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たすきを掛けた立候補者が満員の支援者に向かって深々と頭を下げる。「がんばって!」の声も飛び、パ-テイ会場は熱気に包まれる・・・これは自民党派閥パ-テイのひとこま。参院選を前にして、3月に一足早く済ませた竹下派をのぞいて、5月は二階派を皮切りに、石破派、麻生派、岸田派、細田派、石原派と自民党の各派閥が相次いでパ-テイを開いた。

 

私たちがこういったパ-テイを取材する場合、まず見るのは、どのくらいの集客力があるかだ。その人数によって、その派閥の勢力が如実に明らかになる。皮切りの二階派はさすがに幹事長派閥。4000人を超えているだろうか。部屋に入りきれず、前室に作られたスクリ-ンで二階幹事長達の挨拶を聞く人で満員。パ-テイ券は一人2万円だから、8千万円、で、経費をひいて・・・なんて計算をしてみる。ただ、こういった派閥のパ-テイ券は所属議員が汗水垂らして売り歩くが、回り回って最後は政治活動や選挙時用の餅代や氷代となって議員に戻っては来る。

 

一番人数が多かったのはやはり安倍首相を出している最大派閥の細田派。下村博文事務総長が「今日は4800人おいでくださったそうです!」と高らかに宣言する。お祝いの挨拶にたった岸田政調会長が「おなじこの会場で我々岸田派もパ-テイを開きましたけど、やはり細田派には勢いがあります」とぼやく。次に見るのは誰が挨拶に駆けつけたか。一番は二階派。総理をはじめ、麻生副総理、菅官房長官、各派閥の長が駆けつけ、口々に持ち上げる。これもやはりトップが幹事長だからか。

 

石破派は議員が総勢19人とあって1500人程度。総裁選でも世論調査の「次の首相にふさわしい人」でもライバルの安倍総理に招待状をだしたものの、結局姿を見せず、大物政治家は二階幹事長くらいで、今の自民党内での立ち位置がよくわかる。石破さん自身も、二階・麻生・細田派のパ-テイには顔を見せなかったっけ。そういえば岸田派パ-テイでも麻生副総裁は顔をだしたものの、直前の福岡知事選で、麻生さんが押す候補の応援に岸田さんが入らなかったためだろうか、挨拶はせず帰ってしまった。元々は同じ派閥出身なので麻生さんからもう一度一緒にと「大宏池会構想」を呼びかけたこともあるのに。政治家の世界は全く一寸先は闇!

 

それから話の内容。現場の記者は、誰が何をしゃべったかで記事を書かなくてはならないので、きちんと発言メモをとるが、私は派閥トップの話し方と勢い、それに祝辞での持ち上げられ方を見る。軽妙洒脱で上手いのは麻生さん。対照的なのは岸田さん。参院選前の資金集めパ-テイだという主旨を忘れて長~い政策論をぶち始めた。元原稿を書いた派閥若手が「俺の書いた原稿を全く使ってくれなかった」と嘆いたそうだ。最後に壇上に上がった古賀誠名誉顧問がぴしっと締めてはいたが、逆にこの派閥もまだまだ古賀さんがいないとダメでは?と思わせてしまう。その古賀さんが「安倍さんの次は土のにおいのする菅官房長官がいい」なんてTVで言ってしまっているからなおさら。私も現場で、本心ですか?と確認したらもちろん!という答えが返ってきた。

 

安倍総理も「二階さんは党の大黒柱」と持ち上げる反面、岸田さんに対しては「党の政調会長として政策を実行してくれている」と、やや、ト-ンが低い。前回の総裁選の時に「次は岸田さん、君だ」といわれて出馬を断念した、とささやかれているのに、なんだこれは?秘書軍団の力も見過ごせない。さばきのNO1はやはり細田派。でも元田中派の引退議員から言わせると、昔の田中秘書軍団はこんなものではなかったとのこと。派閥に入れば、情報が入る。ただし、入閣を希望しても昔のように派閥推薦枠は無い。副大臣・政務官クラスになると推薦は残っているが、それでも官邸主導の今、一本釣りはしょっちゅう。

 

政治資金も党本部からもらえるし、派閥に入る効用は?と考える議員が出てきても不思議は無い。今や、2割近い議員が無派閥で、第二派閥の麻生派を上回っている。次の総裁候補で1、2を争う小泉進次郎議員も派閥に入っていない。とはいえ、やはり、今の時代は情報が必須。いざという時の人的ネットワ-クが必須。陳情を受けるにしても、選挙の応援にしても、もちろん本分の政策を作るときでも、個人でやるよりはずっと幅が広くなる。選挙を前にして、個々の議員はそのありがたさをかみしめているのかも。

 


川戸恵子 (かわどけいこ)

TBSテレビ・シニア・コメンテ-タ-。TBS入社後、ニュ-スキャスタ-を経て、政治部担当部長・解説委員さらに選挙担当として長年政界を取材。そのほか、これまでに自衛隊倫理審査会長、内閣府消費者委員会委員などを歴任。現在、TBSNEWSで週一回の政治家との対談番組を制作。また日本記者クラブ企画委員・選挙学会理事。


 

 

(日刊サン 2019.06.08)