日刊サンWEB

過去記事サイト

面白い日本語の語源と由来

Bynikkansan

9月 14, 2019

ちやほや     「蝶よ花よ」

甘やかされながら育てられたことを「蝶よ花よと育てられた」と言いますが、この「蝶よ花よ」が「ちやほや」の語源と言われています。平安時代に記された『枕草子』には「みな人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける」という短歌がありますが、この「花や蝶や」が後に「蝶や花や」となり、それが短くなって「ちやほや」になったとされています。

 

 

月並み    俳句の例会「月並みの会」

ありふれていてつまらないことや平凡なことを「月並み」と言います。元々の意味は「毎月」「月ごと」などでしたが、そのうち俳句や和歌など毎月行う例会を「月並みの会」と呼ぶようになりました。代わり映えがしない、つまらないという意味は、明治時代の俳人で革新派だった正岡子規(1867〜1902)が、古い体質を保った俳句を「月並俳句」と呼んだことが由来と言います。  

 

子規は幕末から明治時代にかけての月並の会について「俗受けをねらった模倣や言回しの工夫に終始し、何の感動も無い平凡な作品が多い」と批判しました。

 

 

てんてこ舞い    「てん」は祭囃子の太鼓の音

休む間も無く忙しく、あわただしいことを「てんてこ舞い」と言います。まず「てこ」はとび職人を指し、これはとび職人が使う道具「てこ」に由来します。  

 

江戸時代のとび職人は、祭りの際に山車を組み立て、引きまわす時に前で先導や警備をしていました。そのため、山車の先導は「手棍前」(てこまえ)と呼ばれていましたが、これが「手古舞」(てこまい)と変化しました。「てん」は、祭囃子の太鼓の音を「てん」と表したことに由来します。

 

手古舞が祭囃子の「てん」に合わせて踊る様子は「てんてこ舞」と呼ばれ、休む間も無く踊る様子が忙しさを連想させることから、「慌ただしい」という意味で使われるようになりました。

 

 

天ぷら    ポルトガル語が由来

天ぷらだけでなく、アジア風の揚げ物料理を指して世界中で使われているTempraという言葉ですが、その語源はポルトガル語かスペイン語と言われています。和食の天ぷらの起源は、16世紀(室町時代)、ポルトガルのカトリック宣教師が伝えた小麦粉を使用した揚げ物の調理法でした。17世紀後半(江戸時代前期)に発刊された『食道記』には「てんふら」という名が見られます。  

 

天ぷらはポルトガル語で「調理」を意味する“tempero”が語源という説が一般的ですが、スペイン語で鳥獣の肉を食べずに魚肉の揚げ物を食べる「天上の日」を指す “templo” が語源という説もあります。

 

 

ビビる    戦の際に鎧が触れ合う音

驚くことを「ビビる」といい、比較的若い人が使う口語という印象ですが、実は平安時代から使われていたという説があります。  

 

戦の際に武士の鎧が触れ合うと「ビンビン」という音がすることから、大軍が動いたときの音を「びびる音」と呼んだのが起源と言われています。1180年(平安時代後期)、源氏と平氏が「富士川の戦い」で、川辺の水鳥が一斉に飛び立つ音を平氏軍が源氏軍の「びびる音」と勘違いして逃げた、というエピソードは有名です。

 

 

ブス     トリカブトの根っこ

醜い顔を表す言葉「ブス」を漢字で書くと「附子」。これはトリカブトの塊になった根っこの部分をします。漢方ではトリカブトの塊根を「附子(ぶし)」や「烏頭(うず)」と呼び、鎮痛剤や強心剤として用いられます。しかし、アルカロイドと毒のある成分が含まれているため、摂取すると神経機能が麻痺して無表情になってしまうと言います。  

 

付子を処方された人の無表情さを「附子」というようになり、のちに「醜い顔」を指すようになりました。

 

トリカブトの花

 

簿記(ぼき)   英語の “bookkeeping”

お金や物品などの出入りを記録する方法、「簿記」の語源は英単語の“bookkeping”です。この意外な語源は、明治時代の簿記に関するエピソードに由来します。  西洋式の簿記、bookkeepingは明治6年に大蔵省によって日本に導入されました。その頃の英語の辞書では、 bookkeepingの訳として「帳面算用を主ること」と記されていました。

 

日本式の帳簿の記入は「帳合(ちょうあい)」と呼ばれていたため、簿記の導入に携わった福澤諭吉がbookkeepingの訳に「帳合」をあて“Bryant & Stratton’s Common School Book-keeping”という簿記のテキストを翻訳する際、bookkeepingの音に合わせて「簿記」と字をあてました。のちに諭吉は『福澤全集緒言』で「ブックキーピングを帳合と訳して、簿記の字を用ひざりしは、余り俗に過ぎたる故か、今日世に行はるるを見ず」と述べています。

 

 

マジ    実は江戸時代から使われていた古い言葉

実は江戸時代、既に使われていた「マジ」という言葉。その語源として、芸人が「真面目」を略して「マジ」とした江戸時代の業界用語という説が有名です。江戸時代後期に上演された鶴屋南北原作の『歌舞伎当穐八幡祭(かぶきできあきやわたまつり)』には「ほんに男猫も抱いて見ぬ、まじな心を知りながら…」というセリフがあります。

 

また、「真面目」は「瞬ぐ(まじろぐ)」の「まじ」が語源と考えられており、瞬きをしながらまじまじと見つめる様子から真剣さ表す言葉となり、真面目という意味になったと言われています。  

 

一方で、「マジ?」で「本当?」と疑いを表す意味もあるため、確信をもって「それはありえない」と推量する時に使う古文の助動詞「まじ」が由来という説もあります。

 

 

身の毛がよだつ    身の毛がより一層逆立つ

恐怖や気持ち悪さのあまり身の毛が逆立つように感じることを「身の毛がよだつ」と言います。「よだつ」を漢字で書くと「弥立つ」になり、の元々は「いよだつ」と読まれていました。

 

「弥」は「いよいよ」の「いよ」のことで、「前よりも一層」など程度が高まる様子を表し、「立つ」は、ここでは「逆立つ」という意味。つまり「身の毛がよだつ」は「身の毛がより一層、ますます逆立つ」様子を短く表した言葉と言えます。

 

 

八重洲(やえす)   江戸時代のオランダ人、ヤン・ヨーステンの名前

東京の地名「八重洲」の由来は、江戸時代、徳川家康に仕えていたオランダ人、ヤン・ヨーステン(Jan Joosten)の名前が由来です。ヨーステンの日本語名が耶楊子(やようす)で、その後、八代洲、八重洲と変化しました。ヤン・ヨーステンは、オランダ船リーフデ号の船員で、同じ船にはイギリス人のウィリアム・アダムス(三浦按針)が載っていました。

 

リーフデ号は、1600年、豊後の国の島(現在の大分県臼杵市の黒島)に漂着し、その後浦賀に廻船されたと言います。ヨーステンは家康の信任を得、外交顧問や通訳として重用されました。日本人女性と結婚して江戸城の近くに住んでいましたが、ヨーステンが住んでいた場所は、彼の名前にちなんで八重洲河岸と称されました。  

 

現在の東京駅、八重洲地下街の外堀一番通り沿いにはヤン・ヨーステン記念碑があります。

 

ヤン・ヨーステンの胸像(大分県臼杵市)

 

やばい    射的場の「矢場」

「やばい」は「危険が起こりそうだ、不利になりそうだ」という意味の口語です。新し目の言葉という印象もありますが、その語源は江戸時代にさかのぼり、17世紀始めに出版された滑稽本『東海道中膝栗毛』にも「やばなこと」という表現が見られます。

 

江戸時代、矢場(やば)と呼ばれた射的場では密かに売春が行われていました。その際、矢場に居合わせてしまい、役人から目をつけられたら危ないという意味で、「やばい」という言い方が生まれ、「危険が起こりそうだ」という意味になりました。最初は盗人たちの隠語として使われていたため、現在でも高齢者や新聞などが使うのを避ける傾向にあります。

 

 

割を食う     割当てと実際の差から生ずる損得

「割」にはもともと、割り当てや割り振りという意味があり、そこから役割や分配金、割り当てと実際に起こったこととの差から生ずる損得を指すようにもなりました。

 

「食う」は「肩透かしを食う」や「門前払いを食う」などのように、「よくない仕打ちを受ける」という意味があります。得をする場合には「割がいい」や「割に合う」となり、損をする場合は「割りを食う」「割が悪い」という表現になります。

 

 

 

【参考URL (2019年9月10日閲覧)】 

・語源由来辞典 http://gogen-allguide.com 

・日本語不思議辞典 https://wisdom-box.com

・NIKKEI STYLE 「江戸時代にも短縮語? 『蝶や花や』が『ちやほや』に」https://style.nikkei.com/article/DGXNASDB3000I_Q3A430C1000000/

・ミネルヴァのトリビア 「『マジ』『ヘコむ』『きもい』これ全部、江戸時代からある言葉。」http://athena-minerva.net/seikatu/173/

・TABBIPO.NET 「実は外来語だった日本語28選」https://tabippo.net/loanword/

・草の実堂「江戸時代の天ぷらについて調べてみた」https://kusanomido.com/study/life/food/22861/#i-4

・Wikipedia 「阿吽」https://ja.m.wikipedia.org/wiki/阿吽 

・Wikipedia 「オランダ語から日本語への借用」 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/オランダ語から日本語への借用 

・画像出典 Public Domain, Pixabay, Wikipedia, いらすとや 他

 

 

(日刊サン 2019.09.14)