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食品ロス・もったいないとおすそわけ

「恵方巻き」ってご存じだろうか。2月3日の節分の夜に、恵方(えほう・その年の歳徳神・福の神のいらっしゃる方角)に向かって、黙ったままで、海苔巻きの太巻きを、切らずに一気にかぶりつくと縁起がいいんだそうだ。関東育ちの私にとっては節分と言えば「鬼は外!福は内!」と豆まきだが、関西では昔からこの恵方巻きの習慣があったという。十数年前にコンビニが全国展開をしかけて、ここ何年かは、ス-パ-やデパ-トまで「恵方巻きあります!」ののぼり旗がたつほどのブ-ムになっていた。

 

ところが、今年1月、農水省が小売り業者に対して「恵方巻き」の予約販売徹底など、需要に見合った量だけ売ることで食品ロスを減らすように呼びかけたのだ。まだ食べられる食品の廃棄量は、農水省によると1年間で約2800万トンと食糧消費量の3割に当たる。このうち売れ残りや食べ残しなどの食品ロスは約646万トン。飢餓や貧困に苦しむ人達に国連食糧計画が支援する食糧援助が約320万トンだから、倍の食糧が捨てられている勘定だ。この「恵方巻き」は2月3日しか通用しない超レアな季節限定商品。まだ食べられるのに、縁起物だから売れず廃棄処分に、というわけでこの通達になったわけだ。で、結果は?というと、確かに予約販売も増えたが、民間の調査によるとあいも変わらず大量の太巻きが廃棄処分になってしまったとか。

 

原因は?そのひとつは消費者心理。量や種類など品揃えが豊富な店にどうしても足が向く。それを受けて販売店は棚をぎっしりと埋めようとする。商品が足りなくなる「欠品」はダメなのだ。それに応えるために生産業者は常に多めに作り、納入を余儀なくされている。で結局、売れ残って廃棄処分というわけだ。廃棄された食品は一部は豚などの飼料にするが大半は焼却処分。食料品は水分が多いので運搬・焼却でさらなるエネルギ-を費やすそうだ。規格外での返品、というのもある。ちょっと傷がついたり、形が悪かったりすると、これも返品。客からのクレ-ムが怖い!

 

ずっとこの食品ロス問題を解決しようと議員活動を続けてきた竹谷とし子参院議員に以前こんな質問をされた。「コンビニやス-パ-で牛乳や卵を買うとき、棚の奥の方に手を伸ばして取ってませんか?」 実はそう。賞味期限が古いものは前の方に、新しいものは奥の方に置いてあるので、少しでも長持ちする方をと、ついつい奥からとってしまうのだ。「それも食品ロスを生むんですよ。かといって、誰しも新しい方が良いに決まってますから、たとえば賞味期限切れが近い食品は割引をするとか、いろいろインセンテイブをつけられないか、今、働きかけているんです」

 

この5月、それが一部やっと実現した。この秋から、いくつかのコンビニで消費期限が迫った弁当やおにぎりなどの食品を、自社が展開する電子マネ-のポイントで還元する方針を決めたのである。コンビニ店はフランチャイズ契約で本部から定価での販売を指示されているので、店主はもったいないからといって値引きして売ることができない。デパ-トでさえ閉店時間間際には値下げをしているのにだ! 今回は食品ロスへの国民の関心の高まり、人手不足や24時間営業に関するコンビニ店主の反乱が後押しした形だが、それでも相変わらず定価販売でやれというコンビニ本部もあり、食品ロス解消にはまだまだ遠い。

 

続いて5月末に、前述の竹谷議員らが中心となって押し進めてきた「食品ロス削減推進法案」も成立した。「食品ロス削減」を国民運動にという基本法で、自治体に推進計画を作らせる、内閣府に食品会議推進本部を作る、フ-ドバンク活動を支援する、等が骨子。

 

食品ロスは日本だけではなく世界的な問題だ。SDGs(持続可能な開発目標)でも2030年までに世界全体で一人あたりの食品廃棄物を半減させる、という目標が採択されている。フランスでは2016年に世界初の罰金付きの「食品廃棄禁止法」を制定した。賞味期限に近づいている食品をボランテイア団体などへ寄付させ、そこから貧しい人達に配ることを義務づけている。欧米ではドギ-バッグが普通(日本では高温多湿の上、食中毒を起こしたら店の責任になるというので普及していない)。デンマ-クでは賞味期限切れ、ないしは包装に傷や汚れのある食品専門の安い食料品店があるそうだ。そしてフ-ドバンク。アメリカで世界で初めて作られたそうだが、日本でもやっと普及しはじめ、今回の法律でも力を入れている。

 

竹谷さんはこう言う。「食品は人の身体を作る大切なもの。『もったいないから捨てないように工夫する』だけではなく、『おすそわけする』という気持ちで、皆一緒に最後まで美味しくいただくことに力を入れるべきだと思います。今はAIなどが発達していますから、そのためのシステムを一日も早く構築してほしいですね!」

 

 


川戸恵子 (かわどけいこ)

TBSテレビ・シニア・コメンテ-タ-。TBS入社後、ニュ-スキャスタ-を経て、政治部担当部長・解説委員さらに選挙担当として長年政界を取材。そのほか、これまでに自衛隊倫理審査会長、内閣府消費者委員会委員などを歴任。 現在、TBSNEWSで週一回の政治家との対談番組を制作。 また日本記者クラブ企画委員・選挙学会理事。


 

 

(日刊サン 2019.06.22)