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日本文化と木

Bynikkansan

1月 26, 2019

日本庭園の役木

 

石川県金沢市の兼六園。流枝松や庵添えの木が見える

役木(やくぼく)とは、日本庭園の要所に植えられる庭木のことです。景観の良さを強調したり、他のものと合わせたりして庭の趣を演出するほか、危険を防止する目的で植えられる木もあります。ここでは、いくつかの役木をご紹介しましょう。

 

 

 

【門冠り(もんかぶり)の木】

門に添えるように植えられます。よく使われる木はマツとマキ。

 

【正真木(しょうしんぼく)】

築山庭(つきやまにわ)の主木。マツ、マキ、モチノキ、モッコク、ヒノキなど。

 

【景養木(けいようぼく)】

池の中島などに、正真木と対比した美しさを演出するために植えられます。ゴヨウ松、イブキ、イヌツゲ、キャラボクなど。

 

【見越松】

前景を引き立たせるため、正真木の後ろの垣根の縁などに植えられます。マツ、カシ、ウメなど。

 

【寂然木(せきぜんぼく)】

南庭の東側に植えられます。常緑樹のマツ、スギなど。

 

【燈障りの木】

石燈籠の趣を出すため、燈篭の横や後ろに植える木。マツ、シイ、モチノキ、マキなどの常緑樹が用いられます。

 

【燈障りの木】

石燈籠の近くに植えられます。夜になって燈篭に火が入ると、細枝が火を灯す部分にかかって風にゆらぐという景をつくります。カエデ、ウメモドキ、ニシキギなど。

 

【鉢前(はちまえ)の木】

縁先の手水鉢に添えるように植えられます。ナンテン、ウメモドキ、クロチク、キャラ、ヒメクチナシなど。

 

【庵添え(いおりぞえ)の木】

庭の東屋などに添えられる木。軒よりも高めに植えられ、木陰をつくります。マツ、カキ、クリなど。

 

【見付の木】

茶庭の内腰掛待合の正面に植えられる真っ直ぐで高い木。マツ、イチョウ、カヤ、モッコクなど。

 

【見返りの木】

帰りに眺められるよう、門の近くに植えられます。カヤ,モチノキ、モッコク、イチョウなど。

 

 

香木

沈香(じんこう)と白檀(びゃくだん)に代表される香木は、薄く削ったものを加熱し、芳香を楽しむために使われる木材です。白檀は加熱しなくても香りがあるため、仏像、扇子、数珠などの材料としても用いられます。

 

沈香 

‥‥質の良い沈香は「伽羅」

沈香は東南アジアに自生するジンチョウゲ科ジンコウ属の植物です。沈香に関する日本最古の記録は『日本書紀』に記されています。推古天皇3年(595年)4月、淡路島に木片が漂着し、その木を火の中に入れるとよい香りがした。そこでその木を朝廷に献上したところ、大変重宝されたという内容で、これが日本に伝来した最初の沈香と考えられています。  

 

沈香は、風雨や害虫で傷んだ際、防御策として傷んだ部分の内部に樹脂を分泌します。蓄積した樹脂を乾燥させ、その部分を削り取ったものが沈香として使用されます。原木は軽いのですが、樹脂が沈着することで比重が増して水に沈みます。この性質が「沈香」という名前の由来です。

 

幹、花、葉を含め、そのままだとほぼ無香ですが、熱すると独特の芳香を放ちます。同じ木から採取した沈香木でも、部分によって微妙に香りが違うため、よく香道の「組香」に使われます。  

 

沈香は香り、産地などでいくつかの種類に分類されますが、中でも特に質の良いものは伽羅(きゃら)と呼ばれます。

 

 

白檀 

‥‥マイソール産の高品質白檀は「老山白檀」

白檀の原産地はインド。古代サンスクリット語でチャンダナと呼ばれますが、これは英語名“sandalwood” の由来にもなりました。紀元前5世紀頃には既に栽培されており、高貴な香木として珍重されていたと言います。

 

現代の白檀の産出国は、インド、オーストラリア、インドネシアなど。ハワイ、ニュージーランド、フィジーなどでも産出されますが、香りが少ないため、あまり香木として利用されることはありません。

 

インドのマイソール地方で産する白檀は最高品質とされ、「老山白檀」という別称がつけられています。古代、白檀はインドから中国へ仏教と共に伝わり、日本にも飛鳥時代の仏教伝来と共に伝わったと言われています。

 

 

蘭奢待 

‥‥正倉院に収蔵されている 特別な伽羅

東大寺正倉院の中倉薬物棚に収蔵されている香木、蘭奢待(らんじゃたい)は、長さ156cm、最大径43cm、重さ11.6kgの香の原木です。成分からは伽羅に分類されます。聖武天皇の時代(724–749)に中国から伝わったものとされていたが、実際は10世紀以降に渡来したとする説が有力です。  

 

正倉院宝物目録では「黄熟香(おうじゅくこう)」という名前で記されています。蘭奢待という名前は、三文字の中に「東大寺」の名が隠されている雅名です。中心部の樹脂化していない部分は質が劣るためにノミで削られ、空になっています。香木にこのような加工を施すのは900年頃から始まったため、それ以降の時代に加工されたと考えられています。

 

【権力者たちに珍重された蘭奢待】  

「天下第一の名香」「古めきしずか」と言われ、蘭奢待を聞くことは権力者にとってのステイタスのひとつだったといいます。足利義満、足利義教、足利義政、土岐頼武、織田信長、明治天皇らが切り取って香りを聞いたとされています。そのうち、足利義政、織田信長、明治天皇の3人は、付せんで切り取り跡が明示されています。  

 

東大寺の記録では、信長は1寸四方2個を切り取ったとされています。徳川家康も興味を持ったのですが、1602年、東大寺に奉行を派遣して正倉院宝庫の調査をした際、蘭奢待を切り取ると不幸が起こるという言い伝えがあったため、切り取らなかったのだとか。

 

【切り取り跡は38カ所】  

2006年、大阪大学の調査により、蘭奢待には少なくとも38カ所、切り取られた跡があることがわかりました。切り口の濃淡から切り取られた時代に幅があることが分かり、また同じ場所から切り取られたこともあるため、切り取られた回数は50回以上と考えられています。

 

権力者以外にも、採取した現地人、日本への移送時に手にした人々、管理していた東大寺の関係者などによって切り取られたのではないかといわれています。

 

 

(日刊サン 2019.01.26)