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4月26日、衆議院内閣委員会で初めてタブレット端末が使用された。小泉進次郎議員ら超党派の「『平成のうちに』衆院改革の実現会議」が提案した国会改革のうちの1つの「IT利用のペ-パ-レス化」が滑り込みで実現した形だが(進次郎議員への配慮?)、本会議では許可が出ず、本格導入にはまだまだ。だいたい、辞任してしまったがサイバ-セキュリテイ担当相の「パソコンは使いません」発言に見られるように、日本の政治家のITに対する意識はまだまだ低い。今や「デ-タは石油」と言われ、金融資本主義からデ-タ資本主義へ移行している現在、日本はそれに対応できるのだろうか。

 

ご存じとは思うが、グ-グル・アップル・フェイスブック・アマゾンの頭文字をとってGAFA。これらの巨大デジタルプラットフォ-ムはその利便性からあっという間に世界を席巻し、今や、その時価総額はイギリスのGDPを超えている。ちなみに中国でもバイドウ・アリババ・テンセントでBAT(最近はこれに米国でも問題になったファ-ウエイを加えてBATHとも)が躍進し、中国のみならずアジア・中東・アフリカや欧州まで勢力を広げている。

 

もっとも、今、その負の側面が大きくクロ-ズアップされている。

 

たとえば納税問題。グロ-バルな企業故、どこで納税するのか。だいたいモノではない情報通信にどう課税するのか、そのル-ルがない。で、莫大な税逃れを許している。

 

デ-タの独占。この4社による寡占状態にもかかわらず、取引条件の開示等が不十分なので、規約を一方的に押しつけられたり、守秘義務などに縛られて反論もできない。企業買収を繰り返し、中小企業のイノベ-ションを妨げている等々、公正な取引とはとても言えないという声が続々と上がっている。

 

そして個人情報の保護。BATの本拠地である中国深圳を視察してきたという自民党の若手衆議院議員がこんな話をしてくれた。「もちろん技術はすばらしいが、考えさせられたのはキャッシュレス社会。買い物、食事、移動に現金は全く使えない。だから銀行口座が開けない層のために、中央銀行が『現金を使える窓口を作っておけ』というお触れをわざわざ出したんだそうだよ。確かに便利だが、でもキャッシュレスというのは管理者が個人の消費動向を全部把握しプロファイリングしていると同じだから、今や個々人の格付けにまで使われてしまっているんだ。借金を返さない人はダメ、ゲ-ムばかりやっている人は労働意欲がない人とか、どんどん個人を管理する社会になっている。さらに国がこれらの情報を全部吸い上げることができる『国家情報法』という法律まで中国政府は作ってしまった。ま、そのおかげでマクロに見れば悪い人が行いを改め、中国国民に倫理観が広がった、という皮肉な見方もできますがね」

 

自由・民主主義・人権保護がわれわれにとって大切なことは言うまでもない。個人の情報は企業や国家のモノではなく、個人に属するモノ、と言う観点から、EUではいち早く去年、一般デ-タ保護規制(GDPR)をスタ-トさせている。氏名・年齢・住所はもちろん、顧客サ-ビス、位置デ-タなどはすべて個人に属するモノとして、取り扱いや移転には本人の同意が必要になった。使用制限範囲も拡大された。また、課税に関しても独占禁止法の観点から何度も巨額な制裁金の支払いを命じている。ま、巨大IT企業がない、ということもあるが・・・

 

逆にGAFAを生み出したアメリカでは、企業を育てる意味から、これらの巨大企業を分割してイノベ-ションを起こそうという意見も出てきている。しかし、まずは中国とのこの分野での覇権争いが第一のようだ。こんな話も聞いた。東南アジアでGAFAとBATとどちらを使うか聞いたら「BATの方だな。どっちにせよ、情報を持って行かれるなら、アメリカより中国の方がまだはっきりわかるから」アメリカもおちおちしていられない。

 

さて、日本は? 伊藤達也元金融担当相が「競争政策調査会」を立ち上げ、また甘利明選対委員長が「ル-ル形成戦略議員連盟」会長としてこれらGAFA・BAD問題に精力的に取り組み、政府もやっと巨大IT企業対策検討会議で議論を重ね最終報告案を出した。6月末に大阪で開かれるG20サミットでは、EUと手を組んで国際的な個人情報保護や課税ル-ルを作りたいとしている。が、個人情報保護の面では、なんとかEUのお墨付きをもらったようだが、課税・競争政策等のグロ-バルなル-ル作りに関しては、米中、EU、それぞれの立場があまりにもかけ離れている中、そんなにうまくいくのだろうか。

 

 


川戸恵子 (かわどけいこ)

TBSテレビ・シニア・コメンテ-タ-。TBS入社後、ニュ-スキャスタ-を経て、政治部担当部長・解説委員さらに選挙担当として長年政界を取材。そのほか、これまでに自衛隊倫理審査会長、内閣府消費者委員会委員などを歴任。 現在、TBSNEWSで週一回の政治家との対談番組を制作。 また日本記者クラブ企画委員・選挙学会理事。


 

 

(日刊サン 2019.05.16)