ここ30年ほど、永田町(日本の国会のあるところ)を走り回っている。週一回、30分間の政治家との対談番組「国会ト-ク・フロントライン」を制作するためだ(ちなみにこの番組はハワイのNGNでもオンエアされている)。そんな取材の日々のこぼれ話。
今の日本は「令和」一色!日本は言霊の国と言われるが、こんなに霊験あらたかとは。メデイアがあおりにあおっているのは確かだが、令和饅頭から令和結婚式、令和初のホ-ムラン等々何でも「令和」!子ども達に令和のスタ-トを見せたいと言う人達も含め、新天皇即位を祝う皇居での一般参賀に15万もの人が集まり、日の丸の波が。
政治の世界に目を転ずると、「令和」で一躍有名人になったのは発表をした菅義偉官房長官。TVはもちろん、読売新聞以外は全紙が菅官房長官の発表時の写真を大きく扱っていた。発表直後にあった毎年恒例の新宿御苑での「桜を見る会」でも、今回は菅さんが顔を見せたとたんに嬌声。総理挨拶終了後、300人を超える長い列ができていたので何事かと見に行ったら菅さんと写真をとろうという人の列でびっくり!中にはしっかり「令和」の紙を持ってきて一緒に写真をとっている方も。若者向けのネットTV「ニコニコ動画」にも呼ばれて大人気だったとか。「令和」発表のおかげで、次期首相候補にも名前があげられているということを実感。
野党の玉木雄一郎国民民主党代表。直後のブログに「出典は万葉集からとのことだが、それ以前の中国の詩文集『文選』にも同様の令・和が出てくる。当時の知識人として漢籍を知っているのは当然。漢字文化圏のつながりの奥深さを感じずにはいられません。極めてよく練られた新元号だと思います」と書いて1万人から「いいね」がきたと嬉しそう。でも、5月3日の護憲集会で「令和初めての憲法集会・・・」と言い始めたら「令和って言うな!」というヤジがとんだという。安倍首相が主導してのネ-ミングだと言うのが気に入らないようで、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、というところか。
自民党の石破茂元幹事長は、「違和感がある。『令』の字の意味を国民が納得してもらえるよう説明する努力をすべきだ」と。外務省は「令和」の意味は「Beautiful Harmony」だと言うが、いまや「令嬢」なんて死語だし、「令夫人」もパ-トナ-の多様性から外務省はじめ各省庁の招待状でもいまや使っていない。私も、やはり「命令」の「令」ね、と思ってしまったが、でも一般の人は「ヘ-、『令』ってそんな意味なの。良い響きの元号じゃない!」と素直に受け入れたようだ。ということで、石破さんのこの反応は、政界でもマイナスイメ-ジ。
ちなみに、国会内の売店では改元を記念して「晋ちゃんの令和せんべい」という土産物を売り出したが、パッケ-ジの絵柄には、安倍首相・菅官房長官・麻生財務相・石破元幹事長・小泉進次郎議員の似顔はあるが、次期首相をうかがう岸田政調会長が描かれていない。岸田さんの影の薄さの現れではとか、菅さんがやはり次期総裁候補に浮かび上がったと、ちょっとした話題になっている。
これから皇室関係の行事が大嘗祭が行われる今年暮れまで続く。安倍政権としては「令和元年」の終わる暮れまでこの明るい気分が続いてほしいと思っているだろう。が、現実はそう上手くいくかどうか。沖縄・大阪と補選を2つ落としたうえに、統一地方選では自民党の分裂選挙が目を引いた。夏の参院選が衆院選とのW選挙になるのかどうか。10月には消費税10%への引き上げ予定。景気がこれで冷え込むのか、それを嫌って増税再々延期をするのかどうか。「令和」で浮かれている場合ではない、と言うのが永田町の本音だ。
川戸恵子 (かわどけいこ)
TBSテレビ・シニア・コメンテ-タ-。TBS入社後、ニュ-スキャスタ-を経て、政治部担当部長・解説委員さらに選挙担当として長年政界を取材。そのほか、これまでに自衛隊倫理審査会長、内閣府消費者委員会委員などを歴任。 現在、TBSNEWSで週一回の政治家との対談番組を制作。 また日本記者クラブ企画委員・選挙学会理事。
(日刊サン 2019.05.25)