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紅葉 ― 色鮮やかな紅葉のメカニズム 日本の 紅葉狩りの 文化と歴史

Bynikkansan

9月 22, 2018

もうすぐ10月。日本の季節は本格的な秋に入ります。輝く赤や黄金色が広がる紅葉の景色は日本の秋の風物詩のひとつ。その紅葉を楽しむ「紅葉狩り」は平安時代から親しまれています。ところで皆さまは、秋になると、なぜ一部の木の葉の色が綺麗に変わるのかをご存知でしょうか?今回のエキストラ特集では、木の葉が紅葉する仕組みを中心に、紅葉狩りの歴史や紅葉の豆知識などをご紹介したいと思います。

 

???紅葉とは????

 

 

紅葉とは、主にカエデ科に属する広葉樹※が葉を落とす前に葉の色が変化する現象のことです。植物学的には、葉の老化反応の一部と考えられています。葉が赤色に変化するのを「紅葉(こうよう)」、黄色は「黄葉(こうよう・おうよう)」、褐色は「褐葉(かつよう)」と言います。同じ種類の木でも、それぞれの個体の色素を作る能力の違い、気温、湿度、紫外線などの環境の違いなどによって違う色に変わったり、紅葉の進むスピードが違うことがあります。

 

紅葉する草や常緑樹も  

紅葉する草や低木は「草紅葉(くさもみじ)」と言います。また、広葉樹だけでなく、常緑樹にも紅葉する木があります。紅葉する常緑樹は、緑の葉に混ざって赤や黄色の葉を付けるものが主です。 日本の紅葉  日本の紅葉は、9月頃に北海道の大雪山から始まって南下していき、日本列島を縦断するまで1カ月程かかります。紅葉の見ごろの推移は紅葉前線と呼ばれます。紅葉が始まってからの見ごろは20〜25日前後続きます。時期は、北海道から東北地方にかけては9月末ごろから10月、関東から九州にかけては11月〜12月上旬頃までです。朝晩の冷え込みが起こりやすい内陸部や山間部ではこれよりも早い時期に紅葉が始まります。

 

紅葉する条件とは?  

最低気温が8℃以下になると紅葉が始まり、5℃以下になると葉の色が急速に変わっていきます。美しい紅葉が見られる名所には、渓谷、高原、標高の高い所の湖・沼・滝などが多いですが、その理由として、昼夜の気温の差が大きく、空気がきれいで適度に水分があるなどの条件が揃っているということがあります。特に昼夜の気温の差が大きいほど紅葉のメカニズムが促され、綺麗に色付いた葉が一斉に紅葉します

 

 

???紅葉のメカニズム???

 

植物の葉は緑に見えるのは、光合成が行われる過程で光を吸収するクロロフィル(葉緑素)が含まれるためです。夏の間、落葉広葉樹の葉にあるクロロフィルは活発に光を吸収しますが、秋になり日照時間が短くなると、老化反応を起こして分解され、別な色が出現します。  光合成に必要な組織が分解されます。それと同時に、葉に蓄えられていた栄養は幹へと回収されていき、春に再利用するために蓄えられます。葉から幹へ十分に栄養が回収されると、植物ホルモンの一種「エチレン」が働き、葉柄の付け根に離層ができて枝から切り離されます。これによって、冬の間の不必要な水分やエネルギーの消費を防いでいるのです。

 

【紅葉する木の例】

ウコギ科―タラノキ

ウルシ科―ツタウルシ、ヤマウルシ、ヌルデ

カエデ科―イロハモミジ、サトウカエデ、ハウチワカエデ、メグスリノキ

スイカズラ科―ミヤマガマズミ、カンボク

ツツジ科―ドウダンツツジ、ヤマツツジ、レンゲツツジ

ニシキギ科―ニシキギ、ツリバ

ブドウ科―ツタ、ヤマブドウ

バラ科―ウワミズザクラ、ナナカマド、ヤマザクラ

ミズキ科―ミズキ

 

メグスリノキ

カエデ科のメグスリノキには「ロドデノール」という視神経を活発化する成分が多く含まれています。古代から漢方薬として利用されており、葉や樹皮を煎じたものを飲んだり、洗眼薬として使います。

 

黄葉…イチョウなどの黄色

 

黄葉の黄色は「カロテノイド」という色素(※)に由来します。カロテノイド色素の1つ「キサントフィル類」は若葉にも含まれていますが、春から夏にかけては、クロロフィルの影響による緑色の中に隠れているため見えません。秋になると、葉のクロロフィルが分解されて黄色が見えるようになります。カロテノイド色素にも、光害から植物を守る働きがあります。老化する過程ではカロテノイドを含むさまざまな組織が分解されるため、その間は光害から葉を守る別の成分が必要になります。アントシアンは、葉の老化の過程でカロテノイドなどの代わりに葉を守る役割を担っています。

 

 

【黄葉する木の例】

 

イチョウ科―イチョウ

カエデ科―イタヤカエデ

カバノキ科―シラカンバ

ニレ科―ハルニレ

ヤナギ科―ヤナギ、ポプラ、ドロノキ

ユキノシタ科―ノリウツギ、ゴトウヅル

 

褐葉…ブナなどの褐色

 

※タンニンとは、緑茶や赤ワインなどにも含まれるポリフェノールの総称。

 

 

葉が褐葉になるメカニズムは、基本的には黄葉と同じです。それに加えて、タンニン※性の物質や、それらが酸化して重なり合った褐色物質「フロバフェン」が蓄積されるため、褐色になります。また、黄葉や褐葉の色素は、紅葉にも含まれており、本来は赤くなる葉のアントシアンが少なかったりすると、褐葉になることがあります。

 

【褐葉する木の例】

スギ科―スギ、メタセコイヤ

ズズカケノキ科―スズカケノキ

トチノキ科―トチノキ

ニレ科―ケヤキ

ブナ科―カシワ、ブナ、ミズナラ

 

モミジとカエデの違い

 

サトウモミジなど、モミジという名前の植物は全て「ムクロジ科・カエデ属」の植物で、実は植物学的にはモミジという植物はありません。カエデ属の植物、いわゆるカエデは約130種類あり、世界中に分布しています。日本語の「カエデ」は、古代、葉がカエルの手に似ていることから「かへるで」と呼ばれていました。これが訛ってカエデになったと言われています。

 

紅葉の代表格、モミジ

「もみじ」という言葉は、上代語(6世紀末のヤマト王権〜奈良時代以前の古代語)で「紅葉・黄葉する」という意味の動詞「もみつ」「もみち」が由来です。「もみつ」は平安時代に「もみづ」と濁音化し、連用形の「もみぢ」が使われるようになりました。冷たい秋の時雨や霜に揉み出されるように色づくことを表す「揉み出づ」がなまったものが「もみづ」という説もあります。  また、白洲正子著の『木―なまえ・かたち・たくみ』(2000年・平凡社)には、次のような一節があります。  “「カエデ」の古名を「かへるで(蛙手)」という。葉の形が蛙の手に似ているからである。ふつうは「もみじ」とよんでいるが「万葉集」では主に「黄葉」の字を宛てており紅葉と書くようになったのは平安期以後のことらしい。本来「もみじ」は動詞であり草木が秋になって変色することを「もみつ、もみつる」などといったが、カエデが一番美しく紅葉するので、その別名詞となったのであろう。”

 

奥山に 紅葉(もみぢ)踏みわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき」 猿丸太夫 意訳:「人里離れた奥山で、鮮やかに散り敷かれた紅葉を踏み分けながら雌鹿が恋しいと鳴いている。雄鹿の声を聞くとき、秋は悲しいものだと感じられることだ」 「後撰和歌集」より 村上天皇の命令で編まれた勅撰和歌集。951〜958年頃に成立。 「かくばかり もみづる色の 濃ければや 錦たつたの 山といふらむ」 紀友則 意訳:このように見事な紅葉の鮮やかさこそ、錦の龍田山と言うのでしょう。

 

「もみつ」が使われている和歌

 

『万葉集』より 飛鳥時代〜平安平安時代に編まれた日本最古の和歌集。 「言とはぬ 木すら春咲き 秋づけば 毛美知(もみち)散らくは 常を無みこそ」 大伴家持 意訳:物言わぬ木でさえも、春に花を咲かせ、秋になると紅葉して葉を散らせる。変わらないものは何一つないのですね 「子持山 若かへるての 毛美都(もみつ)まで 寝もと吾は思ふ 汝は何どか思ふ」  詠み人知らず 意訳:児毛知山よ、私は山のカエデの若葉が紅葉するするまでずっと寝ていたい。あなたはどうお思いでしょうか。― 児毛知山という名前に「子持ち」をかけており、共に寝ることで子を持つ、つまり「結婚しよう」というプロポーズの歌と言われています。児毛知山は群馬県渋川市にある子持山(1,296m)のことで、古代から性崇拝の神山として崇められていました。

 

「我が衣 色取り染めむ 味酒 三室の山は 黄葉(もみち)しにけり」 柿本朝臣人麿 意訳:私の衣を染めましょう。三室の山は美しく黄葉していることだ。―「味酒」は三室にかかる枕詞で、「三室の山」は神を祀っている山のこと。ここでは奈良県桜井市の三輪山を指します。 「古今和歌集」より 平安時代前期の勅撰和歌集。全20巻。

 

もみじ狩り

 

万葉集や源氏物語などにも見られるように、日本人は古代からもみじ狩りを楽しんでいました。もみじ狩りの習慣は平安時代の貴族の習慣に由来します。「狩り」とは本来、獣を捕まえるという意味でしたが、平安時代の頃には果物などを採るという意味でも使われるようになりました。その後、狩猟をしない貴族が現れ、紅葉などの草花を手に取って眺める習慣が始まったため「狩り」は草花を眺めることにも使われるようになったといいます。平安時代のもみじ狩りは、紅葉した木の枝を手折り、手のひらにのせて鑑賞するというスタイルでした。  江戸時代に入ると、庶民ももみじ狩りを楽しむようになりました。各地の大名は家来を引き連れて紅葉の名所を訪れ、8代将軍吉宗は、桜の名所の飛鳥山にカエデを植樹しました。当時、飛鳥山は下谷の正燈寺、品川の海晏寺と並んで紅葉の名所だったようです。明治時代には、数日間の旅行に出かけ、温泉と共にもみじ狩りをするという楽しみ方が登場しました。

 

平維茂の鬼退治を描く能『紅葉狩』

 

『紅葉狩』は、室町時代の猿楽師、観世小次郎信光(かんぜこじろうのぶみつ・1435年?−1516年)によって書かれた能の一曲です。 【登場人物】 シテ:紅葉見物の上臈(実は鬼) ツレ:紅葉見物の美女一行 ワキ:平維茂 ワキヅレ:平維茂一行 アイ:美女一行の供者、八幡宮の神 作リ物:大小前に一畳台、その上に岩山と紅葉 【あらすじ】  信濃国(現在の長野県)の戸隠山に、紅葉という鬼女が住んでいました。紅葉は、山を降りては村の人々を餌食にしていたため、帝は平維茂(たいらのこれもち)にこの鬼女を退治するよう命じます。維茂が戸隠山に向かうと、美しい上臈の女性たちが紅葉の下で酒宴を催していました。彼女たちは維茂を宴に誘います。美女の舞と共に酒を嗜んだ維茂は、いつしか深い眠りに落ちてしまいます。紅葉見物の上臈たちは、実は鬼女の紅葉とその手下たちでした。彼女たちの罠にかかり眠っている維茂の前で鬼女が本性を現すと、維茂の夢の中に神が現れてお告げをし、神剣を与えました。維茂は目を覚まし、神に賜った神剣で丁々発止と鬼女の紅葉を退治。戸隠山に平和な日々が戻りました。

 

 

 

日本の紅葉3名所

 

長野県駒ヶ根市―中央アルプス・千畳敷カール  「カール」とは2万年前の氷河期の氷で削り取られたお椀型の地形のこと。モミジやイチョウの紅葉が鑑賞できる名所。高山植物の宝庫としても知られています。約40分で周遊できる遊歩道が整備されている他、駒ヶ岳ロープウェイからは黄金色の山肌一面を見下ろすことができます。

 

【見ごろ】9月下旬〜10月上旬 【住所】長野県駒ヶ根市赤穂1 【行き方】●バス・JR駒ヶ根駅からバスに乗り約45分、「しらび平」下車。ロープウェイに乗り換え約8分「千畳敷」駅下車。●車・中央自動車道駒ヶ根ICから菅の台バスセンターへ。マイカー規制のため、バスに乗り換えて約30分、「しらび平」下車。ロープウェイに乗り約8分、「千畳敷」駅下車。 【HP】http://www.kankou-komagane.com/alps/ 栃木県那須郡―那須高原  那須高原は、那須岳を始めとした那須連山の裾野へと広がっています。茶臼岳、朝日岳ではモミジ、ナナカマド、ドウダンツツジの紅葉が楽しめます。茶臼岳の山腹から山頂にかけてのロープウェイや、麓の県道17号那須高原線沿いのドライブウェイなどから、色鮮やかな紅葉の景色を鑑賞することができます。 【見ごろ】10月上旬〜中旬 【住所】栃木県那須郡那須町那須高原 【行き方】●電車:JR黒磯駅からバスで約60分、那須ロープウェイ山麓駅下車。●車:東北自動車道那須ICから約30分。 【HP】http://www.nasukogen.org 長野県松本市―上高地  日本を代表する山岳景勝地。特に涸沢カールはナナカマドの赤やオレンジ、ダケカンバの見事な黄葉に染まります。 【見ごろ】9月下旬〜10月上旬 【住所】長野県松本市安曇上高地 【行き方】●電車:松本電鉄上高地線新島々駅からバスで約65分、上高地バスターミナル下車。●車:長野自動車道松本ICから沢渡まで約60分。マイカー規制のため、沢渡からバスに乗り換え約30分。上高地バスターミナル下車。 【HP】http://www.kamiko chi.or.jp

 

もみじに まつわる あれこれ

食用になるカエデ(モミジ)がある!

愛知県豊田市の香嵐渓では、カエデの葉を1年間塩漬けにして灰汁抜きをしたものを、砂糖入りの衣にくぐらせて揚げ、天ぷらにして食べることがあります。

 

カナダの国旗のアレは…?

カナダの国旗は、サトウカエデの葉がモチーフとなっています。カナダの名物、メープルシロップは、サトウカエデの樹液を煮詰めたものです。

 

「もみじおろし」は どうやって作るの?

刺身のツマなどの「もみじおろし」は、ダイコンに穴を開けて唐辛子を詰め、一緒にすりおろします。

 

 

(日刊サン 2018.09.22)