打ち上げ花火とは
「玉」の構造
打ち上げ花火は、球状の花火の中に仕込まれた火薬を破裂させ、その音や形、火花の色などを楽しむものです。打ち上げ花火の本体は「玉」と呼ばれる球で、火薬と金属の粉の混合物を形成した「星」が詰められ、紙で包まれています。星は花火が破裂した時の形を作る主要なもので、丸型、四角、錠剤型などがあり、大きさは数㎝ほど。
花火の色は、火薬に混ぜた金属が燃焼するときに出す色「炎色反応」によるものです。深い紅色はリチウム、黄色はナトリウム、赤寄りの橙色はカルシウム、淡い紫色はカリウム、青みがかった緑は銅など、金属の種類や混ぜる割合によって異なる色を出します。
打ち上げ
打ち上げる時は、主に「電気点火方式」という、離れた場所から点火できる方法が用いられます。打ち上げる時、玉は打ち上げのための火薬が入った長い筒に入れられます。点火装置のスイッチから筒の底まで線が伸び、筒の底に敷かれた打ち上げ火薬に引火して玉が上がります。
その他、「投げ込み」と呼ばれる点火方法もあります。投げ込みは、打ち上げ火薬を付けた玉を筒の上から投げ入れ、玉に付いている発射薬を筒の底に敷かれた焼金(赤くなるまで熱した金属)に触れさせて点火します。
空中で花火の形になるしくみ
打ち上げ花火の玉は、打ち上がると同時に、導火線にも引火するようになっています。導火線の火は玉が上昇すると共に燃えていき、一番高く上がった辺りで「割火薬」に引火して玉を破裂させ、その後「星」に引火しながら散らばり、花火の形を作ります。
打ち上げ花火の発射薬の量や導火線の長さは玉の大きさによって異なり、中の星には、色が変わっていくもの、落ちる途中で燃えて光るもの、光の線を引きながら燃えるものなど、さまざまな種類があります。
「玉」の大きさ
打ち上げ花火の玉の大きさは、伝統的な単位の寸と尺で表示されます。小さいものは二寸玉で、直径は約6cm、大きいものは二尺玉で、直径は約60cm。さらに大きい三尺玉、四尺玉などもあります。
二尺玉は開いたとき直径約500m程度、世界最大といわれている四尺玉はなんと直径約800mまで広がるのだそう。それに対し、世界最小と言われる打ち上げ花火は、玉の直径が1cm、打ちあげの高さは2mです。
あるテレビ番組の企画では、開花時の直径が推定1kmにもなる「四尺三寸大千輪」の花火玉を作ったのだとか。しかし、さすがに玉が重過ぎて打ち上げ後に上昇できず、地面に近いところで爆発してしまったのだそうです。
打ち上げ花火の種類
割 物
星がボール状に広がって開く花火
菊物
割物花火の中でも代表的なものが菊物です。これは、星が菊花のように橙色の尾を引きながら広がります。菊花の先が紅に変化するものは「菊先紅」、青に変化するものは「菊先青」、銀に変化するものは「菊先銀」と言います。
また、菊の先で閃光を放つものは「菊先光露」、菊が咲いた後で紅になり、その後青になるものは「菊先紅青」と呼ばれます。
変化する色は、他にも黄、青、緑、銀、紫、桃色などがありますが、一昔前までは、青、紫、桃色は色を出すのが難しいと言われていたといいます。
菊物の種類 ― 八重芯菊、三重芯菊、四重芯菊
八重芯菊は、親星の内側に二層の芯があり、開いたときに三層の輪を作るもの。玉の中心は1番芯、そのすぐ外側が2番芯、そして1番外側が親星になります。花が開くとき、親星の色が変化するものや、色が2回変化するものもあります。これは江戸時代の花火職人が苦心して作り出したもので、当時、芯を二重以上に作ることはできないと言われていました。そのため「これ以上のものはない」という意味で「八重」と名付けられました。
しかしその後、花火技術の発展により二重よりも多い「三重芯菊」と「四重芯菊」が誕生しました。三重芯菊には三層の芯があり、開いたときに四層の輪を作ります。四重芯菊は四層の芯があり、五層の輪を作ります。そんな訳で、八重芯菊は、三重芯菊、四重芯菊よりも芯の数が少ない花火になってしまいました。
ちなみに、親星の内側に五層の芯を持ち、六層の輪を作る「五重(いつえ)芯菊」もあります。作るのに高度な技術が必要な四重、五重の花火は、花火師の競技大会などによく出品されるのだそうです。
牡丹物
菊先物は花火が広がるときに光の尾を引きますが、尾を引かないものを牡丹物と言います。牡丹物には「引き」を作る火薬層がなく、光が点状になって広がっていきます。菊物は花火が開いた後、少し間を置いて色を変えますが、牡丹物は開いた直後から花火に仕込まれた色を出します。
紅の光を出すものは「紅牡丹」、青は「青牡丹」、紅から緑の光に変わるものは「紅緑牡丹」などと呼ばれます。
型物
割物の変形で、ハートやスマイル、土星などの形になる花火を「型物」といいます。起源は意外に古く、江戸時代、花火職人たちが炭火の色合いしかなかった花火を工夫し、いろいろな意匠を表現しようとしたのが起源と言われています。
現在では、夜空にドラえもんなど、より複雑なキャラクターを表現する型物もあります。見たことがある方は覚えがあるかと思いますが、型物は二次元の形を三次元の空間で表現するため、地上から見る角度によって変形して見えることもありますね。
小割物
割物の小さい版で、玉の中に小割玉というさらに小さな玉が仕込まれています。代表的なものに「千輪菊」があります。これは、玉の中にさらに小さな玉が仕込まれており、沢山の小花が咲くように空に浮かび上がる花火です。その他、千輪菊よりも小さい玉が仕込まれた「彩色千輪」や、椰子の葉のように広がる「椰子」、複雑な色を出す「万華鏡」、飛び交う蝶を表現した「群蝶」など、さまざまな種類があります。
ポカ物
ポカ物は「ポカッ」と2つに割れ、中に仕込まれた星などの細工がこぼれ落ちるように開く花火のことです。割物花火に比べて外皮が弱めに作られており、火薬も少なくなっています。
ポカ物の代表「柳」は、打ち上げられて空中で割れると、光の跡が柳のようにしなだれた線を描き、余韻を残しながら落ちていきます。空中で鼠花火を放出し「シュルシュル」という音を立てながら光がさまざまな方向へ動く「蜂」もポカ物の仲間です。
打ち上げ花火、鑑賞のポイント
花火のプロやマニアたちは、開いたときに美しいとされる打ち上げ花火の特徴をつかみながら鑑賞するのだそうです。まず「玉の座り」がしっかりしているかどうか。これは、玉が空中に昇りつめた点で開いているかどうかということです。
そして「盆が取れているかどうか」。これは、夜空で開いたとき、星がお盆のような丸型になっているかどうかという意味。さらに「消え口が揃っているかどうか」。これは、花火が開いたときに星の色が一斉に変わり、一斉に消えているかどうかということです。わざと消え口をずらしている花火もあるのだそう。
その他、星がまんべんなく広がっているか、発色がよいかどうか、花火師によって違う配色の仕方などが花火鑑賞のポイントと言われています。