アメリカの祝祭になったのは19世紀始め
現在アメリカで盛大に行われているハロウィンは、19世紀初頭にアイルランドとスコットランドからアメリカに移住した人々が持ち込んだ習慣が元になっています。19世紀半ばまでは、ハロウィンの習慣に反対だったニューイングランドのピューリタンがアメリカの主権を握っていたこともあり、特定の移民コミュニティー内の行事として行われているに過ぎませんでした。
その後ハロウィンの習慣は東海岸から西海岸へとアメリカ全土に広まっていき、20世紀初頭には人種や宗教的背景などにかかわらず、ほとんどの人に受け入れられるようになりました。 1950年代には、製薬会社、映画会社、テレビ番組などが「トリック・オア・トリート」という言葉を浸透させました。
ガイ・フォークス・ナイト (Guy Fawkes Night)
イギリスでハロウィンよりも盛んに行われるガイ・フォークス・ナイトは、毎年11月5日に行われるお祭りです。1605年の11月5日、ガイ・フォークスと仲間のカトリック教徒たちは、離婚問題のこじれという個人的な理由でローマ教皇庁と対立したイングランド王ヘンリー8世は、1534年に国王至上法を発布して、教皇庁と袂を分かちます。
彼はローマ教皇に代わって自らがイギリス教会の首長であることを宣言。時の国王ジェームズ1世と議員たちを殺害するため、ウェストミンスター宮殿内の上院議議事堂の下まで坑道を掘り、議会の開会式が行われる11月5日に議事堂を爆破しようとしました。
しかし寸前で陰謀が発覚し、主謀者はロンドン塔に送られ、処刑されてしまいました。この事件を記念し、ガイ・フォークス人形を作って町中を1日中引き回し、夜に焼き捨てるという風習が生まれました。
現在は人形の引き回しなくなり、昼間から爆竹や花火を打ち鳴らし、日没後には大かがりなかがり火が焚かれます。また、中世の囚人、貴族、兵士などに扮した人々がパレードを行ったりします。ちなみに英語で「男」や「奴」を意味する“guy”は、Guy Fawkesが由来です。
ハロウィンにまつわるあれこれ
ジャック・オー・ランタン (Jack-o’-Lantern)
ハロウィンのアイコンとも言えるカボチャのロウソク立て、ジャック・オー・ランタンには、よい霊を引き寄せ、悪い霊を遠ざけるという意味があります。
ジャック・オー・ランタンの由来は、アイルランドやスコットランドに昔から伝わる「ランタン持ちの男」の伝承です。生前に堕落した人生を送っていたある男が、死後に天国への立ち入りを拒否されてしまったため、男の魂が「ルタバガ」というカブをくりぬいたランタンに悪魔からもらった石炭を入れ、それを片手に持って彷徨っている姿とされています。
この話がアメリカに伝わると、ランタンはアメリカで生産が盛んだったカボチャで作られるようになりました。スコットランドでは現在もルタバガでランタンが作られています。
ジャック・オー・ランタンの由来 「ウィルオウィスプ」
ウィルオウィスプは、青白い光を放ちながら空中を浮かび回る玉のことで、日本の鬼火伝説の中世ヨーロッパ版です。ウィル・オー・ザ・ウィスプ(will-o’-the -wisp)、イグニス・ファトゥス(愚者火)とも呼ばれ、夜の森や沼、墓場などに出没し、近くを通る旅人の前に現れて道に迷わせたり、底なし沼に誘い込むと考えられていました。
ウィルオウィスプは「一掴みの藁のウィリアム」または「松明持ちのウィリアム」を意味する言葉で、死後もこの世を彷徨い続けるウィル(ウィリアム)という名の男の魂と伝えられています。
そのほか、生前罪を犯したため成仏できずにこの世を彷徨う魂、居場所を求めて彷徨う死者の魂、洗礼を受ける前に死んだ子供の魂、伝説の精霊、ゴブリンや妖精が変身した姿などとして伝承されていました。
極悪人だった松明持ちのウィリアムは、彼に恨みを持つ者によって殺されて魂になり、行き着いた霊界の入り口で聖ペテロに地獄行きを言い渡されそうになりました。ウィリアムは弁舌巧みに聖ペテロを説得。再び人間界に生まれ変わることができました。
しかしながら、ウィルはまたもや悪行三昧の生活に戻ってしまいます。2回目に死んだ際、霊界の入り口で再び聖ペテロに会い、「天国へも地獄へも行くことができない」と言い渡され、煉獄を彷徨うことになってしまいました。それを見た悪魔が彼を哀れみ、ウィリアムに地獄の火から取った燃えさかる石炭を明かりとして渡します。ウィリアムが手に入れた石炭の光は、人々に鬼火として恐れられるようになりました。
ハロウィンカラーの意味
ハロウィンのシンボルカラーの1つ、オレンジ色は秋の収穫や太陽の光を象徴しています。その対照色のように使われる黒は、冬の夜、暗闇、死などの象徴。この2色のハロウィンカラーは、ハロウィン祭の起源である古代ケルト人の収穫祭と死者の霊魂が戻ってくる日の象徴であると共に、明るい太陽の季節の終わりと暗い冬の季節の始まりという節目を表しています。
この2色の次によく使われる紫色は、夜空や月の光を象徴しています。古代ケルト人たちが10月31日の夜、かがり火の周りに集まっている様子が目に浮かぶようですね。
ダック・アップル
ダックアップルに興じる人々(1916年) Howard Chandler Christy’s painting “Halloween” as reproduced in Scribner’s Magazine January 1916 |
ダック・アップル(Duck Apple)は、ハロウィン・パーティーで余興として行われるリンゴ食い競争で、大きいたらいに水を張ってリンゴを浮かべ、手を使わず口でくわえてリンゴを取るというゲームです。アップル・ボビング (Apple Bobbing)とも呼ばれます。
ダック・アップルの起源は、11月1日頃に古代ローマ人が行なっていたポーモーナという女神を讃えるお祭りという説があります。ポーモーナはフルーツや果樹園の女神で、そのシンボルはリンゴ。紀元1世紀、ブリテン島に入植したローマ人がケルト人が居住していた地域にポーモーナの祭りを伝えたことから、ハロウィンの余興として行われるダックアップルの由来になったと考えられています。
アガサ・クリスティの推理小説『ハロウィーン・パーティ』では、ダック・アップルのほか、小麦粉の山の上に6ペンス硬貨を置き、それを落とさないよう順に小麦粉を削り取っていく「小麦粉切り」や、皿に盛った干しブドウにブランデーをかけて火をつけ、そこから干しブドウをつまみ取る「スナップ・ドラゴン」などがハロウィンの伝統的なゲームとして紹介されています。
【参考URL】 ・Mark Cartwright. (2016). Celts, from https://www.ancient.eu/celt/ ・Prof. Geller. (2017) .Will-o’-the-wisp, from https://mythology.net/mythical-creatures/will-o-the-wisp/ ・Guy Fawkes Bonfire Night. from http://www.bonfirenight.net/gunpowder.php ・What is the origin of Jack-o-Lanterns?. from http://mentalfloss.com/article/12865/whats-origin-jack-o-lanterns ・Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Halloween 画像出典 Public Domain, Wikipedia, Pixabay 他
(日刊サン 2019.10.26)