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香りの文化

Bynikkansan

3月 23, 2019

日 本

古代 ― 香料の多くはインド原産

古代、アジアに広まった多くの香料や香辛料の起源はインドでした。紀元前5世紀頃に成立したバラモン教の聖典『ヴェーダ』には、王侯や貴族たちが香膏を身体に塗り、その香りを楽しんでいたと記されています。  紀元前2世紀にシルクロードが開通すると、インドの香料は中国に伝わります。日本に伝わったのは6世紀頃。飛鳥時代、大陸からの仏教伝来と共に、主に仏事のための香として日本に伝えられたといいます。  奈良時代には、唐から訪れた鑑真和上が、沈香や白檀など、数種類の香を調合して作る薫物を伝えました。供香(そなえこう)として仏事で用いられるものでしたが、平安時代に入ると、空薫物(そらだきもの)として部屋や着物に香をたきしめる風習が、皇族や貴族の間で盛んになりました。

 

 

中世

鎌倉時代に政権が貴族から武士に移り、武家社会になると共に香りの嗜好も変わっていきました。さまざまな香を組み合わせた複雑な香りからひとつの香りを鑑賞する習慣が生まれ、日本独自の香り文化が構築されていきます。室町時代には、香木を焚いて香りを聞く香道が確立しました。

 

 

江戸時代

江戸時代に入ると、香料が庶民の手にも届くようになりました。江戸時代初期、庶民の間では「花の露」「伽羅の油」といった芳香のある鬢付け油が使われていました。  中期には香油が登場し、後期には香りのある化粧水が流通するようになります。江戸時代後期の蘭学者・発明家の平賀源内(1728―1780)は、博物学書『物類品隲(ぶつるいひんしつ)』の中で、蘭引(らんびき)という蒸留器を使った「薔薇露」の作り方を紹介しています。1813年に発刊された女性の教養書『都風俗化粧伝』の「花の露の取り方」の項では、ヤカンと茶碗を使って化粧水を作る方法が記されています。この頃には、化粧水が一般的だったことがうかがえます。

 

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蘭引のしくみ

蘭引は、熱水蒸留のための装置です。3層あるうち、1番下の層は(C)「加熱槽(蒸留槽)」で、抽出原料と水を入れて加熱する場所。Cから水蒸気と共に精油成分が上昇し、1番上の層(A)「冷却槽」に届きます。Aには冷水が入っていて、上昇してきた水蒸気と精油成分はAの底で冷やされ、露になり、2番目の層(B)「回収槽」の樋(とい)に溜まります。そして管を通り、外付けの容器に流れ込みます。

 

 

明治時代

明治初期、舶来の香水が日本に紹介されると、日本でも香水が生産されるようになりました。「香水」と書いて「においみず」と読まれ、明治5年に発売された「桜水」を始め、「白薔薇」「原料香水オリヂナル」などの舶来風の香水が相次いで登場しました。

 

明治42年、安藤井筒堂より発売された「原料香水 オリヂナル」。香調は、ローズ、リリー、バオレット、ヘリオトロープなど。 出典:フレグランスのポータルサイトProfice <http://www.profice.jp/notice.html>

 

 

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香十徳

 

香十徳とは、北宋の詩人、黄庭堅(こうていけん・1045-1105)が、漢詩として香の10の特長を記したもの。室町時代、禅僧の一休宗純が書として紹介しました。

  • 感格鬼神 ー 感覚が鬼や神のように研ぎ澄まされ 
  • 清淨心身 ― 心身を清らかにする 
  • 能除汚穢 ― 穢れを除き
  • 能覺睡眠 ― 眠気を冷ます
  • 静中成友 ― 独りの時に孤独を拭う友と成り
  • 塵裏偸閑 ― 忙しいときにはひと時の和みを与える
  • 多而不厭 ― 多くあっても邪魔にならず
  • 寡而為足 ― 少なくても十分満足できる
  • 久蔵不朽 ― 長期間保存しても朽ちず
  • 常用無障 ― 常用しても害はない
 

 

 

 

源氏香
 
源氏香(げんじこう)は、香道の楽しみ方のひとつで、源氏物語を利用した組香のこと。享保(1716年〜1736年)のころに成立したと考えられています。  
 
「源氏香」では、5種の香木を各5包ずつ(計25包)用意します。香元はこの25の香りを交ぜ、中から任意の5包をとってひとつを焚き、客に香炉を順にまわし、香を聞いてもらいます。これを5回繰り返します。香炉が5回まわり、すべての香が終了したあと、客は5つの香りの異同を紙に記します。この書き方こそが源氏香の特徴で、まず5本の縦線を書き、右から、同じ香りであったと思うものを横線でつないでいきます(たとえば、14番目の「澪標」は、1,2,4番目に聞いた香が同じ香りで、3番目、5番目に聞いた香はそれぞれ独立した香りであるという意味)。この5本の線を組み合わせてできる型は52通りあり、この52通りの図を源氏物語五十四巻のうち桐壷と夢浮橋の巻を除いた五十二巻にあてはめます。
 
この対応関係を記したものが「源氏香の図」で、客はこの「源氏香の図」を見ながら自分の書いた図と照合し、源氏物語の該当する巻名を当てるのです。完全に正解すると、記録紙に「玉(ぎょく)」と書かれます。