシャ神話の月の女神セレーネー (https://ja.m.wikipedia.org)

 

月の男神 由来 月の女神 由来
アリグナク イヌイット神話 (カナダ北部の先住民族) アチェロイス ギリシャ神話 
アリ トゥピ族 (ブラジルの先住民族) アヌマティ ヒンドゥー教  
アヴァテア ポリネシア神話  アリアンロッド ウェールズ神話(イギリス南西部)
チャンドラ ヒンドゥー教      アルテミス ギリシャ神話
コニラヤ インカ神話(アンデス山脈) アルトゥメ エトルリア人 (紀元前8世紀頃から栄えた古代都市国家群。 現在のイタリア半島中部)
エラサ アイルランド神話 アタエギナ ルシタニア人 (古代ローマの属州。現在のポルトガル、 スペイン西部)
ホルス エジプト神話 ベンディス トラキア人 (古代ギリシャ時代の民族。現在のバルカン半島周辺)
イガルク イヌイット神話 チア ムイスカ人 (コロンビアの首都、ボゴタ周辺に住む民族)
イシュバランケー マヤ神話 (マヤ文明 メキシコ、グアテマラ)  コヨルシャウキ アステカ神話 (1325〜1521年、メキシコ中央部に栄えた国家)
ヤリーロ スラヴ神話(中欧、東欧) デウィ・スリ インドネシア神話
クンネチュクカムイ アイヌ ディアナ ローマ神話
マーニ 北欧神話 グレティ ダホメ王国 (1600〜1900年、アフリカ大陸中西部のベナ ンにあった国家)
マラマ ポリネシア神話 ハトホル エジプト神話
メネスス ラトビア神話  ヘカテー ギリシャ神話  
ナンナ シュメール神話 (初期のメソポタミア文明。 現在のイラク、クェート周辺) フイタカ  チブチャ族 (コロンビアの首都、ボゴタ周辺に住む民族)
ナピル エラム 紀元前31世紀頃から古代オリエント で栄えた国家。 現在のイラン、ザグロス山脈周辺  イラルギ バスク地方の神話(フランスとスペインの間)
ンガリンディ ヨルング族 (オーストラリアの先住民族)        イシュ・チェル マヤ神話
パパレ オロコロ族 (パプア・ニューギニア) ジャキ トゥピ族(ブラジルの先住民族)
シン メソポタミア神話 (現在のイラクの一部) カ・アタ・キルラ インカ神話
ソーマ ヒンドゥー教 クー フィンランド神話
タルクイウプ イヌイット神話 ロナ ハワイ神話
トート エジプト神話 ロスナ エトルリア人(アフリカ大陸北東部の国)
ツクヨミ 日本神話 ルーナ ローマ神話
ワッド アラビア神話 マヒナ ハワイ神話
ヤリク フェニキア (紀元前15世紀頃から栄えた古代国家。 現在のシリア、パレスチナ周辺) ママ・キルラ  インカ神話
  マウ ダホメ王国
マヤリ フィリピン神話
メニリイ カフイラ族 (カリフォルニア州に住むアメリカン・インディアン)
メツトリ アステカ族の神話
ニッカル フェニキア(メソポタミア)
パフ ポーニー族(アメリカン・インディアン)
セレーネー ギリシャ神話
トリウィア ローマ神話
ヨールガイ・ アスドザ・ア ディネ(アラスカ、カナダの先住民族)

エジプト末期王朝時代のトート神像 (https://ja.m.wikipedia.org)

参考URL:wikipedia.org/wiki/月神一覧