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未来へ羽ばたく若者たち<植物と触れ合い、農業を学んでいきたい>

島袋てつさん 25歳 カピオラニ・コミュニティ・カレッジ 専攻:リベラル・アーツ   (2014年5月)

 

夢と希望に満ちたハワイの宝、アクティブにパワフルに無限大の可能性を信じて道を切り拓け!

植物と触れ合い、農業を学んでいきたい

KCCの取り組みとの出合い

以前はずっと接客業のアルバイトをしていたのですが、もともと自然が好きだということがあって、植物と携わることをするようになりました。大きく違ったのは、植物の作業にはまったくストレスを感じなかったことです。  

カピオラニ・コミュニティ・カレッジ (以下KCC)の調理科の裏に菜園があると聞いて、興味をもって、そこでボランティアをしていました。ある日、調理科の先生が「ここで働かないか」と声をかけてくれました。今はお給料をもらって学校の取り組みを手伝っています。

 

今、KCCの調理科では、サステナビリティといって、学校から出る廃棄物をいかに再利用できるか、持続できるかという取り組みをしています。具体的には、食堂の裏に大きなケースを並べて、その中に食堂から出る野菜のくずや残飯、新聞紙や学校から出る紙くずを入れています。ミミズはレタスの芯などの野菜くずを食べて、分解してくれるんです。それがたい肥(肥料)になり、畑にとてもいい肥料になるのです。土みたいな匂いなんですよ。

 

このシステムは、2年前からはじめたもので、基本的には調理科の生徒が管理するものなのですが、まだ定着していないところもあって、僕が管理しています。専門で教えている先生もいませんし、詳しい人がいないので、調理科の先生と僕が手探りでやっている状態で す。  

こうした取り組みは、周りの小学校や中学校の生徒を連れてきて、説明をしたりしています。ミミズと新聞を入れたものを彼らの学校に寄付もしています。子どもたちの方が生き物と戯れるのが上手ですし、やはり20歳くらいに なると汚いなどと先入観を持ってしまうこともあるので、子どもたちからこうした意識を徐々に広げていけたらいいなと思っています。

 

もうひとつ別のタイプもあります。ミミズなどは使わずに、もっと大きいケースに野菜のくずと紙を混ぜるのですが、野菜から出る水分と全体の重みで化学反応が起きて分解されるというしくみです。上手くバランスがとれると、一回で大量の分解ができます。調理科の厨房や食堂から毎日残飯が出るため、これくらいの規模がないと間に合わないんです。この取り組みによって、これまですべて捨てていたものを再利用するようになりました。  

さらに、使った油でバイオディーゼルを作る装置での試みもしています。 毎日大量の油が出るものを燃料に変えるために半年前にKCCが購入しました。今は試験的に作って、KCCの科学部で、燃料として合格かどうかの検査をしているところです。これがうまく使えれば、学校内で使うトラックやカートなどを全部バイオディーゼルのエンジンに変えて使っていく計画です。学校の経費削減にもなって環境にもいいですよね。

 

菜園管理は自分にとって自然なこと

僕の仕事のメインは菜園管理です。 働いていて本当に幸せです。バーテンやホテルマンなどのサービス業をしていたときは、食べ物を無駄にすることも目にしたり、いろいろな矛盾を感じずにはいられませんでした。  

この菜園はKCCのダイヤモンドヘッド側にあって、何もない荒地だったところです。そこを調理科の先生が1人で3年かけて菜園を作りました。下に敷き詰められているのは木のくずなのですが、ここは暑くてあまり雨も降らない場所なので、これがスポンジとなって水分を保っています。この菜園から、徐々に自然を取り戻そうという働きかけをしているのです。

 

この菜園にはハワイアンチリペッパーやバジル、ローズマリー、ニラやナスなどを育てていて、ここにあるものは基本的に全部食べられます。一番のコンセプトは調理科の生徒が授業とかで使うような香草や香辛料などをなるべく学校内で栽培して実際に生徒が採りに来ることです。どれがバジルでどれがローズマリーかを目で見て確認して、どうやったら採取できるかを実際に体験してもらって、それを自分で料理で使うというものです。   

今は、生産者と消費者がはっきり分かれています。農家は生産するだけで、 調理している人は、作られた野菜を消費しているだけということです。生産と消費の間をなるべく小さくして、できればその境をなくしたいと思っています。みんな難しいとか言いますが、アメリカには、自分で栽培してそれを使って、レストラン経営している方が結構いるんです。それができれば一番いいなと思います。  

それからこの菜園をなるべく自然の生態系に近い方向に持っていきたいと思っています。こうしてバジルの花が咲いていると蜂が飛んできて受粉してくれます。花が咲けば種ができて、種が風で飛んで自然に生えてくるというサイクルです。  

 

雑草ってすぐに生えてきますよね。 今の農法では、雑草は全部抜くとか、花が咲いたら切り落として、葉っぱだけを出させるなどということが決められています。でも、自然に近い方向に持っていけば、その分手間もかからないですし、害虫もよってこないんです。自然農法はすぐ虫に食べられるからだめだとか言われますが、自然の方がもっと植物は強くて、いきいきしていて味も香 りも全然違いますよ。  

福岡正信という自然農法を確立させた人が書いた「自然農法わら一本の革命」という本に「畑は肥料も与えず、雑草も抜かず、土も耕さずに植物は育つ」 と書いてあり、共感を覚えて、実際にやってみたらそのとおりでした。もちろん雑草を抜くときもありますが、絶対に抜かないといけないとか、絶対に土を耕さないといけないというわけではないんだなということを知りました。  

 

もうひとつ、ここには水耕栽培の装置があります。テラピアという淡水魚がいて、この装置は、魚に餌をあげて、その糞が装置のパイプをつたって、植物が生えている花壇に糞の混じった水が注がれます。すると、植物の根っこが糞からアンモニアなどの毒素を取っ て、それを栄養素に変えて、水をきれいにしているんです。きれいになった水は魚のいる水槽に出てくる。常にこういう循環をしているのが水耕栽培装置です。僕たちは魚に餌をあげるだ け。あとは何もせず、水も取り替えない。それで魚も植物も育つのです。  

生徒がここに育った魚を取りに来て、さばき方を習ったり、魚が赤ちゃんを産んだら小さな水槽に移して、大きくなったら戻したりしているので、命の循環も学べます。  

 

僕がここで働き始めたのが去年の6 月で、この期間で先生も見たことがなかった鳥や昆虫が戻ってきています。 畑も、水耕栽培も長く続ければ続けるほど定着していきます。そこに生き物が住みついてきて自然に近い状態になっていくのです。鳥が水を飲みに来て、その鳥が種や虫を食べたりします。鳥は地面の中にいる虫を食べながら、そこを耕してくれていて、その糞は栄養になるんです。だから僕たちは地面を耕したりしません。鳥やミミズなどの自然の生き物が中の土を掘ってくれる。それでいいんです。人が耕すとむしろ生態系が崩れてしまうということなのです。

@PIXTA

 

夢は独自の農法を編み出すこと

菜園をやっている、農業をやっているということは自分にとって自然なことなんです。この仕事は、先生たちが環境のことを考えたり、生徒に学んでほしいということで、予算を用意して与えてくれていることで、そのことにとても感謝していますし、責任とやりがいを感じています。  

ハワイの食料自給率は、10%にも届かないですよね。プレートランチを買ったら90%が海を超えてきた食べ物なんです。ハワイの人たちの主食のお米、つまり一番自分の身体のエネルギーとなるものが遠くから来ているということですよね。輸出する作物はどうしても農薬や防腐剤を使っています。そういう作物とハワイで採れるものの栄養成分は天と地の差があります。僕は、食べ物はそのまま体調に出てくると思っています。自分たちはハワイの空気を吸って、水を飲んでいるから、このハワイに降り注ぐ太陽や風、降り注ぐ雨で育ったものを食べるのが自然なんじゃないかなと感じています。  

 

今僕が管理している菜園は、まだまだ家庭菜園レベルですが、これからもっと形になっていけばいいかなと思いながら、この菜園を作った先生と2人で頑張っています。今後の課題はもう少し区画整理をして、先生や生徒からフィードバックをもらって、どういう野菜を授業で使うかなどを聞いて、彼らが使うものを多めに育てていくことです。そして、調理科の生徒はもちろん、ほかの学校の学生や日本からの交換留学生、ハワイに住むみなさんにこの菜園に来てもらって、見て、匂いをかいで、触ってみてもらいたいです。植物の苗や種も分けられます。少しでもみんなに「植物は簡単に育てられるんだよ」「それを自分で食べられるんだよ」ということを知ってほしいと思っています。

 

KCCを卒業後は、ハワイ大学のヒロ校かマノア校でTropical Agriculture (熱帯農業)を専攻して勉強する予定です。ハワイは、水を有効に無駄なく活用する技術があって、例えばタロイモの水田は段々畑のようになっていて、引かれる水は必ず元の川の流れに戻っていくよう設計されています。こうしたハワイの伝統的な考えや思考を尊重しながら、アクアポニックス(水耕栽培と魚の養殖)や堆肥作りを学んでいくつもりです。  

最終的には僕の生まれ育った沖縄の文化、風土に適した独自の農法を編み 出していきたいです。沖縄の食料自給率もとても低いので、それを上げる鍵になることを信じて、これからも植物と触れ合って、勉強していきたいと思います。

 

(日刊サン 2014.5.17)